痛み。

相模とまこ

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第2章

#10.変化する(3)

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浴室の戸が開く音が聞こえた。

おそらく彼女はその足でここに向かうだろう。

その時にアイスでも差し出して、などと呑気に考えながら僕は何食わぬ顔でテレビを見ていた。

しかし彼女は僕のすぐ横を通り過ぎると、冷蔵庫から五百ミリリットルのペットボトルに入ったミネラルウォーターを取り出し、その場で飲み始めた。


「こっち来ないの?」


思わず問いかけた。

あからさまに先ほどのことを気にしている様子に、内心戸惑ってしまっていた。


「すぐ部屋に戻るから……」


彼女はこちらに目もくれずにそう答えた。

何となく気持ちに靄がかかったような気がして、僕は立ち上がった。

わざと彼女のすぐ傍に立つと、冷凍庫から先ほど思い出したカップアイスを取り出す。


「一緒に食おうと思って待ってたのに、残念だなあ。一人で食っちゃおうかなあ」


わざとらしい笑みを見せると、彼女はようやく顔を上げた。


「やっとこっち向いた」


言うと彼女は顔をしかめて僕に問う。


「もしかして、ちょっと酔ってる?」


僕はその言葉を無視した。

むしろ酔っていたことにしておいて欲しいくらいだ。

酔っていれば許されるわけでもないが、こんな駆け引きじみたことはあまり性に合わない。

それからは二人で並んでアイスを食べ、テレビを見ていた。

薄ぼんやりとする視界の中、弥代の背中越しに見えるテレビの光が何だかキラキラとしていて、余計に眩しく感じられた。

気が付けばテレビも電気も消え、僕の体に一枚の毛布が掛けられていた。

近くに弥代の姿は見当たらない。テーブルの上も綺麗に片付けられている。

テキパキと後始末をする彼女の様子が目に浮かんだ。


「ここまでくると保護者だな……」


冗談交じりに独り言を呟いた。そして僕は再び眠りについた。








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