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第35話 安息日
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ダンジョンを内包し、その産物で栄えるどの国にも所属しない自由民の町ゴードン。
その中心、荒くれ共が日々血を洗う買い取り所は言い知れぬ緊張感に包まれていた。
「り、竜ですか。実は偶然昨日も入荷がありまして。あまり高値は、そのぅ…金貨1000枚では如何でしょうか」
トントントントントン。男が硬い篭手でカウンターを叩く音が響く。
身の丈230cm、禍々しい邪気を垂れ流す漆黒の鎧を身に着け、僅かな隙間からは鎧を押し上げる鋼の様な筋肉が窺える。
カウンターの男の言葉に答えず、ただ自身の目的の遂行だけを考えている男。
そう、俺は喋ったらバレる事を忘れていて大ピンチに陥っていた。
ちょいと可愛いイタズラを思いついてダンジョン30階層で竜だけ狩って出てきたんだ。こいつらすぐに復活しやがるからさ。後ついでに40階層にも寄ってきた。それを収納せずにズリズリ引っ張ってきたわけよ。
「フシュゥゥゥッ、ウッウン!ウホン!」
「あひぃ!す、すいません!金貨3000枚お支払いいたします!」
こいつ、昨日もしっかり買い叩いてやがったな。今の態度も怪しいもんだ、さんざんビビり散らしておいて後で舌を出してるやつもいたからなぁ!!
「コレヲ」
もう一体、40階層で倒してきた巨大なサソリだ。たぶん毒とかもってそうな見た目。急いでいたので速攻頭を砕いてしまったのでよく分からん。
「あの、これって、見たことないんですが」
分かんなくても査定しろよ!あなたは前例に習うことしか出来ないんですか!?この甲殻の価値とかわからないんですか!?俺は分からん、竜の方が高そう。
「えーっと、こちらはよくわからないので、金貨5枚になります」
瞬間!鎧から邪気が溢れ出す!魔力を込めると邪気が出るのだ!パーティグッズ的な使い方しか浮かばない機能である。
ブワァ!!
「あぁ!あ、あ、あぐぐぐ…!す、すいません、金貨3000枚お支払いします……」
買い取り所の男は青い顔をして買い取り値を吊り上げてくれた。きっと俺の芸に感動したんだろう。
コクリと頷いて了承を示し、無事に金貨6500枚を手に入れた。最初から今日遊ぶ軍資金はあるし、ここでケトを見せたらバレちゃうのでぶっちゃけ邪魔である。
ちなみにこれだけの額があれば城が建つ。なんでこんなに金持ってんだよボッタクリ過ぎだ反省しろ。
とりあえずこのままじゃ喋れないので一旦撤退だ。
「なんだぁ?1日遊びに付き合えだと?」
「そうなんだよ、変身したのはいいんだが俺まだ声代わりしてないからさぁ。ソプラノ少年ボイスでバレちゃうんだよ、一緒に遊んでくれや」
「いやお前ダミ声だし体もデカイからいけるって、行ける行ける、さっさと行け」
「なんだぁてめぇ!?奢ってやるって言ってんだよ!」
「いらねぇよ店があるんだよ!」
「パパどうしたの?ひゃ!」
「娘が怖がってるだろ!ほらいけいけ!」
ぐぬぬぬぬ、この娘には図らずも世話になってしまったからな。心の平穏の為にもさっさとお返ししておきたい。
『アンナ、おはようなのです』
「え?ケ、ケトちゃん?そちらのかっこいい方は?」
ん?
「私は神聖ラールガー帝国の暗黒騎士、深淵の復讐者アビス・レヴナント。アビスでいい」
「は、はい!すごい……」
「美しいお嬢さん、君のパパ上を誘ったのだが外せないようだ。代わりと言っては何だが君が町を案内してくれないか?」
「どこでも着いていきます!」
やったぜ。
「待てぇ!何を言うんだアンナ!そいつは…」
「パパ上殿、我らは親睦を含めてくるのでまたな」
「俺も行く!俺も行くから待て!店じまいだ!」
馬鹿野郎そんなんだから嫁に逃げられるんだよ。
店を閉めてる間にアンナを抱えてトンズラした。頭を真っ赤にして怒り狂っていたが、あいつには娘離れが必要だろ。
「あ、あの、どこに行くんでしょうか」
「ふむ、済まないがこの町には不慣れでな。色々見て回りたいと思っているのだ。そうだな、魔道具店や武具屋を見てから食事を御馳走させてもらおうか」
「わかりました!ところでケトちゃんはどうしてここに?」
『よく見るのです、これはアレへぶぅ!』
「おっとぉ手が滑った!妖精さん大丈夫かい?この子は先ほど暇そうにしているのを見つけてね、少し遊んでいるんだ!」
「そうなんですね。アレキサンダーくんと喧嘩しちゃったのかな?」
「そのアレキサンダーというのは?」
「あ、宿のお客さんで、まだ子供なのにケトちゃんと旅をしているそうです。凄く強くて荒っぽいんですけど、子供っぽくて可愛いところもあるんですよ。ケトちゃんに頼まれて声をかけたら懐かれちゃいました」
「ほ、ほう。そそ、それは、いいんじゃないかな。私はよく知らないんだが、おねショタと呼ばれるとても尊い関係があると聞いている。もう、ゴールしてもいいんじゃないかな」
「あははは、歳が10は離れてますよ。強くてお金持ちでずっと年下ですから、私なんかじゃ駄目ですよ」
「そんなことないんじゃないかなぁ!いけるんじゃないかなぁ!おねショタが出来るのは今だけだしぃ!いいと思うなぁ!」
「え?あの、急にどうしたんですか?」
「なんでもない。俺は深淵の復讐者、少し昔を思い出してしまってな」
いいじゃないか宿屋の娘。名前なんだったかな?この際お姉ちゃんなら誰だっていいよ。
最低だって?選り好みしててショタコンお姉さんが見つかると思ってんのか?誰でもいい!誰でもいいんだよ!俺にはショタを愛するお姉さんを愛する覚悟がある!
「そうなんですね。でも、あ、あの、私はアビスさんみたいにかっこいい人が…」
「少年の方がいいと思うぞ」
彼女はただの厨二病かもしれない。
「ここが町一番の武具屋さんです。なんでも昔は巨人の人に弟子入りした事があるとか。自分の打った作品は気に入った人にしか売らないことで有名なんです」
「ほう、その御仁には興味があるな」
なかなか大きな店構えだ。弟子を沢山抱えてるんだろう。しかしこの町の住人が真面目に鉄を叩くもんだろうか?甚だ疑問である。
「へいらっしゃい!いい武器揃ってるよぉ!」
八百屋かよ。これで親方が偏屈な鍛冶職人とか絶対嘘だわ。
「少し見せてもらうぞ」
置いてある武具を見て回るが、これダンジョンで出てくるやつだろ。風の刃が出る剣とか炎が吹き出す大剣とか、それ同じの持ってるよ。
「店主の打った武器は無いのか?」
「へぇ!そいつは親方の試験に通ったお方にしかお売りできないんですよ!よければ試験を受けてみやすか?」
「ほう、よかろう受けて立つ」
「ありがとうございます!金貨10枚になりやす!」
金取るのかよ!しかも結構な額だな。
「こちらの大岩を全て破壊できたら合格です!切っても叩いても構いません、武器が壊れた場合はあちらでお買い上げを!へへへっ」
大きな岩が5つ並んでいる。これ本当に試験なの?小遣い稼ぎじゃないの?こんなの切ろうとしたら剣折れちゃうでしょ。
「アビスさんがんばってください!」
宿屋の姉ちゃんに声援をいただいてしまった。これは文句なしに決めないとな。
「ふん、武器などいらん」
「武器を買いに来たんじゃないんですかい!?」
うるせぇな破壊すりゃいいんだろ。文句のつけようが無いように粉々に破壊してやるぜ。
「アレキサンダー流!岩砕強震拳!!」
ゴッ!!
大岩に対しゆっくりと垂直に振り下ろされる拳!加えられた力は垂直に岩の内部を走り地面に到達するが、上下から歪みなく与えられる力により分散する事なく中心にエネルギーが集中する!逃げ場を失った力は岩の分子を崩壊させ、一瞬震えたかと思うと支えを失った砂の様に崩壊する!
サラサラサラ…
撃ち抜いた拳の先にあるのは岩だったはずの細かい粒子。砂粒より細かく砕かれたそれは風に吹かれて舞っていった。
「あと4つ」
ふふ、決まったぜ。
「アレキサンダー流?」
「猪木さんダー!流!岩砕強震拳!猪木さんダー!流!岩砕強震拳!やっぱり猪木さんの技はすげぇや!ダー!元気ですかー!!」
元気があれば岩も割れる!
「試験は合格だろう?見せてもらおうか、巨人仕込の武器とやらを」
「ひぃぃ!ば、ばけもんだぁ!お、奥へどうぞ!親方呼んで来ますんで!親方ぁ!ばけもんが来たぁ!」
失礼な野郎だブチのめすぞごらぁ!
「アビスさん凄いです!あの大岩を簡単に砕くなんて!」
「それほどでもない、奥を見てみようか」
店の奥には確かにそれなりの武器が並べられていた。なるほどこれらは親方とやらの手製なんだろう、人が人の為に作って使いやすさを感じる。だけど。
「脆いな」
「なんじゃお前!ワシの作品にケチを付けるのか!ぶっ殺されてぇのかボケが!!」
「オラァ!悶絶!猪木さんダー!・クロウ!」
「あだだだだだ!!やめ!やめんか!わしは!わし・・!はな、はなして!離してくださいぃぃ!!」
「愚かな、このアビス・レブナント!ジジイであっても容赦はせぬ!」
「ぐぉぉぉぉぉ!」
「あの、離してあげたほうがいいんじゃ…足浮いてますし」
「君が言うなら離してあげよう、感謝しろよジジイ」
「ぐぐぐぐぐ、酷い目にあった。絶対お前には売らんからなぁ!」
「あん?こんな半端な武器いらねぇよ。もっとまともなのねぇの?」
「野郎!そこまで抜かすなら試してみろ!ここ以上の武器は人間の町には売ってねぇぞ!」
「ほれ」
ストン。
置いてある大剣を腰に差した直剣で切ってやった。相変わらず豆腐を切る様に軽い。
「な、なに!今の剣は!今の剣は!」
「拾いもんだ。それで、ここにはこんなのしかないのか?」
「今の剣は一振り金貨500枚じゃあ!さっさと払わんかい!」
「ぼったくってんじゃねぇぞクソジジイ!猪木さんダー!流!逆卍固め!」
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「悪は潰えた」
「さて、店も見たし食事に行こう」
「あの、よかったんでしょうか?」
「金は渡して来たので大丈夫だ。きっと何度同じ目にあっても止めないタイプの連中なので、既に笑顔で金貨を数えていると思う」
この町には本当にあんなのしかいねぇ。そして女性率が異様に低い。どうやって人口を維持しているのか?大量に流入して順にくたばって入れ替わってるんだろう。
「あ!見つけたぞこの野郎!!アンナを離しやがれ!」
「お、やっと来たか。もう隠してるのも面倒くせぇ、豪勢に飯食おうぜ」
「えぇ?」
『アンナ、この男はアレキサンダーが変身しているのです。騙されていたのです』
「そ、そんなぁ」
「あっはっはっは!いいじゃねぇか!飯だ飯!おい!奢ってやるぞ!酒でも肉でも思う存分やれ!」
「じゃあ町で一番いいお店に行きましょう!パパもいっぱい飲んで!」
「お、おう!パパの飲みっぷりを見てろよ!」
「よし行くぞ!道開けろごらぁ!ぶっ殺されてぇか!」
「なんだとてめぇ!!」
その日は遅くまで騒ぎ、夜には宿に戻って変身を解いて娘と共に寝た。
飲み食いに数百枚の金貨を振る舞い、その倍の修繕費と治療費を支払ってやった。
朝。
「行くのか、精霊だけ置いてっていいんだぞ」
「うるせぇよハゲ」
「ケトちゃん、アレキサンダーくん、またね」
「あぁ、また来る」
『アンナ、また会うのです。それまでに朝起きて仕事できるようになるのです』
「うぐっ、が、がんばるね」
「旅してるんだろ?宛はあるのか」
「一応、今は巨人・精霊・勇者・魔王に会ってみたいって感じだな。噂でも聞いたことあるか?」
「そういや勇者と魔王の噂があったな。ずっと北の国で、魔王軍と戦ったとかなんとか」
「何!ほんとか!どの当たりか分かるか!?」
「そこまでは知らねぇけどよ、あんまり評判よくねぇぜ」
「あん?」
「見たってやつの話だと、勇者はまだ子供でよ。なんか頭がおかしくなってるんだどさ。爪を噛みながらがずっとブツブツ言ってて、国の偉いやつに連れて行かれたらしい」
「なんだそりゃ」
「知らねぇよ。だが、今回の勇者様は少々頼りねぇって話だ」
「ふ~ん」
勇者か。とりあえず探してみるか。国が確保したって事は見つけやすくなってるだろ。
「助かった。次に来るまで店潰すなよ」
「潰さねぇよ、俺はここでママが帰ってくるのを待ってるんだ」
「一生やり切る覚悟なんだな」
「うるせぇよさっさといけ!」
「じゃあな」
町を離れて北へ向かう。心は晴れ晴れだ。
「楽しかったな」
『たまには休まないと駄目なのです』
「あぁ、戦わなくても楽しめて安心したよ。俺はまだまだ大丈夫だ」
『アレキサンダーにはお姉さんがいれば大丈夫なのです』
「そうだな、おねショタは世界を救う。おねショタが無ければ俺はもしかすると……」
(ケトもお姉さんにならなくちゃダメかもしれないのです。アンナも必要です)
「さあ勇者を探すぞ!勇者もおねショタを理解出来る奴だったら友達になれるかもな!」
『母も探すのです!』
その中心、荒くれ共が日々血を洗う買い取り所は言い知れぬ緊張感に包まれていた。
「り、竜ですか。実は偶然昨日も入荷がありまして。あまり高値は、そのぅ…金貨1000枚では如何でしょうか」
トントントントントン。男が硬い篭手でカウンターを叩く音が響く。
身の丈230cm、禍々しい邪気を垂れ流す漆黒の鎧を身に着け、僅かな隙間からは鎧を押し上げる鋼の様な筋肉が窺える。
カウンターの男の言葉に答えず、ただ自身の目的の遂行だけを考えている男。
そう、俺は喋ったらバレる事を忘れていて大ピンチに陥っていた。
ちょいと可愛いイタズラを思いついてダンジョン30階層で竜だけ狩って出てきたんだ。こいつらすぐに復活しやがるからさ。後ついでに40階層にも寄ってきた。それを収納せずにズリズリ引っ張ってきたわけよ。
「フシュゥゥゥッ、ウッウン!ウホン!」
「あひぃ!す、すいません!金貨3000枚お支払いいたします!」
こいつ、昨日もしっかり買い叩いてやがったな。今の態度も怪しいもんだ、さんざんビビり散らしておいて後で舌を出してるやつもいたからなぁ!!
「コレヲ」
もう一体、40階層で倒してきた巨大なサソリだ。たぶん毒とかもってそうな見た目。急いでいたので速攻頭を砕いてしまったのでよく分からん。
「あの、これって、見たことないんですが」
分かんなくても査定しろよ!あなたは前例に習うことしか出来ないんですか!?この甲殻の価値とかわからないんですか!?俺は分からん、竜の方が高そう。
「えーっと、こちらはよくわからないので、金貨5枚になります」
瞬間!鎧から邪気が溢れ出す!魔力を込めると邪気が出るのだ!パーティグッズ的な使い方しか浮かばない機能である。
ブワァ!!
「あぁ!あ、あ、あぐぐぐ…!す、すいません、金貨3000枚お支払いします……」
買い取り所の男は青い顔をして買い取り値を吊り上げてくれた。きっと俺の芸に感動したんだろう。
コクリと頷いて了承を示し、無事に金貨6500枚を手に入れた。最初から今日遊ぶ軍資金はあるし、ここでケトを見せたらバレちゃうのでぶっちゃけ邪魔である。
ちなみにこれだけの額があれば城が建つ。なんでこんなに金持ってんだよボッタクリ過ぎだ反省しろ。
とりあえずこのままじゃ喋れないので一旦撤退だ。
「なんだぁ?1日遊びに付き合えだと?」
「そうなんだよ、変身したのはいいんだが俺まだ声代わりしてないからさぁ。ソプラノ少年ボイスでバレちゃうんだよ、一緒に遊んでくれや」
「いやお前ダミ声だし体もデカイからいけるって、行ける行ける、さっさと行け」
「なんだぁてめぇ!?奢ってやるって言ってんだよ!」
「いらねぇよ店があるんだよ!」
「パパどうしたの?ひゃ!」
「娘が怖がってるだろ!ほらいけいけ!」
ぐぬぬぬぬ、この娘には図らずも世話になってしまったからな。心の平穏の為にもさっさとお返ししておきたい。
『アンナ、おはようなのです』
「え?ケ、ケトちゃん?そちらのかっこいい方は?」
ん?
「私は神聖ラールガー帝国の暗黒騎士、深淵の復讐者アビス・レヴナント。アビスでいい」
「は、はい!すごい……」
「美しいお嬢さん、君のパパ上を誘ったのだが外せないようだ。代わりと言っては何だが君が町を案内してくれないか?」
「どこでも着いていきます!」
やったぜ。
「待てぇ!何を言うんだアンナ!そいつは…」
「パパ上殿、我らは親睦を含めてくるのでまたな」
「俺も行く!俺も行くから待て!店じまいだ!」
馬鹿野郎そんなんだから嫁に逃げられるんだよ。
店を閉めてる間にアンナを抱えてトンズラした。頭を真っ赤にして怒り狂っていたが、あいつには娘離れが必要だろ。
「あ、あの、どこに行くんでしょうか」
「ふむ、済まないがこの町には不慣れでな。色々見て回りたいと思っているのだ。そうだな、魔道具店や武具屋を見てから食事を御馳走させてもらおうか」
「わかりました!ところでケトちゃんはどうしてここに?」
『よく見るのです、これはアレへぶぅ!』
「おっとぉ手が滑った!妖精さん大丈夫かい?この子は先ほど暇そうにしているのを見つけてね、少し遊んでいるんだ!」
「そうなんですね。アレキサンダーくんと喧嘩しちゃったのかな?」
「そのアレキサンダーというのは?」
「あ、宿のお客さんで、まだ子供なのにケトちゃんと旅をしているそうです。凄く強くて荒っぽいんですけど、子供っぽくて可愛いところもあるんですよ。ケトちゃんに頼まれて声をかけたら懐かれちゃいました」
「ほ、ほう。そそ、それは、いいんじゃないかな。私はよく知らないんだが、おねショタと呼ばれるとても尊い関係があると聞いている。もう、ゴールしてもいいんじゃないかな」
「あははは、歳が10は離れてますよ。強くてお金持ちでずっと年下ですから、私なんかじゃ駄目ですよ」
「そんなことないんじゃないかなぁ!いけるんじゃないかなぁ!おねショタが出来るのは今だけだしぃ!いいと思うなぁ!」
「え?あの、急にどうしたんですか?」
「なんでもない。俺は深淵の復讐者、少し昔を思い出してしまってな」
いいじゃないか宿屋の娘。名前なんだったかな?この際お姉ちゃんなら誰だっていいよ。
最低だって?選り好みしててショタコンお姉さんが見つかると思ってんのか?誰でもいい!誰でもいいんだよ!俺にはショタを愛するお姉さんを愛する覚悟がある!
「そうなんですね。でも、あ、あの、私はアビスさんみたいにかっこいい人が…」
「少年の方がいいと思うぞ」
彼女はただの厨二病かもしれない。
「ここが町一番の武具屋さんです。なんでも昔は巨人の人に弟子入りした事があるとか。自分の打った作品は気に入った人にしか売らないことで有名なんです」
「ほう、その御仁には興味があるな」
なかなか大きな店構えだ。弟子を沢山抱えてるんだろう。しかしこの町の住人が真面目に鉄を叩くもんだろうか?甚だ疑問である。
「へいらっしゃい!いい武器揃ってるよぉ!」
八百屋かよ。これで親方が偏屈な鍛冶職人とか絶対嘘だわ。
「少し見せてもらうぞ」
置いてある武具を見て回るが、これダンジョンで出てくるやつだろ。風の刃が出る剣とか炎が吹き出す大剣とか、それ同じの持ってるよ。
「店主の打った武器は無いのか?」
「へぇ!そいつは親方の試験に通ったお方にしかお売りできないんですよ!よければ試験を受けてみやすか?」
「ほう、よかろう受けて立つ」
「ありがとうございます!金貨10枚になりやす!」
金取るのかよ!しかも結構な額だな。
「こちらの大岩を全て破壊できたら合格です!切っても叩いても構いません、武器が壊れた場合はあちらでお買い上げを!へへへっ」
大きな岩が5つ並んでいる。これ本当に試験なの?小遣い稼ぎじゃないの?こんなの切ろうとしたら剣折れちゃうでしょ。
「アビスさんがんばってください!」
宿屋の姉ちゃんに声援をいただいてしまった。これは文句なしに決めないとな。
「ふん、武器などいらん」
「武器を買いに来たんじゃないんですかい!?」
うるせぇな破壊すりゃいいんだろ。文句のつけようが無いように粉々に破壊してやるぜ。
「アレキサンダー流!岩砕強震拳!!」
ゴッ!!
大岩に対しゆっくりと垂直に振り下ろされる拳!加えられた力は垂直に岩の内部を走り地面に到達するが、上下から歪みなく与えられる力により分散する事なく中心にエネルギーが集中する!逃げ場を失った力は岩の分子を崩壊させ、一瞬震えたかと思うと支えを失った砂の様に崩壊する!
サラサラサラ…
撃ち抜いた拳の先にあるのは岩だったはずの細かい粒子。砂粒より細かく砕かれたそれは風に吹かれて舞っていった。
「あと4つ」
ふふ、決まったぜ。
「アレキサンダー流?」
「猪木さんダー!流!岩砕強震拳!猪木さんダー!流!岩砕強震拳!やっぱり猪木さんの技はすげぇや!ダー!元気ですかー!!」
元気があれば岩も割れる!
「試験は合格だろう?見せてもらおうか、巨人仕込の武器とやらを」
「ひぃぃ!ば、ばけもんだぁ!お、奥へどうぞ!親方呼んで来ますんで!親方ぁ!ばけもんが来たぁ!」
失礼な野郎だブチのめすぞごらぁ!
「アビスさん凄いです!あの大岩を簡単に砕くなんて!」
「それほどでもない、奥を見てみようか」
店の奥には確かにそれなりの武器が並べられていた。なるほどこれらは親方とやらの手製なんだろう、人が人の為に作って使いやすさを感じる。だけど。
「脆いな」
「なんじゃお前!ワシの作品にケチを付けるのか!ぶっ殺されてぇのかボケが!!」
「オラァ!悶絶!猪木さんダー!・クロウ!」
「あだだだだだ!!やめ!やめんか!わしは!わし・・!はな、はなして!離してくださいぃぃ!!」
「愚かな、このアビス・レブナント!ジジイであっても容赦はせぬ!」
「ぐぉぉぉぉぉ!」
「あの、離してあげたほうがいいんじゃ…足浮いてますし」
「君が言うなら離してあげよう、感謝しろよジジイ」
「ぐぐぐぐぐ、酷い目にあった。絶対お前には売らんからなぁ!」
「あん?こんな半端な武器いらねぇよ。もっとまともなのねぇの?」
「野郎!そこまで抜かすなら試してみろ!ここ以上の武器は人間の町には売ってねぇぞ!」
「ほれ」
ストン。
置いてある大剣を腰に差した直剣で切ってやった。相変わらず豆腐を切る様に軽い。
「な、なに!今の剣は!今の剣は!」
「拾いもんだ。それで、ここにはこんなのしかないのか?」
「今の剣は一振り金貨500枚じゃあ!さっさと払わんかい!」
「ぼったくってんじゃねぇぞクソジジイ!猪木さんダー!流!逆卍固め!」
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「悪は潰えた」
「さて、店も見たし食事に行こう」
「あの、よかったんでしょうか?」
「金は渡して来たので大丈夫だ。きっと何度同じ目にあっても止めないタイプの連中なので、既に笑顔で金貨を数えていると思う」
この町には本当にあんなのしかいねぇ。そして女性率が異様に低い。どうやって人口を維持しているのか?大量に流入して順にくたばって入れ替わってるんだろう。
「あ!見つけたぞこの野郎!!アンナを離しやがれ!」
「お、やっと来たか。もう隠してるのも面倒くせぇ、豪勢に飯食おうぜ」
「えぇ?」
『アンナ、この男はアレキサンダーが変身しているのです。騙されていたのです』
「そ、そんなぁ」
「あっはっはっは!いいじゃねぇか!飯だ飯!おい!奢ってやるぞ!酒でも肉でも思う存分やれ!」
「じゃあ町で一番いいお店に行きましょう!パパもいっぱい飲んで!」
「お、おう!パパの飲みっぷりを見てろよ!」
「よし行くぞ!道開けろごらぁ!ぶっ殺されてぇか!」
「なんだとてめぇ!!」
その日は遅くまで騒ぎ、夜には宿に戻って変身を解いて娘と共に寝た。
飲み食いに数百枚の金貨を振る舞い、その倍の修繕費と治療費を支払ってやった。
朝。
「行くのか、精霊だけ置いてっていいんだぞ」
「うるせぇよハゲ」
「ケトちゃん、アレキサンダーくん、またね」
「あぁ、また来る」
『アンナ、また会うのです。それまでに朝起きて仕事できるようになるのです』
「うぐっ、が、がんばるね」
「旅してるんだろ?宛はあるのか」
「一応、今は巨人・精霊・勇者・魔王に会ってみたいって感じだな。噂でも聞いたことあるか?」
「そういや勇者と魔王の噂があったな。ずっと北の国で、魔王軍と戦ったとかなんとか」
「何!ほんとか!どの当たりか分かるか!?」
「そこまでは知らねぇけどよ、あんまり評判よくねぇぜ」
「あん?」
「見たってやつの話だと、勇者はまだ子供でよ。なんか頭がおかしくなってるんだどさ。爪を噛みながらがずっとブツブツ言ってて、国の偉いやつに連れて行かれたらしい」
「なんだそりゃ」
「知らねぇよ。だが、今回の勇者様は少々頼りねぇって話だ」
「ふ~ん」
勇者か。とりあえず探してみるか。国が確保したって事は見つけやすくなってるだろ。
「助かった。次に来るまで店潰すなよ」
「潰さねぇよ、俺はここでママが帰ってくるのを待ってるんだ」
「一生やり切る覚悟なんだな」
「うるせぇよさっさといけ!」
「じゃあな」
町を離れて北へ向かう。心は晴れ晴れだ。
「楽しかったな」
『たまには休まないと駄目なのです』
「あぁ、戦わなくても楽しめて安心したよ。俺はまだまだ大丈夫だ」
『アレキサンダーにはお姉さんがいれば大丈夫なのです』
「そうだな、おねショタは世界を救う。おねショタが無ければ俺はもしかすると……」
(ケトもお姉さんにならなくちゃダメかもしれないのです。アンナも必要です)
「さあ勇者を探すぞ!勇者もおねショタを理解出来る奴だったら友達になれるかもな!」
『母も探すのです!』
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