メカラス連邦諸国記

広之新

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第2章 青磁の皿にかけた夢 ーユーゴス国ー

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 ユーゴス国のバスク王は王座に座り、ジョレー執行官の報告を聞いていた。
「我が国の磁器の工房は衰退しております。それで隣の国々から磁器を取り寄せております。それを効率よくするためにドゴー商会が一手に取り扱います。民のため、お許しいただきますように。」
「我が国の磁器の工房を応援するべきではないのか。」クレオ大臣が口をはさんだ。
「いえ、あの有名なベーカー工房の主人も寝込んでいる様子。わが国では磁器の生産はもう不可能でございます。」ジョレー執行官が答えた。その時、取次の者が入ってきた。
「ベーカー工房から王様に磁器の献上に参っております。」
「おお、あのベーカー工房か。許す。ここへ。」バスク王は言った。
(まずい。磁器の工房が壊滅した話をしているのに、こんなときに磁器の献上か。しかしヤコブは病気のはず・・・)ジョレー執行官は不審に思った。
 ピーターとエイダ、その後ろに磁器の入った箱を捧げ持つ老人が続いた。3人は王座の前にひざまずいた。
「王様。お約束通り、年に一度のベーカー工房から献上の磁器を持参いたしました。お検めを。」ピーターは皿の入った箱を捧げて言った。その前にジョレー執行官が立ちふさがった。
「貴様。これは誰の作だ?」ジョレーは詰問するように言った。
「ジョレー。何事か?」その様子にバスク王が尋ねた。
「はっ。王様。お騒がせして申し訳ありません。ただ不審の儀がございます。ベーカー工房のヤコブは病で磁器が作れぬ状態と聞いております。これはヤコブの作ではございませぬ。」ジョレーが言った。その言葉に一同はざわめいた。しかしピーターは顔を上げ、
「確かにこれは父ヤコブの作ではなく、息子の私の作でございます。しかしベーカー工房のものをとのお約束でございましたので、私が丹精込めた作った磁器を持参いたしました。これは父のヤコブも認めた品でございます。」と言った。
「ええい! 黙れ! 黙れ! この無礼者め! 代替品を王様に献上しようというのか! 下がれ! こうなった以上、ベーカー工房は取りつぶしてやるぞ。」ジョレー執行官は大声を上げた。すると、
「はっはっは・・・」急に大きな笑い声が聞こえた。それは後ろに控える老人からのものだった。
「じじい! 何がおかしい!」ジョレー執行官が叫んだ。
「お前がドゴー商会とつるんでこの国の工房を閉鎖に追いやっているにはわかっておる。それに飽き足らずこのベーカー工房まで潰そうというのか!」老人は立ち上がった。その顔は威厳に満ちていた。
「なんということを! 王様の面前で無礼を働く狼藉者め! この者たちをとらえよ!」ジョレー執行官はカンカンに怒って衛兵に命じた。衛兵が近づこうとすると、老人は呪文を唱えた。するとたくましい大男が現れた。
「ゲンブ。この者たちに指一本触れさすな。」老人が命じると、
「はい。かしこまりました。」ゲンブは答えた。向かってくる衛兵たちを押し返して投げ飛ばしていった。
 その大きな騒動に驚いたバスク王は王座から立ち上がった。彼の目にその老人がはっきり見えた。
「ん?」バスク王は首をひねった。この老人をどこかで見たことがあるような気がしていた。それに気づいた老人はバスク王に向かって、
「バスク王よ。私をお忘れかな?」と言った。
 バスク王はその老人の顔をもう一度、じっと見た。すると何かを思い出したようにはっとして、すぐに、
「やめよ! 退け! 退くのだ! 皆の者、控えるのだ!」とあわてて大声で言った。そしてその場から降りてきてその老人の前に片膝をついて頭を下げた。
「ハークレイ法師様。お久しぶりでございます。」バスク王が言った。
「えっ! あの稀代の方術師のハークレイ法師様!・・・」周りの者も驚いてあわてて片膝をついて頭を下げた。
「あのご老人がハークレイ法師様だとは!」ピーターとエイダも驚いて頭を下げると、お互いに顔を見合わせた。
「バスク王よ。聞いた通りじゃ。この者がこの国の磁器をつぶしたのじゃ。」ハークレイ法師は言った。それを聞いてジョレー執行官はそこから逃げようとした。
「そいつを逃がすな!」クレオ大臣が命令すると、衛兵がジョレー執行官をつかまえた。
「さて、バスク王よ。このピーターが作った磁器を見ていただけるかな。」ハークレイ法師は言った。ピーターが箱のふたを開けてバスク王に捧げた。
「はっ。謹んで拝見いたします。」バスク王はそう言うと、その青い皿を手に取ってじっと眺めた。
「青磁の皿でございますな。これはなんと美しい。形もさりながらその色はなんとも深く心惹かれる風合いにございます。天下の名品と申しても過分でないと存じます。」バスク王が言った。
「さすがはバスク王じゃ。物の価値をよくお分かりになられるようじゃ。この皿を受け取っていただけるかな。」ハークレイ法師は言った。
「はっ。喜んで。」バスク王はハークレイ法師に言うと、ピーターの方を向いた。
「ピーターよ。素晴らしきこの青磁の皿、確かに受け取った。礼を言うぞ。お前がいればベーカー工房、いやこの国の磁器の工房は息を吹き返そう。これからも頼むぞ。」バスク王が言った。
「もったいないお言葉でございます。私の力の及ぶ限り、務めさせていただきます。」ピーターは言った。
「よかったのう。」ハークレイ法師はピーターとエイダに声をかけた。
「すべて法師様のおかげです。どんなにお礼を申し上げたらいいか・・・」エイダは言った。
「いや、これも2人ががんばったためじゃ。素晴らしい磁器を作り続けて下されよ。」ハークレイ法師はやさしく言った。

 その後、ユーゴス国の磁器は名産となった。その中でもベーカー工房のピーターの作は光り輝いていた。それでもエイダはベーカー工房の磁器の皿を安価でカロサの市場で売り続けた。多くの人に素晴らしい磁器の皿を使ってもらうために。
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