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鞍馬の神修
肆
しおりを挟む鞍馬の神修の学生寮一階は、私たちと同じで大広間兼食堂になっていた。そこで朝ごはんを頂きながら、一学期ぶりの再会厳密には半日ぶりの再会を楽しむ。
呆れたように息を吐いた信乃くんは私たちの顔を見回した。
「展開早すぎちゃう? 半日前にお前らと電話したと思うんやけど」
「いやー、ギャグだなギャグ」
ハハハッと泰紀くんが笑う。
「でも何で急に来ることになったんだ? 中止になったんじゃないのか?」
信乃くんの隣に座っていた鬼市くんが怪訝な顔で私にそう尋ねる。「それが私たちにもよく分からないの」と肩を竦めた。
「まぁおかげさんで授業もはよ終わったし、俺らからしたらラッキーやけどな」
信乃くんたち鞍馬の神修側に私たちの来校が知らされたのは、私たちが到着するほんの十分前だったらしい。
人の時間で言うと真夜中だけれど、主な活動時間帯が夜にある信乃くんたちにとってはちょうど六限目の授業中だったらしい。
授業は取りやめになって私たちが宿泊する寮を整えてくれたのだとか。
「でも、また皆に会えて、嬉しい」
信乃くんの隣で静かに会話に混ざっていた瓏くんがそう口を開ける。
「瓏……お前可愛い奴だなぁッ!」
感極まった泰紀くんが瓏くんに抱きついた。嫌な顔どころかむしろ嬉しそうに抱擁を受け入れる瓏くん。
唯一引率で着いてきていた高等部三年の学年主任の先生は、特に事情を説明することも無く学校へ着くと直ぐに鞍馬の神修の先生へ私たち引き渡した。
急に鞍馬の神修へ向かった理由は説明するつもりはないらしい。
何はともあれ、異文化交流学習は続行される。明日の夜から私たちは鞍馬の神修の学生に混じって勉強することになる。
「まぁ色々腑に落ちん事はあるけど……」
信乃くんがそう言って両隣りの鬼市くん瓏くんと目を合わせる。皆はニッと笑って私たちを見た。
「ようこそ、鞍馬の神修へ!」
鞍馬の神修と私たちの神修は姉妹校の関係にある。ただ鞍馬の神修に通う学生は人ではなく妖なので、古典や数学といった一般科目ですら学ぶ内容は異なっている。
明日から始まる学校生活に向けて、必要な説明や教科書などが配られた私達は早速広間でそれらを確認した。
「なぁ、これがお前らの古典なのか……?」
「おう。人間はあんまり馴染みないらしいな、神代文字」
思わずスマホで神代文字と調べた。曰く、漢字の伝来するよりも前の日本で使われていた文字らしい。
私達も古典の授業で平安時代の書物『枕草子』や『竹取物語』を扱うけれど、気合いがあれば何とか読めるミミズ文字だ。
配られた教科書を見る。気合いがあっても読めそうにない。どちらかと言うと象形文字に近い気もする。
教科書の内容は読めば大抵理解できるあの嘉正くんと恵衣くんですら固まっている。
「古典もだけど数学もなかなかヤバいね……」
ズレたメガネを押し上げながら、数学の教科書をめくった来光くんがそう言う。
「これ和算って言うんだっけ?」
「おう。幽世じゃ和算が一般的やな。若いヤツらは西洋数学の方が便利や言うてそっちも勉強しとるみたいやけど」
なんというかもう、何から何まで全部違う。基礎も常識も全く別物で、まるで異世界にでも飛ばされた気分だ。
「俺、こっちの神修じゃ落ちこぼれになりそう」
引きっった顔で嘉正くんがそうこぼす。
「こっち側へようこそ嘉正」
「待ってたぜ嘉正」
泰紀くんと慶賀くんが、両サイドから嘉正くんの肩に手を乗せた。振り払う元気もないらしい。
1年生の頃は専門科目で苦戦していた私だけれど、二年生で一般科目に苦しめられるとは。
トホホと頬を掻きながら教科書をパラパラめくった。
「唯一の救いは専門科目の内容がほぼ一緒なことだね」
「授業の進み具合もほぼ同じで助かるよ」
姉妹校なだけあってカリキュラム自体はほぼ同じらしい。神職になるための授業が行われる専門科目の内容は、私たちの神修とそこまで大差はないようだ。
ただ────。
「この"組討演習"ってなんだ? なんか物騒な名前だな」
「僕らの授業にはないやつだね」
配られた時間割はどの科目もバランスよく配置されているのに、その組討演習という科目だけ週に四コマもある。
一体どんな授業なんだろう。
「お、それなら明日の一時間目に早速あるから、楽しみにしとるとええわ」
ニヤリと笑った信乃くんに皆は強ばった顔で目を合わせる。
「俺は一番好きな科目」
鬼市くんから全然参考にならない説明を受けて私たちは一層困惑する。
嫌な予感しかしないのだけれど、大丈夫なんだろうか。
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