上 下
200 / 223
約束

しおりを挟む





「────迷惑かけて、ごめんなさい」


瓏くんが再び教室に登校できるようになったのは、あれから一週間過ぎた異文化交流学習の最終日だった。

教室に入ってくるなり深々と頭を下げた瓏くん。皆無事に復帰したことを喜ぶ声をかける。そんな中、一人だけ不機嫌そうにムスッとそっぽを向いた恵衣くんが口を開いた。


「"多大なる迷惑"の間違いだろ。やり直せ」

「ただいなる……? 迷惑かけて、ごめんなさい」

「あはは、恵衣の言うことなんて聞かなくていいのに」

「黙れ眼鏡」


途端火花が飛び散った二人に皆が声を上げて笑う。教室の雰囲気はすっかり元通り、とまでにはいかないけれど和やかな空気が流れていた。

ガラガラと教室の前の扉が開いて薫先生が顔を覗かせた。


「お、やっと揃ったね~。今日は五、六時間目の俺の授業取りやめで慰労会するから、グッドタイミングだ」

「え、薫先生それマジ!?」

「あはは、マジマジ。お昼休みに準備するから、俺の研究室にお菓子取りに来てね」

「やっほーい!」


諸手を挙げて喜ぶ皆に頬を緩めた。

お前らはなんのために神修に来てるんだ、不機嫌な声でそう言った恵衣くんは呆れた顔でそっぽを向いた。

その頬にはまだ大きなガーゼが残っている。みんな腕や顔には怪我の跡が残っていて、でも「一年の時に比べたらマシだよな」と逞しく笑っている。

確かにあの時は一学期の半分をベッドの上で過ごしたわけだし、比べたらかなりマシだろうけど。

笑って流せる皆の逞しさに結構感心した。


途切れた呪印が再び刻まれたことによって、私たちは瓏くんの暴走を止めることが出来た。

後になって分かったことだけれど、瓏くんを止めることを選んだ私たちの選択は間違っていなかったらしい。風に乗った怪し火が山の中腹で燃え広がって、先生たちは立ち往生していたのだとか。

お互いに肩を貸し合いながら満身創痍で下山すると、あまりにも酷い状態だったのかすぐさま医務室へ担ぎ込まれた。


いちばん酷かったのは聖仁さんだ。背中に酷い火傷を負って今も医務室の奥に入院している。昨日まで面会謝絶だったけれどやっと状態が落ち着いて、面会の許可がでた。

鬼市くんたちが帰ってしまう前に、放課後皆で会いに行く予定だ。


瓏くんが暴走してしまった原因は未だに分かっていない。当の本人もよく分かっていない様子で、恐らく模擬修祓の競技用に放たれた幽世生物のせいだろうという結論になった。


今回は事情が事情なだけにお説教を喰らうことはなかったけれど、薫先生は私たちの無事を喜んだあと諦めたような顔で天を仰いでいた。

叱る相手がいない偉い人達は「監督不行届」という理由で薫先生を叱るしかないらしい。責任の所在がはっきりしないと一件落着できないなんて、大人ってちょっと変だと思う。

申し訳ないけれどこればかりは私達ではどうすることも出来ないので、みんなでお金を出し合って薫先生の好物である金平糖を献上したら薫先生は笑っていた。


噂好きの学生たちによって、今回の騒動も瞬く間に広まっていった。人から人へ伝えられる度に誇張され、今や英雄の偉業のように語られているらしい。

そのおかげか奉納祭前みたいに陰口を言われることはなくなったけれど、反対に陰口を言っていた事への申し訳なさなのかすれ違う度に気まずい顔をされることが増えた。それはそれで私も気まずい。


「巫寿ちゃん、一時間目漢方薬学だから移動教室だよ」


用意を整えた皆がドアの前で私を待っている。


「あ、うん! 今行く」


 教科書とノートをまとめてバタバタと立ち上がった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~

硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚 多くの人々があやかしの血を引く現代。 猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。 けれどある日、雅に縁談が舞い込む。 お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。 絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが…… 「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」 妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。 しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

白鬼

藤田 秋
キャラ文芸
 ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。  普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?  田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!  草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。  少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。  二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。  コメディとシリアスの温度差にご注意を。  他サイト様でも掲載中です。

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~

束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。 八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。 けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。 ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。 神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。 薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。 何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。 鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。 とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

処理中です...