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第18話 5歳 幼女ハイキング

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「それじゃ行くぞ、このカバンに入れ」

「え?どうして?」

「とりあえず南の方へは俺が運ぶ。中に入ったらマントに包まって首を守っておけ」

 非常に不満そうな幼女をカバンに詰めた。こいつの事はカバン大好きカバンちゃんと呼ぼう。君はカバンが大好きなフレンズなんだね!カバンが好きなのかは知らんけど。



「いくぞ!準備はいいか!」

「はい!」

「ジュワッチ!」

 少しだけ助走を付けてからピョインピョインと飛び跳ねて移動する。大きな負荷がかかるが走るよりはマシなんだ。もし幼女が中で吐いていたら帰りが悲惨な事になるがそこまでは面倒見きれない。

 速度は測り様がないんだが、おおよそ徒歩10日分の距離を1時間で進んでいる。もっと速度は出せるがこれくらいが安全だろう。転職したら魔法を覚えてル◯ラとかテ◯ポとかジルヴェ◯アとかが使えるはずだ。楽しみだなぁ。



 とりあえず山の近くまでは街道沿いに進んでいった。馬車で2日と言うから徒歩3日分くらいだと思っていたが意外と遠かった。やっぱこいつ基準がレベル高いな。

「ここから先の道分かるか?」

「うぼぼ!うんぐ!!エボロロロロロロロロロ!」

 カバンちゃんをカバンから出したら全力リバースが始まってしまった。やはり彼女を世に出すべきでは無かったのじゃ。

「げほ!げほ!み、水……」

 まるで世紀末救世主の様に水を求めていたので水筒を渡してやった。水それしかないんだけど。



「うぅ、ひどい目にあいました」

「吐いたから腹減っただろう、朝飯食おう」

「……こうなると予測していたのでは?」

「うん、吐く時間を考えても早いからな。水なくなったけど」

「はぁ、食事はいらないです。帰りもありますから」

「じゃあ俺食べるから待ってて」

「………」

 ハムッ、ハフハフ、ハフッ!! 王都の店で売っていた普通のチーズパンだが最高に美味そうに食ってみた。一人で食べる俺にカバンちゃんの冷たい視線が突き刺さる。

「冗談だよ、もう一個あるよ」

「いりません」

 はぁ、これだからお子ちゃまは。まぁ取っといてやろう、お腹へったら帰ってくるでしょ。



「み、水……」

 パンパッサパサやんけ。

「行きましょう。街道から西に見える山脈の尾根まで登ると、その先に荒れた岩山が見えます」

「まぁ待て、水はさっきのだけだと言ったが本当にそれだけしか準備していないわけが無いだろう、コレがあるんだ」

 テッテレー!なんか水が出る水差しー!

「これは力を込めると水が出てくる便利な水差しなんだ」

「なるほど、それがあれば少ない荷物で移動できますね。大変貴重な品なのでは?」

「さあ?森に落ちてたから」

「………」



「フン!ヌヌヌヌヌ!!」

 水差しを持って力を込める!と言っても握りしめるわけじゃなく、体から力を振り絞ると言うか、マッスルポーズを決めたりすると水があふれるのだ。

 フロントリラックスからの~ダブルバイセップス・バック!どうだこの筋肉山脈の盛り上がり!筋肉谷の深さ!俺の背中はアルプス一万尺!

「………」

「ふぅ、しっかり水が出てきたな。こいつは力を込めて筋肉を見せてやると喜んで水を出してくれるんだ。今日も上々だぜ」

「あの、それって魔力に反応しているのでは?」

「え?でも俺魔力とか分かんなんし、筋肉盛り上げると反応するぞ?」

「力んだ時に魔力が溢れています」

「へぇぇ」



 魔力か。レベルが上がることで少しずつだが魔力が増えてるから並の魔法使いよりはずっと多いはずだ。だけど魔法覚えてないしなぁ。

「魔力って魔法使えなくても意味あるの?」

「もちろんです。魔力は体力を支えますし、体力は魔力を支えます。先程は強い魔力を感じました、魔力の扱いを学ばれてはどうですか?」

「この仕事が終わったら転職して魔法使いになるんだ。すぐに魔法を覚えるぜ!」

「そういうことでは無いのですが……(もにょもにょ)」

「お前も水を使うか?ちょっとスッキリしたいだろ」

「あ、いただきます。ありがとうございます」

「俺の力を込めた汗の結晶だからな、気持ちよく飲んでくれよな」

「………」



 休憩も済んだし竜の山を目指そう。肝心の山はまだ見えてもいないんだ。

「尾根に登るんだろ?そろそろカバンに入ってくれ」

「あの、もう少しマシな運び方はありませんか?徒歩でもいいんですけど」

「うーん、おんぶしてもいいが捕まってられるか?前に抱えたら咄嗟で手が使えないんだよなぁ」

「出来たら前で抱えていただけると一番なのですが」

「うーん、ほんとうにわがままだなぁキミは」

「………」

 こいつ暴言が出そうになると黙るんだな。ストレス溜まってそうですね。

 仕方ないので横抱きにしてやった、肩に担いだら滅茶苦茶機嫌悪くなりそうなのでサービスだ。身長差があれば正面から抱っこしてやれるんだがちょっと無理。




 街道から離れて山を登り始めると途端にワラワラと魔物が湧いてくる。普段なら笑顔で接客できるんだが今は両手が使えない。相手にするのも面倒なのでピョンピョンジャンプで振り切っていくんだが。

「キャアアアアア!イヤアアアアア!降ろしてぇぇぇ!」

 事件性を感じる幼女の叫び!非常にハラハラする、誰か聞いてたらどうすんだよ。

「カバンに入ってりゃずっとマシだったのに、何やってんだ」

「だっ!………っ!!」

 文句を言いたいんだろうけど必死に飲み込んでるカバンちゃん。だったら叫ぶなよ。

「ふっ、おもしれぇ女」

「ッッッ!!………ッッ!!!!!」

 物凄く何か言いたそう。こいつぁからかい甲斐があるぜぇ!



「こうしてお前を抱いていると変な気持ちになるんだ。これって何か分かるか?」

「お前って落ち着くいい香りだな。そういえばいい香りがする人とは遺伝子から相性がいいって聞いたことがある」

「お前と出会えてよかった。お前の頑張っている姿、お前の笑顔、どんなお前もかわいい。ずっと一緒にいたい、誰にも渡したくないんだ」

 くっくっくっ、どうだこのクッサイ台詞は?男が言いたくないクサクサ台詞のオンパレードだぜ。

「一度も笑ってませんけど?」

「ん?そうだったかな?そう言えばそうかも」

 君のような勘のいいガキは嫌いだよ。




「尾根まで来たぞ、この後どうするんだ?」

「………」

 魔物を振り切り山の天辺まで来た。前方には山々が連なっているのでこの中のどれかが竜の山なんだろう。

「……あそこの荒れた岩山です、調査では中腹から頂上付近に巣があるとの事です」

 そこには緑の無い剥げ山、毒ガスでも出ているかもしれないな。薄い硫黄くらいならいいんだが。

 幼女を連れて行っていいような場所じゃない、だがこんな所に置いていくわけにも行かない。まぁ危険は最初から分かっていた事だ、確認が出来ただけ。




「ステータスを確認してみろ、上がってるか?」

「?、もちろん上がっていません」

「俺が倒してたら上がらないか?」

「ご存知無いのですか?戦闘に参加しないとだめです」

「そうか。ここから暫くは下りだ、自分で歩いて魔物が出たら石でも投げろ。とりあえず当たらなくてもいいか試すから小まめにステータスを確認しててくれ。昼までは気休め程度でもレベルを上げるぞ」



 レベルシステムは信頼していないが、能力が上がるのは間違いない。カバンちゃんのレベルが幾つか知らないが、少しでも上がればその分だけ耐久も上がるはずだ。







「遊びは終わりだ、ここからは戦闘が続くぞ。竜がいるならいつ襲われてもおかしくない、耐火ポーションを飲んでおけ」

 ぐびりとポーションを飲むカバンちゃんを見ながら、そういや俺の分ねぇわと思い出した。
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