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約束
肆
しおりを挟む「────迷惑かけて、ごめんなさい」
瓏くんが再び教室に登校できるようになったのは、あれから一週間過ぎた異文化交流学習の最終日だった。
教室に入ってくるなり深々と頭を下げた瓏くん。皆無事に復帰したことを喜ぶ声をかける。そんな中、一人だけ不機嫌そうにムスッとそっぽを向いた恵衣くんが口を開いた。
「"多大なる迷惑"の間違いだろ。やり直せ」
「ただいなる……? 迷惑かけて、ごめんなさい」
「あはは、恵衣の言うことなんて聞かなくていいのに」
「黙れ眼鏡」
途端火花が飛び散った二人に皆が声を上げて笑う。教室の雰囲気はすっかり元通り、とまでにはいかないけれど和やかな空気が流れていた。
ガラガラと教室の前の扉が開いて薫先生が顔を覗かせた。
「お、やっと揃ったね~。今日は五、六時間目の俺の授業取りやめで慰労会するから、グッドタイミングだ」
「え、薫先生それマジ!?」
「あはは、マジマジ。お昼休みに準備するから、俺の研究室にお菓子取りに来てね」
「やっほーい!」
諸手を挙げて喜ぶ皆に頬を緩めた。
お前らはなんのために神修に来てるんだ、不機嫌な声でそう言った恵衣くんは呆れた顔でそっぽを向いた。
その頬にはまだ大きなガーゼが残っている。みんな腕や顔には怪我の跡が残っていて、でも「一年の時に比べたらマシだよな」と逞しく笑っている。
確かにあの時は一学期の半分をベッドの上で過ごしたわけだし、比べたらかなりマシだろうけど。
笑って流せる皆の逞しさに結構感心した。
途切れた呪印が再び刻まれたことによって、私たちは瓏くんの暴走を止めることが出来た。
後になって分かったことだけれど、瓏くんを止めることを選んだ私たちの選択は間違っていなかったらしい。風に乗った怪し火が山の中腹で燃え広がって、先生たちは立ち往生していたのだとか。
お互いに肩を貸し合いながら満身創痍で下山すると、あまりにも酷い状態だったのかすぐさま医務室へ担ぎ込まれた。
いちばん酷かったのは聖仁さんだ。背中に酷い火傷を負って今も医務室の奥に入院している。昨日まで面会謝絶だったけれどやっと状態が落ち着いて、面会の許可がでた。
鬼市くんたちが帰ってしまう前に、放課後皆で会いに行く予定だ。
瓏くんが暴走してしまった原因は未だに分かっていない。当の本人もよく分かっていない様子で、恐らく模擬修祓の競技用に放たれた幽世生物のせいだろうという結論になった。
今回は事情が事情なだけにお説教を喰らうことはなかったけれど、薫先生は私たちの無事を喜んだあと諦めたような顔で天を仰いでいた。
叱る相手がいない偉い人達は「監督不行届」という理由で薫先生を叱るしかないらしい。責任の所在がはっきりしないと一件落着できないなんて、大人ってちょっと変だと思う。
申し訳ないけれどこればかりは私達ではどうすることも出来ないので、みんなでお金を出し合って薫先生の好物である金平糖を献上したら薫先生は笑っていた。
噂好きの学生たちによって、今回の騒動も瞬く間に広まっていった。人から人へ伝えられる度に誇張され、今や英雄の偉業のように語られているらしい。
そのおかげか奉納祭前みたいに陰口を言われることはなくなったけれど、反対に陰口を言っていた事への申し訳なさなのかすれ違う度に気まずい顔をされることが増えた。それはそれで私も気まずい。
「巫寿ちゃん、一時間目漢方薬学だから移動教室だよ」
用意を整えた皆がドアの前で私を待っている。
「あ、うん! 今行く」
教科書とノートをまとめてバタバタと立ち上がった。
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