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4、目を付けられてはいけない人

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学院に入って一ヶ月経ちましたが、お昼休みは私と殿下で二人きりでお弁当を食べる日々を過ごしておりました。もちろん少し離れた所に攻略対象者ではない護衛が付いてくれております。
皇太子であるエドモンド様ですから、この学院で護衛や側近の付添が許されておりますわ。彼だけ特別扱いなのです。

最近気になることがありまして、それは段々と殿下の距離感がおかしくなっている事です。
一番初めにお弁当を食べた時と比べて、なんというのでしょうか、その、密着度が違うと言いますか…、その端的に、…くっ付いているのですわ。

人一人分の距離があったところが、お弁当一箱分から、拳一個分、それから今はくっ付いているのです。
お尻とお尻がくっ付いてしまった時は、私も少し余裕を持たせて拳一個分反対側に移動しましたが、その分殿下がこちらに移動しましたの。え?
制服越しに殿下の体温が伝わり、彼の素敵な香りがしてしまう距離でございますわ。

段々と顔が熱くなってしまいます。
ここまで引っ付くとですね、あの、殿下の腕が私の、その、体に当たりますの。腕とか、脇腹ですとか、お、お胸とかにでございます。
殿下の右側にいるので、右利きの殿下の腕が昼食を摂るために上げ下ろしされる度、私のいろんな場所に掠っていきますの。
私のお胸が思った以上に育ってしまっていたのも悪いのでございます。
他愛のないお話をしてくださる殿下の方に若干体を向けたのと、殿下の肘が下に向かってきたのが重なってしまいました。

ポヨン!ですわ。
ラッキースケベというものになってしまいますかしら。

しかも一人で意識していた私の口からは「ィヤン!」という、端無くか細い声が出てしまいましたの。

しばらく殿下は無言でお弁当をお召し上がりになると、「用を思い出した」と言って、お弁当袋を股間の辺りに持ってどちらかへ行ってしまいましたの。

……、アホみたいな声を出してしまって、呆れられたのかしら…
淑女に有るまじき声だったものね…なんであんな子犬みたいに高い音の「ィヤン」って声が出てしまったのかしら…せめてもっと毅然とした言葉を出せていれば…でも、元々体が密着してて殿下の香りがしてドキドキしてたところに、いきなりおっぱいに刺激があってびっくりしたんだもん…

私が肩を落として残りのお弁当を食べていると、後ろから声を掛けられました。

「まぁ、キャサリン様?お独りでお弁当ですか?」
そこにはロレッタ様が立っておられました。

「ええ、1人でございます」
先程まで温かかった左側には殿下がおりませんもの。今は、一人ですわ。

「うふふ、そうですかぁ」
そう言って彼女は上機嫌で校舎へと入っていってしまいました。…彼女何が言いたかったのかしら?
いよいよ、攻略始めますよという合図なのかしら。嫌だわ。私の婚約者なのよ………
…!…
ああっ…まだ殿下を諦められないなんて…
殿下と昼食をご一緒させてもらっていると、どうしても失恋計画を忘れてしまうのですわ。それどころか胸が苦しくて、切なくなってしまいますの…ああ…盗らないでくださいまし…どうか攻略しないで…

つい、人目が無いので私は泣いてしまいました。
いつも殿下と昼食をとる中庭のベンチは、私達と護衛がいるので他の生徒達は遠慮して下さるのか、遠くのベンチにチラホラと人がいる位ですわ。さらに木陰になっていて人が滅多に通らない穴場ですの。
殿下との婚約解消を思うと切なくて悲しくて、涙が勝手に流れ落ちてしまいました。淑女として失格でございますね。でも止まらないのです。
昔の殿下との素敵な思い出と、学院に入ってからの彼の気遣いや、たまに見せてくれる笑顔…嗚呼…


生徒会での業務はなんとか覚えることができています。頼りになる先輩がこの一年一緒に活動してくださるので、私は会計係の先輩であるブレイブ伯爵令息に都度質問していますの。

今日も会計簿の記帳の事でよく分からないことがあったので生徒会の活動中、ブレイブ先輩の元に教えを請いにいきました。
話し終わり、私がお礼を言うと、ブレイブ先輩はニコニコと笑っていました。
「キャサリン嬢は結構話し易くて、思っていたより朗らかな人ですね」
「左様でございますか?…ふふ、嬉しゅうございますわ」
優しくて和む雰囲気のブレイブ先輩は嬉しい事を言ってくれますわ。あれ?でも逆に言えば『話し難くて、気難しい』と思われていたのかしら?
私の不安が顔に出てしまっていたのか、ブレイブ先輩は優しい目尻をさらに垂らして言いました。
「ごめんね。そういう意味じゃなくて、意外に可愛らしい人だなって…」
そう彼が話していた途中で…
「キャサリン、そっちの用が終わったのなら、こっちを手伝ってくれ」
殿下からお声がかかってしまいましたの。

「キャサリン様はまだお話してましたよぅー、エドモンド様、私が手伝いますから大丈夫です」
直ぐに主人公ロレッタ様の甘い声が響きました。

申し訳ないのですが、私にとって殿下は最重要すべき人ですので、私とブレイブ先輩の仕事以外の雑談は直ぐに断ち切り、先輩に頭を下げて殿下の元に向かいます。

生徒会といえば、まるで仰々しく会議をして誰かに指令しているように思われるでしょう?

実際には雑用係でございますわ。
イベント毎の運営をするのと、先生方のお手伝いも掛け持っておりますの。
ですから、生徒達への配布物等も私たちが手配することもございます。殿下とクロム様とサイモン様は魔法でそれぞれの配布物を宙に浮かせて指定の枚数を綴じる作業をしておりました。
私は最後のホッチキスという針を魔法で打つ作業をすることになりました。

目の前に浮いてますので、大した魔力も要りませんわ。
パチンパチンと、一心不乱に打っておりました。

「キャサリン様、もう少し等間隔にした方が良いかもしれませんね」
すごい速さで書類をさばいているロレッタ様が隣りにきて小声で言いました。
「分かりましたわ」
私は座学は点数がいいのですが、魔法の実技はあまり得意ではありませんの。
「…ほら、またずれてますよっ…あ、ダメですってば、もっと綺麗にしないとっ」
数ミリのズレにも容赦ないのでしょうか、ロレッタ様は私がホッチキスを打った書類を持って指摘してきました。…なんだか前世の意地悪な会社の先輩みたいですわね…殿下達には聞こえないように、小声で言ってくるのもなんだかとても嫌ですわ…
「…」
少し悲しくなってしまいますわ…

「二人で何を話している?」
殿下が声を掛けて下さいました。
「エドモンド様ぁ、キャサリン様ってば、私にあまり早く作業しないでって言ってきてぇ。私こういうの得意だから…ついサクサクしちゃうんですー」

え?そ、そんな事言ってないですわ。
私は思わず彼女を信じられないという顔で見てしまいました。

「キャサリン、ここはもういい。ロレッタ嬢に任せて、あっちに移ってくれるか?」
殿下は違う作業を指さしました。ああ、上手くできない事をロレッタ様に八つ当たりしていると思われたのかしら。違うのに…何も言っていないわ…
…こうして私は自動的に悪役令嬢になってしまうのかしら…

落ち込んだ気分で殿下に指定された席に移動しようとすると、私の肩に暖かい体温が触れました。

あ…

殿下が一瞬私の肩を抱いてくれましたの。
そして、向かう場所へと私を誘うようにそっと背中を押してくれました。

殿下が触れたところから体温が上がってしまいますわ。
え、エスコートにしては、ち、ち、近うございましたわね。

移動した先にいらした生徒会長のリシャール様は、何故だか生温かい目で薄っすらと笑顔でございましたわ。
火照る頬を押さえながら、私はリシャール様達の作業を手伝いました。

単純作業でしたので、どうしてもさっきの殿下との触れ合いを思い出してモジモジしてしまいますわ。
どうしましょう、失恋計画を立てたのに、私ったら元々お慕いしている上に、さらに徐々に殿下を男性として意識してしまっていますわ。
きっかけは殿下の股間の匂いを嗅いで、殿下の男らしさを感じたからかも知れません。だけど、それから私への殿下の眼差しとか、ちょっとした仕草や言葉になんだか前より違う雰囲気が有りますの。
私をしっかり見てくださっているというか…

今もリシャール様達と作業をしているこちらを伺っているような?
気のせいかも知れませんが…

「エドモンド様ぁ、魔力の制御が凄いですぅ、こんな上手にできるなんて、尊敬しますぅ」

私はその声で現実へと戻ってきました。

そうでしたわ。そんな邪念を抱かないようにしないと。
辛い失恋になってしまいますわ。
ですからエドモンド殿下、どうか先ほどのように優しい触れ合いはご遠慮くださいませ。



ーそんなふうに考えていた時期が、私にもありました。


-----

自分の婚約者が可愛くて、毎日チンコが辛いです。
今日の昼食時、近付き過ぎて肘に彼女のおっぱいが当たってしまった。
ふんわりした優しい弾力とキャサリンの「ィヤン!」って声…
正直に告白すると、彼女に少しでも触れたくて良い匂いを嗅ぎたくて傍に寄っていた。こんなことも期待していたのだ。
ヤバすぎるだろ…
なんで?あんな可愛い声出すの?なんなの?
本当可愛い過ぎるのもいい加減にして欲しい。あの場で押し倒してない俺って凄いよな。紳士俺。マジ紳士。

トイレに駆け込んで、2回も射精した。
あの声を思い出したら、また勃ってきた…

……そうだ。そういえば、あのロレッタって何?
キャサリンに付けてる護衛から、昼休みの後あのロレッタが何か言ってキャサリンが泣いていたという報告を受けた。
生徒会の時も何かコソコソ言ってるし、キャサリンが悲しそうな顔してたから風魔法で音波の振動を増幅させて会話を聞いてたら、キャサリンに文句言ってるし。俺たちにはシラっと嘘吐くし側近二人も驚いていた。
…平民だから特別扱いし過ぎたか?下手に手出しできないから厄介だな。これ以上調子に乗る前に、手段を考えておかないと。

まぁ、それのおかげでどさくさに紛れてキャサリンの肩を抱いてみたけどね。
折れちゃうんじゃない?ってくらい華奢。柔らかいし…腕の中に仕舞ってしまいたい。はぁ…可愛いキャサリン…
早く結婚したい。
キャサリン…キャサリン…

…ふぅ。
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