189 / 253
はぐれ者同士
弐
しおりを挟む妖狐の道を踏み外した悪事を働く狐を、俺たちは野狐と呼んでいる。人の世界と同じで、盗みを働いたもの殺しをしたものなんかがそう呼ばれる。
どの一族も昔から一定数は野狐がいて度々一族内でも問題視されてきたらしいが、先の戦────空亡戦で野狐達が空亡側に付いたことで一族だけの問題ではなくなったのだとか。
それから野狐の取り締まりは一族の垣根を越えて妖狐族全体で取り締まるようになった。
今回の遠征は祓除ではなく黒狐一族から抜け出した野狐の討伐だったらしい。
黒狐一族の野狐の噂はそこまで聞いたこともないし、オヤジ達もそれほど警戒せず出発し案の定大した戦闘にもなず野狐は全員確保したのだとか。
問題が起きたのはその後だった。
野狐に捕まった他の種族の妖がいないか確認するため、根城を徹底的に捜索していた時に封じの結界が施された地下通路が見つかった。
結界は何重にもかけられていて、それを見つけた第一発見者の若い妖狐は「奥に宝が保管されている」と思ったらしい。
確かにこれまでの野狐討伐で、同じように地下に奪った宝が隠されていることはよくあったのだとか。
若い妖狐か一つ目の結界を解いた次の瞬間、地下通路は青い炎に包まれた。
「その犯人があの坊主や。九尾の尾っぽとあの強さからして、間違いなく千歳狐やな。最近千歳狐が誕生した話は聞かんから、おそらく160年前くらいに攫われた白狐一族の天狐の子供や」
騒ぎを聞きつけたオヤジたちが慌てて母屋から駆けつけてきて、気絶した俺は無事回収された。
治療してくれた巫女頭が「あんな所に隠れてる信乃さんが悪いんやで」と擦りむいた膝へ雑に消毒液をかける。いでぇ!と悲鳴をあげて抗議した。
白狐一族から千歳狐が生まれた話は母親から聞かされたことがある。
千歳狐は空狐────千歳以上生きた妖狐同士が子をなせば、その子が千歳狐となって生まれる。
千歳狐が生まれるということは妖狐一族にとって非常に喜ばしいことで、その当時は一年近く宴が行われたらしい。
しかし人の世が戦国の乱世になり、その戦火は妖の世界にも広がった。一族同士の里の奪い合いが頻発した。
そして戦の混乱に乗じて黒狐一族の野狐が天狐2匹を殺害、その子供である千歳狐を拐った。拐った動機は千歳狐の戦力を自分の一族に引き入れたかったかららしい。
「引き入れたかったくせに、ずっと地下牢に閉じ込めてたんか? 何やそれ」
包帯を巻こうとする巫女頭の手から逃げて傷口を舐めた。
「千歳狐っちゅうんは、力が強すぎるから空狐になるまでは親元で制御の仕方を勉強するんや。修行期間が明けるまでは人里どころか妖の里にも降りてこん」
「うっげぇマジか! 空狐までオヤジらと同居とか考えただけで吐きそうや。おぇ~」
出来たてのたんこぶを上から殴られた。
キャンッと悲鳴をあげ縮こまった。痛みのせいで仕舞ったはずの耳と尾っぽが飛び出した。
「あの子は修行期間が明ける前に拐われてしもたから、ただ暴走することしかできやん。野狐たちの手にはおえん存在やったんやろ」
なるほどな、だから地下牢に放り込んどいたんか。
「今あいつはどないしてんの」
「力を強制的に弱める呪印を体に刻んである。連れて帰ってくる時も入れたはずなんやけど、さすが千歳狐やな。それくらいじゃ抑えきれんかったみたいや」
「オヤジがちゃんと施さんせいで俺が犠牲になったんやけど!」
「バカタレ、事情説明しよ思てたのにお前が隠れてたからやろ」
それは、と目を逸らした。
ため息をこぼしたオヤジはそれ以上の説教は止めた。十分すぎるバチが当たったので仕事をサボったことは一旦許してもらえたらしい。
「とにかく暫くウチで預かることになった。面倒見たれよ」
「嫌やし、そんな危険な奴!」
べぇっと舌を出せばオヤジは俺の頭を叩くように撫でた。
たんこぶが若干痛かった。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる