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不安と月兎の舞

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九月の一週目が終わって、8月のうだるような暑さはだいぶ和らいだ。

依然、学校内で病気にかかる生徒は増えているし、初等部は学校閉鎖が継続されている。中等部の一年も先週から学年閉鎖になった。

少し前までは嘉正くんからトークアプリでメッセージがぽつぽつと帰ってきていたけれど、【ごめん、体調悪い。返事遅くなるかも】というメッセージが3日前に送られてきてからぱったり途絶えている。

蝉の声も聞こえなくなり、鎮守の森も少しずつ色褪せ始めている。静かな学舎内はより一層もの寂しい感じがした。


「うわっ! 巫寿ちゃんそれ大丈夫!?」


昼休みが終わる5分前に教室へ帰ってきて、顔を顰めながら足の裏の絆創膏を直していると、外から帰ってきた来光くんたちが目を剥いて駆け寄ってきた。

皮が剥けて赤くなった足の裏はここ数日の練習の成果でもあるけれど、他の人から見ればやはりそれほど痛々しいらしい。


「見事にずるむけだな。俺のテーピング貸してやるよ。槍術部の練習も結構足の裏やられるからさ」

「いいの? ありがとう」


カバンの中からベージュのテーピングを取り出すと「ほい」と私に投げて渡す。

絆創膏ではそろそろ限界かなと思っていたところだったのでありがたい。

お礼を言いながら受け取った。

月兎の舞の練習は連日朝から晩まで時間があれば行われていた。

富宇先生に見てもらえるのは放課後の2時間と神楽の授業の時だけなのだけれど、聖仁さんは朝から晩まで私の練習に付き合ってくれてた。

練習が始まって三日目で、何だか足が痛いなと思って練習終わりに見てみたら足袋が真っ赤に染まっていた。連日の度重なる練習で、今まではそこまで酷使していなかった足の裏の皮はずるむけになってしまった。

初日は歩くのですら辛い程だったけれど、ここ最近はその痛みにも慣れてきた。練習中は集中しているから気にならないけれど、やっぱり練習終わりになるとジクジクと痛んだ。

ふぅふぅと息をふきかけながら「これ以上酷くならないでね」と祈る。


「軟膏いる? あ、ちゃんと豊楽先生と作ったから塗っても爆発はしないぜ」


机の奥からゴソゴソと小瓶を取り出した慶賀くんも、「ほら」と私に投げて渡した。

あけるとヨモギのいい匂いがして胸がスっとする。


「慶賀もしかして塗ったら爆発する漢方薬作ったことあるの?」

「あるある、偶然の産物だけどな~。もう一回作りたいんだけど、混ぜる段階で爆発しちまうんだよ」

「お前が未だに罰則止まりなのが不思議で仕方ないよ」


みんなのやり取りにくすくすと笑いながら、貰った善意をありがたく使わせてもらう。


「お、あった。これも貼っとけ。最初は気持ち悪いけど、結構緩衝材になるんだぜ」


そう言って泰紀くんは解熱シートを差し出す。言われた通りに軟膏を塗ってテーピングを巻き、その上から解熱シートを貼ってみる。

恐る恐る足を着くと、あれほど悩んでいた床に着いた時の痛みが少しも感じなかった。


「これすごいね。全然痛くないや」

「だろ? でもこれ応急処置だから、ちゃんと消毒してガーゼ当てとけよ」

「あれおかしいな。僕、泰紀が頼りになる男に見えるんだけど……」

「眼科行けよ~」

「よしお前ら一旦廊下に出ろやぁ」


二人にプロレス技を決めた泰紀くん。ぎゃあぎゃあと騒いでいると五限目の先生が教室へ入ってきて、「うるさい!」と叱られる。

静かな学校内で唯一この教室はずっと賑やかで明るい。今の私にとっても、それが救いだったりする。

正直、毎日観月祭の事で頭がいっぱいだった。

どれだけ練習しても瑞祥さんにはちっとも追いつけなくて、それなのに毎日練習に付き合ってくれる聖仁さんにも申し訳なくて、何よりもリハーサルの時に感じたあの失敗は何一つ許されないような張りつめた空気感を思い出せば胃が痛くなる。

大事なお祭りで学校の発表会なんてレベルじゃ無いことは分かっている。御祭神さまに奉納するための舞を踊るということも自覚している。開門祭の神話舞の時だってそれはちゃんと分かっていたけれど、あの時はもっと和やかな空気だった。

一度引き受けると決めたからには弱音なんて吐いてはいられない。そんな暇があるなら練習しなければいけない。

でも一人になった時、ふと泣き言を漏らしたくなる。

だからこうしてみんなといる賑やかな時間は気が紛れてありがたい。




【文殿で寝てるけど、ほっといていいのか?】

その日の放課後、富宇先生ときっちり二時間の稽古をした後何となくスマホを見てみると聖仁さんからそんなメッセージが届いていた。

確かにいつも富宇先生の稽古の時から付き合ってくれるから、時間になっても現れなかった聖仁さんが少し気になっていたところだった。

それに加えてこの変なメッセージだ。

ほっといていいのか、ということは迎えにこいって事かな……?

そうだとしてもこの文章の書き方は聖仁さんっぽくなくて妙に気になる。

首を傾げながらも、文殿に向かった。


一学期が終わってからは何となく足が遠のいて文殿の扉を開ける。入口のすぐ右手には机に向かう神職さまがいて、思わずハッと息を飲んだ。


「こんにちは」


顔を上げた挨拶したその人は、私の知らない年配の神職さまで無意識に止めていた息を吐き出す。


「こんにちは……」

「名前書いてから入ってね」

「は、はい」


バインダーに挟まれた紙に名前をすらすらと記入し、一つ頭を下げて狭い通路に向かった。

あの人が戻ってくることはないと薫先生は断言していた。

残穢を吸い込んでしまった私たちですら全回復するのに三ヶ月近くかかったんだ。あの人が吸い込んだ残穢は遥かに私たちよりも多い。最後に見た姿は、どす黒く染った肌とピクリとも動かない指先だった。

あれからどうなったのかは誰も知らないし、聞こうともしなかった。知ったところで私たちに、出来ることはない。

狭い本棚の通路を通り抜けながら、左右の棚の間を見て回る。

漢方学の棚に差し掛かって、探していた姿を見つける。その両隣にもう二つ人影があって目を瞬かせた。


「お、来たな。すまん、巫寿の連絡先を知らなかったから、勝手にこいつのから送った」


聖仁さんのスマホを軽く掲げたのは小柄な女の人だった。

細長い長方形の眼鏡の奥にあるツリ目がちな下三白眼。閉じているだけなら不機嫌そうに見えるへの字口の口角をにやりとあげて笑うその顔には見覚えがあった。


「漢方薬学部の……亀世かめよさん?」

「お、よく覚えてんな。飛鳥馬あすま亀世かめよ、高等部の二年だ。よろしくな」


差し出された手を握る。

なるほど、ということはあのメッセージを送ったのは聖仁さんではなく亀世さんだったのか。


「なんだ、二人とも知り合いだったのか?」


亀世さんのさらに奥からひょこっと現れた同じ顔に目を見開く。

亀世さんよりも一回り大きい体に低い声、顔のパーツは全く同じだけど全体の雰囲気はどちらかと言うと人懐っこい。


「聖仁と瑞祥がよく話してる巫寿か。俺、飛鳥馬あすま鶴吉つるきち。聖仁たちと同じクラスだ。よろしく」


差し出された手を握り返しながら二人の顔を見比べる。

違うところを探す方が難しいほどそっくりで、まるで鏡でも見ているみたいだ。体型さえ違わなければ、見分けはつかないだろう。

もしかして二人って。


「私が妹、こっちが兄貴。双子な」


やっぱりそうなんだ。

小学校の頃は同級生に双子の男の子がいたけれど、そこまで似ていなかった。男女でもここまでそっくりな顔に生まれるんだな、と感心する。


「六限目が自習だったから文殿で調べ物してたんだが、こいつそのまま眠りこけちまってな。毎日放課後は月兎の舞の練習に行ってたから、どうしたものかと思って」

「そうだったんですね」


テーブルに突っ伏してすうすうと寝息を立てる聖仁さんは少し新鮮だ。

私から見た聖仁さんはいつもどんな時でも完璧で頼れる超人だったから、こうして休んでいる姿を見ると少し安心する。


「叩き起すか? 丁度いい爆竹あるぞ」

「ば、爆竹……?」


慶賀くんの部活動の先輩なだけあって思考回路が彼とほぼ同じだ。


「爆竹は流石にやばいだろ。代わりに俺が作った祝詞試していい?」

「クク、やってみるか」

「前に部活で来光に試した時は、一時間笑い続けてたな~」


来光くんの名前が上がったから、鶴吉さんは究極祝詞研究会なんだろう。クラスメイトだけでなく部活動の先輩からもなかなか酷い扱いを受けている 来光くんの苦労は計り知れない。

それにしても流石双子と言うべきか、鶴吉さんまでも似たような思考回路をしている。


「あ、あの。わざわざ起こさなくていいですから……!」

「なんだよつまらんな」

「大丈夫だって、怒られんの俺らだから」


そういう問題じゃない、と心の中で激しく突っ込む。

どっちが先に起こすか聖仁さんの頭の上でジャンケンを始めたところで、聖仁さんが小さく唸り声を上げながら起き上がった。


「クソ、遅かったか」

「聖仁もう少し寝てていいぞ」

「俺寝てた……? 今何時?」


ふわぁ、と手の甲で口元を隠して欠伸をして、首をめぐらせる。

私と目が合って不思議そうな顔をした聖仁さんは「あっ」と声を上げて弾けるように立ち上がった。


「ごめん巫寿ちゃん! やばい今何時!?」


その時、遠くで最終下校時刻を知らせる19時の鐘が鳴り響いた。


「うわっ、本当にごめん! 富宇先生との稽古は終わっちゃったよね!? 今から自主練付き合うから!」


聖仁さんは大慌てで散らばったテーブルの上を片付け始める。

行こう!と勢いよく立ち上がった瞬間ふらりと体の軸が傾いて、そのまま激しい音を立てて椅子を倒して床に座り込んだ。


「おうおう、ちたぁ落ち着け」

「大丈夫かよ聖仁」


鶴吉さんが手を引っ張って椅子に座らせると、流れるように亀世さんが聖仁さんの目の下を引っ張る。青い顔をした聖仁さんはされるがままになっていた。


「貧血だな。寝不足とストレスだろ」


制服のポケットをあちこち触った亀世さんは左のポケットに目当てのものが入っていたらしく、取り出すなり遠慮なく聖仁さんの口へねじ込んだ。

聖仁さんは何とかそれを飲み込んで顔を顰めた。


「……ありがとう亀世。一応聞くけど、これちゃんとした薬だよね?」

「もちろん、ただのきつけ薬だ。乾燥させた砂肝も混ぜてるから貧血にもいいぞ。豊楽先生の認可は取ってないけどな」


ごふ、と咳き込んだ聖仁さんの背中を鶴吉さんが笑いながら叩く。

何だかどの学年も似たような光景が繰り広げられているんだなと少し遠い目をした。

けけけ、と似たような笑い方をした二人に聖仁さんは深く息を吐いて額に手を当てた。


「とりあえずもう大丈夫だから。俺たち行くね」

「止めとけ。そんな状態で行っても巫寿に迷惑をかけるだけだぞ」

「まだフラフラじゃねぇか」


そんなの言ってられないよ、と肩を竦めた聖仁さん。

まだ頬の色が戻らない聖仁さんに眉根を寄せる。

良く考えれば、私の練習に付き合っている聖仁さんは私以上に疲れているはずだ。それなのに嫌な顔もせず、毎日時間を割いてくれていたんだ。


「あの」

「ん?」


恐る恐る手を挙げると聖仁さんは不思議そうな顔をした。


「私も、足の裏ずるむけで。今日の自主練はなしでもいいですか……?」


目を瞬かせた聖仁さん。数秒後、ふっと目を細めると柔らかい笑みを浮かべた。


「そうだね。今日はなしにしようか。休むことも大切だね」


良かった、と小さく息を吐く。


「やるな巫寿」

「すげぇ~。この練習馬鹿を休ませられるなんて、瑞祥くらいだと思ってた」


亀世さんたちは感心したように目を見開いて拍手する。

そんなに大袈裟なことなのだろうか。

夕方の自主練が無くなったことで聖仁さんは調べ物を再開するつもりらしい。棚の本を物色し始めた。

ちょいちょい、と私に向かって手招きした亀世先輩に不思議に思いながら歩み寄る。ここ座れ、目の前の椅子を促されてストンと腰掛けた。

テーブルの上に広がるノートや書物の山をちらりと盗み見る。詳しくは分からなかったけれど漢方薬に関連する物のようだった。



「何の調べ物ですか?」

「学校内で流行ってる例のアレだよ。────ほら靴下脱げ、傷口見てやるから」



お礼を言いながら靴下を脱ぐ。

よ、と私の足を持ち上げて自分の膝の上に置いた亀世さんの細い指が擽ったくて肩を竦めた。


「亀世さん達も変だなって思ってたんですか……?」

「ああ。明らかに流行り物の病の類では無い。本当は漢方学部の奴らと調べたかったんだが、部活が自粛になったからな。こいつらに手伝わせてる。……っと、少しみるぞ」

「ったくー。今度俺の調べ物も手伝えよな、亀世」


これはどう?と鶴吉さんが差し出した書物を一瞥して「違うな」と首を振った亀世さん。

鶴吉さんはすかさず付箋にバツ印を書いて背表紙に貼ると慣れた手つきで棚に戻した。


「1年生の間でも、ただの病気ではないんじゃって話してて……病気じゃないなら呪いや祟りの類いかもって」

「まあそうだろうな。この医療が発達した現代で、薬がどの症状にも全く効かないというのは妙だ。つまり医学では太刀打ち出来ない相手、ということになる」


やっぱりそうだったんだ。私たちの考えは間違いではなかった。

きっと私たちが気付いているということは、先生たちやまねきの社の神職さま、本庁の役員たちも気がついているはずだ。

それなのに何故誰も何も動かないんだろう、と眉根を寄せて直ぐに気が付く。

夏休みに恵里ちゃんの家でお祓いをした時のことを思い出す。そうだ、憑き物は相手が何なのかが分からないと祓うことは出来ないんだ。


「まぁ神職が総出で調べても何も分からないんだ。私らみたいな若造がちょっとやそっと探した所で見つかるはずはないんだけど────」


亀世さんはテーピングを巻きながら、ちらりと聖仁さんに視線を向ける。険しい顔のまま無言で書物の頁を捲る聖仁さんに唇をすぼめた。

まだ出会って数ヶ月程度しか経っていないけれど、二人の信頼関係がどれほどのものかは知っている。

だから聞かずとも分かる、瑞祥さんの事が心配で仕方ないんだ。


「何かしてないと気が済まない奴がいたからな。付き合ってるのはどちらかと言うと私の方だ」


ほい完成、と私の足を床に下ろした。熱を持っていた足の裏が新たに塗ってもらった軟膏のおかげでひんやりと心地よい。

靴下を履きながら、断りを入れてノートを見せてもらった。

患者の症状、長期の発熱・失声・倦怠感。病状の分布、八月の初旬から初等部二年男児が罹患。その後初等部内にて────。


「あの……亀世さん」

「なんだ?」

「これ、ちょっと詳しすぎじゃないですか?」


事細かに調べ尽くされたそのノートの内容に眉根を寄せる。

病状だけならまだしも、1日目午前中の体温、午後の体温、2日目午前中の体温、午後の体温……流石にそれは詳しすぎる。


「当たり前だろ。気を失ってる患者以外の全員から聞いたからな」

「でも医務室は立ち入り禁止何じゃ……」

「おいおい巫寿、それ以上は愚問だぞ? 俺たちがわざわざこんな時間までここに残ってる理由なんて一つだろ」


亀世さんと鶴吉さんは顔を見合せて「ハハハッ」と笑い出す。

なるほど、忍び込んだ末先生に見つかって罰則を命じられてここにいるんだ。


「私も一緒に調べてもいいですか?」

「ああ、もちろん。じゃあ巫寿は私のノートを見て、なにか見落としているものは無いか調べてくれ」


はい!と気合を入れて返事をして椅子に座り直しノートを開いたその時、


「────なんでだよ!? 俺ら何も悪いことはしてないじゃん!」

「そうだぜ陶護先生! 俺らなりに助けになればなって思って!」

「だからって入院してる学生を叩き起して病状の聞き込みをして良い訳じゃありません! そもそも立ち入り禁止だって言ったでしょう!?」


文殿の入口が騒がしくなって「何事だ?」と皆が棚の影から顔をのぞかせる。

そこには陶護先生に首根っこを掴まれた慶賀くんたちがいた。


「暫くの間は罰則です! 文殿の清掃! 全く、次から次へと……」

「ええっ! そんなのあんまりだ!」

「いつまで!?」

「一週間やそこらで解放したらまた同じことを繰り返すでしょうし……一連の騒動が落ち着くまでです!」

「そんなっ! 僕は関係ないのに……!」


ピシャン、と文殿の戸が閉められて、みんなはその場にヘナヘナと崩れ落ちた。

くく、と喉の奥で笑った亀世さんはヒラヒラと手を振りながらみんなに歩み寄った。


「可哀想に後輩ども。また罰則を食らったか」

「あれ、鶴亀パイセン達!」

「略すなバカタレ」


私たちの姿を見つけた慶賀くん達は不思議そう顔で立ち上がった。


「まさか鶴亀パイセン達も罰則? でも聖仁さんと巫寿がいるから違うか~」

「そのまさかだよ。この二人には手伝ってもらってるところだ」

「ええ~!? 何したの~?」


歩き出した皆の最後尾を肩を落としてとぼとぼと歩く来光くんに話しかける。


「来光くん大丈夫? 一体何したの?」

「はぁ……医務室に忍び込んだんだよ。病気の正体を突き止める、とかあの馬鹿どもが言い出してね」

「ああ……」


なるほど、亀世さんたちと同じ道を辿ったという訳だ。


「巫寿は今日練習無かったの?」

「うん、今日は休みになったの。それで偶然亀世さんたちに会って、亀世さんたちも例の件について調べてたから手伝ってるところで」

「嘘でしょ? 僕が巻き込まれた意味あった……?」


やつれた顔で力なく笑った来光くんにかける言葉もない。とりあえず励ますようにポンと肩を叩いた。


「丁度いいな、やりたい事が同じならお前たちも手伝え」

「やるやる! なんだ、鶴亀パイセン達も同じ事してたんなら先に言ってくれたらいいのに~」


頬をふくらませた慶賀くんの方を揉んだ鶴吉さん。


「悪いな慶賀! これでも常識ある先輩だから、厄介事には巻き込まないようにしてたんだよ」


その言葉に来光くんが目を剥いた。


「常識ある先輩は後輩を新作祝詞の実験台にしませんけど!?」

「ハハッ」

「笑って誤魔化すなーッ!」


まあまあ、と来光くんを宥めた。


「チーム出仕に頼れる先輩も加わって、俺らはより最強になったわけだ!」

「チーム出仕?」

「俺らのチーム名だよ!」

「お前ら来年直階になっても出仕のままのつもりなのか?」

「そ、それはおいおい考えるつもりだったの!」


みんなが加わった事で一気に賑やかになった文殿に声が響く。

ずっとどこか張り詰めた雰囲気だった聖仁さんもどこか力が抜けたように目を細めたて微笑んだ。


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