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二年生
壱
しおりを挟む「おっ、巫寿! 久しぶり~」
神修へ向かう車の乗り場へ着くと、既に到着していたクラスメイトたちが私に向かって手を振った。大きくてを振り返して側へ駆け寄る。
「久しぶり、皆! 春休みどうだった?」
「相変わらずだよ。家帰ったら結局は社の手伝いしなきゃいけないし」
「そうそう。夕拝出ないといけないから学校にいる方が楽だな~」
「俺もそんな感じ。いいよな来光はのんびりできて~」
「僕だって遊び呆けてた訳じゃないし! 薫先生にあちこち連れ回されて大変だったんだから!」
口々に春休みの思い出を語るみんなに目尻を下げる。
しばらく雑談して過ごしていると「出発しますよ」と声がかかりみんなで車に乗り込んだ。
新一年生の盛福ちゃんの姿を見つけて小さく手を振る。三年生の姿はちらほらしか見かけない。神修では三年生からご神馬さまに乗って通学することを許されるからだろう。
私たちは部屋の隅を陣取って腰を下ろした。
「毎回思うけど学校始まんの早くね~? 次の長期休暇夏だぞ、夏!」
慶賀くんは深く息を吐いて畳の上に大の字になった。
「次の休みの前に色々行事あるじゃん。勉強だって難しくなるし」
確かに二年生からは進路に応じて授業内容が変わってくる。巫女職を希望した私は二年生から巫女職に応じた科目の授業が増えるらしい。
「にしても薫先生に採点してもらったとはいえ、合格通知届くまでヒヤヒヤしたよなぁ。落ちたらまた一年やり直しだぜ?」
「来光の後輩になるとか笑えねぇよなぁ」
「ちょっとそれどういう意味?」
いつも通りのやり取りにくすくす笑っていたけれど、「ん?」とすぐに首を傾げた。
「ねぇねぇ、合格通知って何?」
今度は皆が「え?」と首を傾げた。
「何って、巫寿のとこにも届いただろ? あなたは直階四級に合格しましたって書かれた手紙と合格証明書」
「そうそう。一週間くらい前に届いたよ」
「A4の白い封筒に入ってたぞ」
え?と眉をひそめた。
実家のポストは定期的に確認していたけれど、折り込みチラシばかりで白い封筒が入っていたことは一度もなかった。
私が見ていない時はお兄ちゃんが確認していただろうけれど、私宛の手紙や書類を勝手に開けるような人ではない。
それに本庁から届くものなら、届いた時は必ず知らせてくれたはずだ。
「え……もしかして巫寿だけ落ち……」
慶賀くんがそこまで言ってハッと口を閉じた。さぁっと顔から血の気が引いていく感覚がする。
「落ち着いて巫寿。合格でも不合格でも連絡はくるから、何かの手違いで届かなかったんだよ」
すかさず嘉正くんがそう言う。
確かに、そうだよね。普通試験結果はどんな結果になろうと連絡が来るものだ。
「それに開校の手紙は届いてるよね? 新二年生の皆さまへってやつ」
「あ、うん。木箱で迎門の面と一緒に……」
「じゃあ大丈夫だよ巫寿ちゃん。進級できてなかったら"新二年生"とは書かないだろうし、嘉正の言う通り何かの手違いで届かなかったんだよ」
メガネを押し上げて来光くんが微笑む。
二人からそう言われて、不安だった気持ちが少しだけ和らぐ。
二人の言う通りだ。もし進級できなかったとしたら薫先生や学校から連絡が来るはずだ。何も無いということは、本当に手違いで送られてこなかったんだろう。
とにかくお兄ちゃんにメッセージを送って、届いたらすぐに連絡をして欲しいと伝えておこう。
「じゃ、気晴らしに花札やろーぜ!」
「おっしゃ、俺今日のデザート賭ける!」
すぐに切りかえた皆は鞄を隅に寄せて花札の準備を始める。
なぜか胸のざわめきは一向におさまらなかった。
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