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家鳴のいたずら

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「────そう、だったんだ」


 目が覚めて、布団から起き上がると同時にそう呟いた。

 また夢を見ていた。誰かの面影がある“真由美”と言う少女は、間違いなく私のお母さん。あれはお母さんの思い出の夢なんだ。

 そして、家鳴の『なな』と言うのは、数字の七でも誰かの名前でもなかった。彼らは拙い言葉で、『泣くな』と伝えったかったのだ。

 泣くな、泣くな、と少女だったあの頃のお母さんを励まそうとしていたのだ。

 いてもたってもいられずに起き上がる。その場をうろうろして考えがまとまらずに、頭を抱える。すっかり目が覚めてしまい、仕方なく上着を羽織ると裁縫箱を持って部屋を出た。

 廊下はとてもひんやりとしていて、耳鳴りがしそうなほど静かだった。歩くたびに廊下が軋み、少し前の私ならそれにびくびくしていたんだろうなあと、少しおかしくなる。今では風に乗って聞こえてくる裏の社の賑わいのおかげで、暗い廊下も怖くなくなった。

 居間から灯りが漏れていた。三門さんが帰ってきているのだろうか。

 そうっと障子を開けてみると、廊下と反対側に座ったお父さんがガラス戸越しに月を見上げていた。


 「お父さん……?」

 「麻。どうした、トイレ?」


 首を振りながら中に入る。暖房がよく聞いていて暖かかった。


 「なんだか眠れなくなっちゃったから、お裁縫の続きをしようと思って。お父さんは?」

 「さっきまで三門くんと晩酌してたんだ」

 「三門さんと!」


 えっ、と目を丸くしたけれど、ふと考えてみると三門さんはもう大学を卒業している年齢だからお酒は飲んでも構わないんだった。普段お酒を飲んでいる姿を見たことがなかったから、少し意外だった。

 裁縫箱から作りかけのお手玉を取り出し、続きを再開する。するとお父さんが興味深げに側へ寄ってきた。


 「何を作っているんだい?」

 「お手玉。ひとつだけ見つかったから、同じの何個かを作りたくて」


 既に完成しているひとつを手に取って、「器用だなあ」と感心したように呟く。


 「これ、何の顔?」

 「あ、えっと……すねこすりっていう妖怪の顔なの」

 「すねこすりかあ。聞いたことがないなあ。父さん、妖怪だったら猫娘とねずみ男と、あとは目玉親父くらいしかしらないや」


 指を折りながらそう言ったお父さんに思わず吹き出した。


 「それ、妖怪アニメのキャラクターでしょう?」

 「あれ、そうだっけ」


 お父さんはとぼけた顔で後頭部を擦った。

 暫くすると自然に会話が終わり、シュルシュルと糸を通す音と、柱時計の秒針が時間を刻む音だけが響く。たまにお父さんに視線をやると、黙って月を見上げていた。


 「麻」


 名前が呼ばれて、手を止めた。お父さんが真剣な目で私を見ている。


 「お母さんと何があったの。どうして急に、三門くんの家へ行ったんだい?」


 ばくん、と胸が大きく鼓動した。無意識に息を止めていて、たぶん十秒かそのくらいだったのだろう。思い出すように吐き出したその瞬間、顔からさっと血の気が引いた。

 お父さんがじっと私の顔を見ている。何か言わなければいけない、黙ってしまえば余計に変だと思われてしまう。分かっているのに、喉の奥で言葉がつっかえて苦しくなった。

 何を言えばいい? 何を言えば正解なの?

 もし、もしも正直に話したら、お父さんはきっとあの時のお母さんと同じ反応をするに違いない。ひとを傷つけてしまう力を持った私を、きっと私を恐れるに違いない。

 分かっている、傷つけるだけがすべてではないこと。ひとや妖を導く力があること。でも私はこの力で、お母さんを傷つけてしまったことしかないのだ。その事実は思った以上にも、まだ深くのしかかっていた。

 唇を噛み締めて俯く。どうしてもお父さんの目を見ることができない。

 その時、ふっと空気が緩む感覚が分かった。恐る恐る視線をあげると、お父さんがいつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべている。


 「……お義父さん、麻のおじいちゃんがね。お父さんたちが結婚の挨拶をしに来たときに、特別なことを教えてくれたんだ」


 突然話し始めたお父さんを困惑気味に見つめる。


 「お母さんは隠したがっていたから、お父さんは知らないふりをしているんだ。だから、内緒ね」


 しい、と人差し指を立てて微笑んだお父さんは、私の目を見た。


 「麻には、お父さんたちとは違って、不思議なものが見えるんだね」


 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。ワンテンポ遅れて頭が追い付き、すると今度は混乱と驚きで頭の中がぐちゃぐちゃになる。


 「お、お父さん、あの、えっとだから……」

 「お義父さんから、全部聞いてるんだ。裏の社、だったかな」


 今日の天気は午後から晴れだよとでもいうかのように、さらりと言った。


 「え、でも、お父さんは見えないのに」

 「そうだね。でも、お母さんを大切に育ててくれた人が、真剣な目をして話してくれたことだから。疑うことなんかしなかったよ。……いや、ちょっとは疑ったけど」


 べっと舌を出しておどけた顔をしたお父さんに、強張っていた頬が思わず緩む。気持ちに少しだけ余裕ができた。私が肩の力を抜くと、お父さんは目じりを下げた。


 「はじめは信じられなかったんだ。だからその夜、泊めてもらっていた部屋を抜け出して、真夜中の二時に外へ出たんだよ。そしたら、やっぱり何にもなかった」


 お義父さんがそんな嘘をついたことにちょっとがっかりして、でも少し怖い気持ちもあったからちょっと安心して。

 そう続けたお父さん。


 「それで、さあ戻ろうって振り返ったその瞬間、目の前に光がぶわっと飛び込んできたんだ」


 子どものように目を輝かせたお父さんは、その時に見た光景をとても詳しく語った。

 提灯の光が怪しく揺れていて、その下には奇妙で不思議な屋台が立ち並んでいた。干した蛙やトカゲを売る屋台には角の生えた赤鬼が、甘酒の入った寸胴を置いた屋台にはお歯黒を付けた和服の女が、見たこともない動物が足のそばを駆け抜けていき、参道を歩く人たちは顔が牛だったり獣耳が生えている。

 瞬きをした瞬間、それはまるで夢のようにぱっと目の前から消えていったんだ、と。

 お父さんは目を閉じた。


 「あの景色を見てからね、夜中にこうやって目を閉じると、どこからか笛の音色が聞こえてくるんだ」


 目を見開いた。風に乗って、越天楽の笛の音色が、たしかにここまで届いてきている。まさか、でも、だってそんなことが。


 「だから、お父さんが全部知ってるって教えたうえで、麻に尋ねるよ。でももし話したくないんだったら無理に話さなくてもいい。お父さんも『昨日は麻と話す夢を見たような気がする』って、明日の朝にいうからね」


 柔らかく微笑んだお父さんは、もう一度「何があったの」と優しく問いかける。その優しさが痛いほどに胸に染み込んだ。

 嬉しくて、ほっとして。でも迷って、悩んで、少しの怖さがあって。私が黙って考えている間も、お父さんはずっと見守ってくれていた。

 きっと目も鼻も赤くなっているんだろうな。そんなことを考えながら答えた。


 「いつか全部はなしたい。私が、全部と向き合えるまで……待っててほしい」


 お父さんは「そっか」とだけ言って私の頭に手をおいた。


 「家族だから、時間はたくさんあるよ。でも、お嫁に行くまでには教えてほしいかなあ。僕もお義父さんみたいに、かっこいいこと言いたいから」

 「……ふふ、わかった」


 すこし乱暴な手つきで頭を撫でられて、梳いたばかりなのにぐしゃぐしゃになってしまった。もう、とわざとらしく頬を膨らませてお父さんから離れる。

 もう寝なさい、と言われて、今日は素直に返事をした。

 最後にお休みの挨拶をしようと振り返ったその時、お父さんの髪に燃えるような赤毛が混じっているのに気が付いた。


 「お父さん、赤いのついてる」


 このへん、と自分の頭を擦ってみると。お父さんは首を傾げながら同じところを擦った。

 その時、きゃいきゃいと驚き慌てふためく小さな声が聞こえた。お父さんが頭を撫でる手の隙間から、家鳴が必死な顔で手を伸ばしている。

 ぎょっと目を丸くして「お父さん私がとるから動かないで!」と叫ぶ。かみのけに絡まった家鳴を救い出し、不自然にならないようにさりげなく掌で包んだ。


 「じゃ、じゃあおやすみなさい」

 「うん、おやすみ」


 手をひらひらとさせたお父さんに見送られて今を出る。足音を立てないようにすり足で廊下を歩き、自分の部屋に飛び込んだ。

 そっと掌を開けると、家鳴が大きな目を瞬かせてきょとんと私を見上げた。


 「どうしてあんなところに居たの? びっくりしたよ、お父さんに潰されるところだった」


 そう言いながら家鳴を机の上に下ろす。するとペン立ての裏や引き出しの隙間から次々とほかの家鳴たちが顔を出した。わらわらと集まり始めた家鳴によって机の上が覆いつくされる。

 各々に私へ何かを訴えるように鳴いている。


 「待って、待って! ひとりずつじゃないと分からないよ」


 それじゃあ僕がと言わんばかりに、家鳴たちは同じタイミングで胸を叩いて一歩前に出る。すると今度はいたる所で衝突事故が起きたのか、取っ組み合いの喧嘩が始まる。


 「えっ、あ、こら!」


 一匹ずつ引き離していくもきりがなく、どうしたものかと頭を抱える。


 「しかたない、三門さん呼んでこよう……」


 その瞬間、家鳴たちの動きがピタリと止まった。すぐさまその場にお行儀よく座り、代表した一匹が私の掌に登ってくる。

 そう言えば以前、妖狐の子供たちが三門さんに叱られそうになって、すんなりと言うことを聞いていたのを思い出した。

 どれほど恐れられているんだろう、と苦笑いを浮かべる。


 掌に登った家鳴は身振り手振りで必死に何かを私に訴えてくる。

 私を指さし、握りしめた手を横に揺らす。今度は自分たちを指さし、両手で丸を作ってそれを覗く、そしてまた握りこぶしを横に振った。


 「私が手を振る……?」


 ちがう、と言いたげに大きく首を振った家鳴。きょろきょろと当たりを見回したかと思うと、手のひらから飛び降りて机の上を横切った。

 机の上に置かれたままになっている硯の上に飛び乗った。そしてまた同じジェスチャーを繰り返す。


 「硯……私が書く?」


 家鳴たちがうんうんと頷いた。

 そんな感じで三十分ほどジェスチャーの意味を解いて、やっと彼らが何を言おうとしているのかが分かった。

 彼らは、お母さんに手紙を書きたかったらしい。文字の手本を私が用意して、それをみんなで協力しながら紙に書こうとしているのだ。

 勿論快諾した。

 丁度そこにあった硯に墨を磨ってやると、興味深げに彼らがそれを覗き込む。悪戯好きな一匹が、他の家鳴の背中を押して墨の中に突き落とす。何が起こったのか分かっていないのか、頭から真っ黒になったその一匹が目をぱちくりとさせて、家鳴たちはきゃいきゃいと声をあげて笑った。


 「こらこら、遊ばないの。あ、君はそこから動かないでね、机が真っ黒になっちゃうから」


 真っ黒になった家鳴が素直に硯の上にちょこんと座ったのを確認してから、他の家鳴たちに視線を移す。すると、一番近くにいた二匹が私の二の腕を突いた。

 ふたりは顔を見合わせると、小さな手を伸ばしてむぎゅっと抱きつく。そしてお互いに頬擦りをすると、今度は両手を口に当てて「ちゅっ」とそれを投げ合う。


 か、可愛いすぎる……! って、それどころじゃなくて。



 「抱きしめる……投げキッス……あ、もしかして『好き』ってことかな?」


 そうそう、と大きく頷いた彼らは嬉しそうに隣の家鳴と抱きあう。

 『大好き』
 『元気だして』
 『おかえり』
 『嬉しい』
 『泣くな』

 彼らが出した単語を並べていく。


 すると、ひとりだけ除け者にされていて退屈だったのか、墨まみれになったあの一匹が、硯から飛び出してきた。ぺたぺたぺた、と紙の上を歩き、いたる所に足跡を付けていく。

 それを見た瞬間、他の子たちの目が一斉に輝いた。


 「あ、まずい」と思ったのもすでに遅かった、硯に次々と飛び込み始めた家鳴たちは思い思いに手形や足形をつけていく。お互いに汚し合って遊ぶその横顔は、なんとも楽しそうだった。


 「ああー……もう諦めるしかないね」


 苦笑いを零しながら、机に頬杖をついてそれを眺める。楽しそうだから良いか。

 そうして夜が更けていった。

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