言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ

文字の大きさ
上 下
171 / 253
自主練

しおりを挟む


おろろろ、おえええ、とちょっと文字に起こすには汚い音があちこちから上がっている屋外演習場にて。

授業が終わったあと、わざわざ自主練をするために屋外演習場へやってきた私達は自主練どころじゃなくなって各々に白砂の上に倒れ込む。

私も寝転がって天を仰ぎ、胃から湧き上がってくる感覚にうぷっと口元を押えた。


「あはは、皆面白いくらいにゲロりまくってんね」


屋根のある所から椅子に座って私たちの様子を見ていたくゆる先生がケラケラと笑いながら歩いてくる。


「だから今年は人型は諦めて、大人しく動物型にしろって言ったのに」

「だって薫先生……おろろろ」

「俺らだってやればでき……おえええ」

「あはは、会話になんないんだけど」


目が回ってまた地面に転がる二人を、寝転がりながら横目に見る。


「それに比べて来光はかなり安定してるね」

「去年の冬に特訓したんで」


来光くんはきらりとメガネを光らせて得意げに笑った。


「ま、意欲的なのはいいことだけどね」


寝転がる泰紀くんの背中にドスンと座った薫先生。グエッと潰れたカエルの悲鳴が聞こえた。


六月も後半に差し掛かった。このところじめっとした暑さが連日続いている。最近では鎮守の森のセミたちも明け方頃から鳴き始め、寮のみんな少し寝不足気味だ。

開門祭が終わると、学校内の雰囲気は一学期の終わりにある奉納祭一色になった。放課後や昼休みの空いた時間に至る所で自主練する学生の姿が見られる。みんな金一封に向けて必死に特訓しているようだ。

私たち二年生も今回はかなり気合いが入っている。なんせ去年は入院中で参加できなかったものだから、今年こそはと息巻いている。

数日前から私達も自主練を初め、今日は薫先生を捕まえて形代操術かたしろそうじゅつの稽古をつけてもらっている。


奉納祭の種目の一つである、形代使ってその速さをを競わせるレースの特訓だ。

レースの種類は動物型と人型を競わせる二種類あって、難易度が高い人型は入賞すると得点がかなり貰える。なんでも動物型の一位と人型の最下位は同じ得点なんだとか。

形代操術の授業は2年生になってすぐに始まったけれど、私たちはまだ馬、牛、鳥、犬の形の形代しか動かす練習をしたことがない。

出場に制限はないけれど、毎年2年生は馬で参加するのが基本らしく、人型はほぼ三年生の競技なんだとか。

けれどどうしても人型で出たいと言った慶賀くんに合わせて私達も急遽人型を動かす練習を初めて今に至る。


「薫先生、何でこんなに気持ち悪くなるんですか……」


むかむかする胃を押えながら質問する。薫先生は「いい質問」と機嫌よく指を鳴らした。


「そもそも形代って言うのは、自分の分身だって初回の授業で話したでしょ?」


こくりと頷き、バッと口元を抑える。

あ、だめだ。頭を動かすとまた吐きそう。


「動物形は飛ばす走らす泳がす程度のことしか出来ないけど、人型だともっと人間らしい複雑なことが出来るようになるわけ。つまり本体である自分がいて、分身である形代も動かさないといけないのね」

「つまり、同時に自分を二体動かしてる的な……?」


う、と嘔吐きながら嘉正くんがまとめる。


「その通り。人の動きって思ったよりも複雑な動作の連続なんだよ。そんなのを二倍の量こなしてちゃ、頭もオーバーヒート起こすよね。あはは」


なるほど、頭がオーバーヒート……。

だからこんなに気持ち悪くなるんだ。


「鞍馬勢は優秀だねぇ」


人型の形代で組体操をして遊んでいる鬼市くん達に感心したようにそう言った。


「妖力はイメージ通りに動かす力やからな。形代を動かす感覚はそれとよう似てるから、初等部で習うんや」

「こんなことおろろろ、初等部ですんのかよおぇぇぇぇ」

「喋るか吐くかどっちかにし」


騒ぐみんなを横目に、だいぶ吐き気も落ち着いてきたので体を起こして形代を取り出す。

習ったとおりに息を吹きかけて宙に放つとポンッと軽やかな音を立てて私と同じ背丈まで膨れ上がった。次の瞬間、胃液が登りあがってくる感覚に「うっ」と口元を抑える。また地面に舞い戻った。

こりゃ相当な努力が必要だな、と目を細める。遠くの山に沈む夕日をぼんやり眺め深く息を吐いた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

処理中です...