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鞍馬の神修
弐
しおりを挟む『え、お前らこっち来やんの?』
その日の放課後。今日は職員会議でどの部活動も休みになり、私たちはいつものたまり場である反橋の下へやってきた。
「今日薫センセーに聞いたら、中止だーって!」
「お前ら何か聞いてない?」
そう言ってみんなはひとつの画面を覗き込む。慶賀くんのスマホの画面に映し出された三人は、一学期に知り合った鞍馬の神修に通う学生だ。
『そういえば、こっちでも異文化交流学習の話は上がってないな』
そう答えた黒髪の男の子は、八瀬童子と呼ばれる鬼の妖鬼市くんだ。鬼市くんとは一年の時の神社実習でも二度ほど会っている。
『俺が、暴走したから?』
『それは関係ないやろ。お前がそっちの交流学習に参加するって時点で、暴走するリスクはそっちの先生らにも説明してるやろうし』
眉根を寄せた瓏くんの頭を小突いたのは、信田妻狐一族の信乃くん。二人は妖狐とよばれる妖で、同じく交流学習へ参加して知り合ったあやかしの友達だ。
「お前らも何も聞いてねぇのか~。薫センセーも中止としか教えてくれないんだよな」
「何か言えない事情でもあるのかな」
言えない事情。来光くんのその呟きに、薫先生の言葉が過った。
『巫寿?』
鬼市くんに名前を呼ばれてハッと顔を上げる。不思議そうに私を見る皆と目が合った。慌てて首を振って「なんでもない」と答える。
画面の奥でゴーン、と鐘が鳴り響く。同じタイミングでこちらの鐘もなった。
『お、晩飯か。まぁこっちでも聞いとくわ、ほままたな』
「おー、よろしく! またな~」
通話終了の画面になってみんなはゾロゾロと立ち上がる。俺達も飯行くか~とひとつ伸びをして立ち上がった。
『ここまで色々起きてるんだよ、あの鉄壁の結界が守る神修の中で。そりゃもう疑うしかないでしょ────裏切り者』
薫先生の言葉がもし本当なんだとして。それが"言えない事情"なんだとしたら。
事件が起きたのはそんな話をして一時間も経っていない頃だった。
広間は夕飯を求めてやってきた学生たちで溢れかえっており、私達もいつもの定位置でお膳を並べて引き続き中止になった異文化交流学習について喋っていた。
「俺、向こうの槍術部と試合すんの楽しみにしてたんだけどなぁ」
「何で急に中止にしたんだろうね。急に中止にするならするで、普通は学生たちに理由を説明するはずなのに」
納得いかない顔をするみんなは、ため息を零しながら炊き込みご飯を咀嚼する。
はぁ、と何度目かのため息が重なったその時、広間の前の方から「静かにー!」と叫ぶ声が聞こえて皆はパッと顔を上げた。
少し首を伸ばして声が聞こえた方へ顔を向ける。
広間の入口からゾロゾロと中へ入ってくるのは、高等部を担任している先生たちだった。もちろん薫先生の姿もある。
「何だろ?」「先生たち勢揃いじゃん」「仰々しいね」「誰かが何かやらかしたんじゃない?」
生徒たちのざわめき声は「静かに!」という先生の一括で静まり返った。
「高等部一年、二年、三年の学生は十分後の七時三十五分までに、一週間分の荷造りをして車乗り場へ集合してください」
十秒くらいの沈黙の後、広間は弾けるように騒がしくなった。皆驚いた顔でお互いの様子を伺う。
先生が引き続き何か話しているようだけれど、ざわめく声で上手く聞き取れない。
前の方に座っていた深緑色の制服を学生たちがバタバタと広間から出ていく。高等部の制服だ。
私たちも立ち上がってバタバタと薫先生に駆け寄った。
「薫先生! 急に何事だよ!」
「お、良かった。君らも広間にいたんだね。話は先生が言ってた通りだよ」
「全然意味わかんないんだけど!?」
あはは、と笑った薫先生は私達の背中を押して「ほらほら急いで」と促す。
「もうあと5分しかないよ。遅刻したら置いてかれるから急いでね」
はァ!?と皆が目を剥いた。半強制的に広間から追い出される。他の高等部の学生たちが悲鳴をあげながら私室を目指して走り出す。
私達もその流れに乗って走り出した。
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