言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ

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奉納祭

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「────只今の結果……第1位、三年一組さかき聖仁せいじん。第2位、三年二組飛鳥馬あすま鶴吉つるきち。第3位、神役修霊高等学校しんえきしゅうれいこうとうがっこう信田妻信乃」


レース結果の放送が入り、グランドの生徒たちが一斉に「わぁッ」と盛り上がる。


「よしッ! やっぱり第2レースに聖仁さんと鶴吉さんぶつけてきたか! 三位に入れただけでも大健闘だぜ!」


自分の読みが当たったことを喜ぶ慶賀くんは、戻ってきた信乃くんとハイタッチを交わす。続いて私も手を合わせて健闘を讃えた。


「おっ、お前……俺の健闘も、讃えてくおろろろろ」

「お! 泰紀おかえり! ナイスゲロ!」


三歩歩く度に目を回して吐きまくる泰紀くんの背中をバシバシと叩く慶賀くん。

ああそんな風にしたらもっと悪化するんじゃ……。

案の定おろろろと戻す泰紀くんは白目を向いてひっくり返った。

泰紀くんも大健闘した方だ。私達の中では一番操縦酔いに苦労していたけど、扱いに慣れた三年生二人と信乃くんに続いて四位に入った。

四位以下は得点は入らないけれど、この短い間でそれだけの実力を身に付けたんだから誇っていいと思う。


「よーしよし! 後は雑魚ばっかだから、皆ゲロってでもゴールさえすれば上位取れるぞ! 俺もひとゲロしてくらぁ!」


だはははっ、と愉快そうに笑いながら待機位置へ走っていった慶賀くん。

その背中に「頑張れー!」と声援を送った。


一週間前からよく晴れる予報だった奉納祭の当日は、お天気お姉さんの言う通り雲ひとつない晴れ空だった。

瓏くんが昨日急遽出場が可能になったことで大幅に戦力アップした私たちは着実に得点を稼いでいる。現在トップの聖仁さん率いる三年一組とは抜いて抜かれてを繰り返している。


「おい薫先生もっと声出せよ! 受け持ちの生徒がこんなに頑張ってるんだぞ!」


テントの下で椅子に深く座り顔にタオルをかぶせ天を仰ぐ薫先生。今朝からずっとその調子だ。

泰紀くんが文句を零せば気だるげにタオルを持ち上げてこちらを見る。


「許してよ泰紀、明け方まで任務だったんだって。態度に出てないだけで、心の中では全力応援してるから」

「一徹くらいで情けねぇ~」

「泰紀も大人になったら分かるよ、三十路手前の徹夜がどんだけしんどいか。ほら、次の種目始まるよ。行った行った」


なんだよー、と言いながらテントを飛び出して行った泰紀くん。

次の種目は借り物競争だ。私と瓏くんと泰紀くんが出場する。

私も「行ってきます!」と声をかければ、薫先生は「はーい、頑張って」と軽く手を振った。


借り物競争に出る生徒たちの待機列に混じって座る。


「ねぇ泰紀、あんまり薫先生のこと責めないで」


隣に座っていた瓏くんが唐突にそう言った。「何だよ突然」と怪訝な顔をする。


「俺の今日の任務、薫先生が変わってくれた。明け方までかけて、全部終わらせてくれたから」

「え! そうなのか!?」

「今朝、頭領からそう連絡きた」


マジかよ、と少し申し訳なさそうな顔をした泰紀くんは困ったように頬をかく。

だから昨日はホームルームもできないほど仕事が立て込んでいたんだ。

泰紀くんは「後で謝るかぁ」と唇を尖らせた。


「薫先生、凄くいい先生。俺、薫先生好き」

「まぁ悪い人ではないよな。基本的には俺らのことよく考えてくれるし」


しみじみとそう呟いた泰紀くんに深く頷いた。

二学期にお兄ちゃんから神修へ戻るな、と言われた時も薫先生は私がどうしたいのかを聞き出そうとしてくれて、私が選んだ道に進めるよう協力すると約束してくれた。

春休みの間私の昇階位試験の結果を伏せていたのも、私が気兼ねなく休みを楽しめるためにそうしてくれたみたいだし、日々の言動から薫先生が生徒思いなのはよく分かる。


「たまーに青春にかこつけて、めちゃくちゃな事させてくるけどな!」

「あはは、確かに」


何かにつけて「もっと青春しなよ」「思い出作りなよ」と言いながら、その後私達に無茶な事をさせようとしてくる。

去年の二学期奉納祭で漫才をさせられそうになったのがいい例だろう。


「薫先生ってどんな学生時代送ってたんだろうな~」

「意外と私達と同じなのかもね」

「だから薫先生の説教って響かねぇのか!」


ぽんと手を打った泰紀くんにクスクスと笑う。

今度機会があったら、薫先生の若かりし頃の話を聞いてみよう。





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