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奉納祭
弐
しおりを挟む「────ねぇヤバいよ! 午後の部で一回でも上位入賞逃したら僕たち優勝できない!」
午前の部が終了し一時間の昼休憩が挟まれた。
私たちはいつものたまり場である庭園の反り橋の下で、食堂のおばさんたちが用意してくれた奉納祭弁当を突きながら作戦会議に勤しんでいた。
午後の部の種目の得点表と睨めっこしていた来光くんが悲鳴をあげる。
「三年一組とは20点差で負けてるからな……巻き返すならあと二種目で1位を取りたいところだな」
「得点取れそうな種目言うたら、最後のアレくらいちゃう?」
午後の部はあと五種目あって、その大トリが高等部が全員参加する模擬修祓だ。
「纏まって動くか? 得点高い強い呪いとか協力プレーで祓えばなんとかなりそうじゃね?」
確かに手っ取り早く稼ぐには団体プレーで特典の高い獲物を狙って行くのがいいのかもしれない。
みんなが泰紀くんの意見に賛同しかけたその時「……いや」と慶賀くんが片手をあげて制した。
「模擬修祓は個人プレーで行こう。確かに纏まって一気に特典を稼ぐのもいいけど、もし残穢の少ないハズレエリアに当たった時に移動時間が持ったいねぇ。たしかに得点の大小はあるけど、これは修祓の正確性が見られる競技だ。小さいグループ……1チームにつき二人だな。ペアを作って東西南北に散って動く方が確実だと思う」
深く考え込むように俯いた慶賀くんが淡々とそう言う。私たちの反応がないことに気が付き不思議そうに顔をあげた。
ポカンと口を開いて固まる私たちを見て「何だよ?」と眉根を寄せる。
「お前……ほんと奉納祭のことになるとキャラ変わんのな。そこまで行くとちょっと気持ち悪ぃぞ」
「やめてよブレーン担当は僕なんだから。お前は馬鹿担当のままでいて」
「……んだとコラ!?」
二人に飛びかかった慶賀くん。そのまま仲良くみんなでひっくり返って悲鳴をあげた。相変わらずのやり取り少し呆れながらも笑って見守る。
そして慶賀くんの提案により、信乃来光ペア、嘉正泰紀ペア、瓏慶賀ペア、私は鬼市くん恵衣くんと組んで出場することになった。
鞍馬勢とこちらの神修が混じっていい塩梅に力の均衡も取れたチーム分けだろう。
なにより恵衣くんがチームを組んで出ることに賛成してくれたのは意外だった。
実行委員で本部テントで昼食を食べている恵衣くんに作戦のことを電話で伝えると案の定「誰がお前らなんかとチームを組むか。一人でやる方が効率がいい」と一蹴される。
とりあえずチーム分けだけ伝えると恐らく電話の向こうで苦い顔をしながら「……わかった。従う」とだけ呟き通話を切った。
渋々ながらも慶賀くんの人選に納得してくれたらしい。
「恵衣くんも納得してくれて良かったね、慶賀くん」
また俯いて深く考え込む慶賀くんに声をかける。ワンテンポ遅れて「ん?」とこちらを見た。
「なんか言った?」
「あ、いや……雑談だよ」
「そっか、悪ぃな聞いてなくて」
かつてないほど真剣な表情の慶賀くん。みんなの雑談も耳に届いてないようだ。
お祭りってここまでを人を変えるんだな、なんて思いながら卵焼きを咀嚼した。
「────贔屓目なしにこの学校で一番実戦経験があるのは君らだ。いつも通りに落ち着いて、サクッと優勝とってきな」
ハイッと皆の威勢のいい返事が車の中に響き渡る。
「目指すは!」
「優勝!」
「掴むは!」
「栄光!」
「ウィーアー……」
「チーム罰則ッ!」
強く一歩踏み出した私達は天高らかに拳を突き上げた。
頑張ろうね、とお互いの背中を叩きあっている中で呆れた浮かべた信乃くんが口を開いた。
「今朝から思っとったけど、チーム罰則って名前どうなん?」
あー、と苦笑いで頬をかく。
一年の頃まだ階位が出社だった私達は自分たちのことを「チーム出仕」と称していたけれど、二年になり直階へ上がったことで「チーム出仕」がな乗れなくなった。
次のチーム名を何にするかと話し合った時に、以前鶴吉さんから罰則の多さに呆れられて「お前らもうチーム出仕じゃなくてチーム罰則にしろ」と言われた事を思い出し、結局チーム罰則になった。
泰紀くんいわく「むしろ不吉で縁起がいい」とのこと。
納得できるような出来ないような。
でもチーム罰則を名乗り始めてから確かに罰則を食らった回数は減った気がする。今月はまだ一度しか掃き掃除をしていない。
頑張ってね~、と薫先生に送り出された私達は車を降りて外に出た。
午後の部最後の種目である高等部全員参加の模擬修祓は規模が大きいのもあって別の会場で行われる。
今回私たちが連れてこられたのは何処かの山奥だ。車を降りる前から嫌な感じが肌にヒリヒリと伝わって来ていたけれど、降りてすぐに納得する。黒い靄が分かりやすく至る所に広がっていた。
この競技用に先生たちが用意した残穢だ。
「ヤバいなこの山。競技じゃなかったら絶対入りたくねぇよ……」
「確かにね。長居したら気が狂いそう」
出場する一年生たちが苦い顔をしながらそう呟く。
確かに競技じゃなかったら私も近付きたくない。
チームを組む鬼市くんに声をかけた。鬼市くんは目を細めて小さく微笑む。
「よろしくな巫寿」
右手を差し出された。
なんの手だろうと一瞬考え、「頑張ろうな」の握手なんだとすぐに理解し差し出す。
「うん、よろしく。頑張ろうね」
差し出された手を握ろうとしたところで、鬼市くんの手がパンッと叩かれて弾けた。
「チームを組んでいるとはいえ個人競技だぞ。よろしくするな馬鹿共が」
恵衣くんが冷めた目で鬼市くんを睨んでいる。
「はぁ」
「なんだよ文句があるなら言えばいいだろ」
分かりやすくため息をついた鬼市くんの態度が気に入らなかったのか眉を釣りあげた。
「言いたいことがあるのは恵衣の方だろ」
「……はぁ?」
「自分の気持ちも伝えられないくせに、人の事に首突っ込むなよ」
カンッと喧嘩のゴングが鳴り響いたのを悟って「ストップストップ!」と間に入る。二人ともつかみかかる直前だった。
何で恵衣くんはすぐに喧嘩腰になるかな。鬼市くんも恵衣くん相手だとなんだかいつもよりも冷たいし。
競技中はチームを組むわけだし少しは協調性を持とうという気にならないのだうか。
「二人とも落ち着いて。もうすぐ始まるから」
「巫寿、こいつ置いていこう」
「置いていかれるのはお前だッ!」
「もー!」
始まる前から先行きが不安だ。
慶賀くんのチーム分けに最初は感心していたけれど、やっぱりこの二人の組み合わせは間違っている気がする。
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