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4時間目②
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「そうですね、指で先端の空気を抜くように押さえて、はい。…上手ですよ。あ、決して爪で傷つけないように…」
チャールズとレイチェル・ビルクレイン子爵令嬢は2人で真剣にコンドームの付け方を練習していた。
レイチェルはXXLマグナムサイズの張型にコンドームが被せられたものを、恐々と触っている。
「すごい……うちの閨の先生は大きさの事なんてなんも教えてくれへんかったから…こんなん体の中に入りますん?」
レイチェルは不安気に瞳を揺らしていた。
「違うよ、レイチェル嬢…!これは違うから!一番大きい規格外のサイズだから」
チャールズは必死で首を振って否定する。
「そ…そうなんです…か…」
レイチェルはチラリとチャールズのトラウザーに視線を下していた。
ここで恐怖心を植え付けるわけにもいかないので、コリーヌはニッコリと笑う。
「普通は三分の一くらいの大きさですわよ」
「そうそう。だから大丈…」
チャールズは爽やかな笑顔を作って、婚約者の不安を取り去ろうとしているが…レイチェルの顔を見て言葉を切った。
「…」
レイチェルは無意識なのかチャールズのトラウザーの股間部分を凝視していた。
「どこ見て…あっ、レイチェル…!」
チャールズは思わず股間部分を両手で隠した。その顔は真っ赤になっている。
「ご、ごめんなさいっ私ったら…」
自分がどこに視線を向けていたのかチャールズに知られ、レイチェルは両手で顔を隠していた。
…あら、もしかしたら、私は席を外して、2人でチャールズの『本物』にコンドームを付ける練習をしてもらえば良かったかしら?ふふふ…
「それを見せてもらうのは、もう少し後の楽しみにしておきましょうか。では、今日の授業はこのあたりで終わりましょう」
懐中時計を確認したコリーヌは可愛らしい二人に声を掛ける。
「コリーヌ先生、もし良かったら、この後チャールズ様と二人でお茶をする予定なのですが、ご一緒にいかがですか?」
レイチェルは無邪気に笑顔を向けてくれるが、コリーヌは今ハーバートと顔を合わし辛かったので少し躊躇した。
どうしよう、お茶をしている間にハーバートが帰って来るかもしれないわ…だけど、2人とも善意でお茶に誘ってくれているわけだし…
「お二人の御邪魔じゃないかしら?」
「いいえ。ね?チャールズ様?」
「もちろんさ」
レイチェルの勢いに負けているのか、彼女の活気のある言葉に苦笑いしながらも温かい声でチャールズは了承した。
「では、少しだけお邪魔しますわ」
そう言うと三人で伯爵家のタウンハウスの庭園へと移動した。
途中チャールズはきちんと貴族の令息らしくレイチェル嬢をしっかりとエスコートしていた。
またもやコリーヌは心の中で『10点満点!』とサムズアップしていた。
それにしても、チャールズはハーバートの息子なだけあって、こういった立ち居振る舞いが洗練されている。父親からしっかりと指導されているのかしら?所作もよく似ているわ。
…つい、コリーヌはチャールズの中にハーバートを見てしまう。
駄目ね。不毛な恋心を忘れたいのに…
コリーヌは先週ハーバートに『また』恋している事に気付いた。またもや遅い自覚だったと思う。
一度目の失恋はハーバートの結婚式の時だったし、今回だって、恋人らしき人がいることで気付いた。
ああ、だからといって、もっと早くに気付いて、彼に告白したとして…
それで彼が私の事を好きになってくれる保証はないわ。それにいくら最近は貴賤結婚が多いからって…彼は伯爵なのだから。
私の事を妹程度には好意は持ってくれているだろうけど。それ以上?と思える確証はない。
授業中に戯れでしたキスと、手へのキスと、授業用の求愛のセリフ…
それ以上はないもの。
コリーヌは前回の授業で、性交渉の体位のポーズをハーバートと一緒にした事を思い出した。
あの時の彼の眼差しと、暖かさと、香り…彼の声…
「コリーヌ…愛している。ずっと前から…」「好きだよ…コリーヌ…」
だから、あれは授業のための事だからっ!!
コリーヌは自分の頭の中のハーバートをブンブンと首を振って追い出す。
「先生?どうしました?」
チャールズはいきなり頭を振ったコリーヌを不思議そうに見ていた。
「ああ、いえいえ、ちょっと虫がね」
ホホホと、コリーヌは笑って取り繕った。『貴方のお父様の事を考えてしまいます』とは言えない。
チャールズと婚約者のレイチェル、そしてコリーヌは3人でモローニ伯爵邸にある人口池の畔に立てられた東屋でお茶を頂いていた。
レイチェルは国境沿いに領地のあるビルクレイン子爵家の次女で、子爵領のお土産のお菓子を持って来てくれていたらしい。珍しいお菓子と、隣国のお茶が用意されている。
「あら…この線の模様の入ったお菓子、美味しいし、とても面白い形ね」
コリーヌは見たことのないお菓子に話題を振った。
「これはうちの母の祖国から輸入したお菓子なんですわ。木の年輪みたいですやろ」
レイチェルは木の切り株の様なお菓子をパクリとお上品に食べている。
「本当ね、可愛らしいわ。あら、お母様のビルクレイン子爵夫人は外国の方でしたの?」
「はい。父とは国際結婚ですわ」
どうりで訛っているはずだ。これは隣国の訛りなんだわ。
やっとコリーヌはレイチェルが訛っている訳を知った。
「母も最初はなかなか父とコミュニケーションを取るんが難しかったらしいです。両国ともに共通語を使っているんやけど、キツイ言い方に聞こえてしまったり、父の言い方が母の国では違う意味を持っている事があったって聞きましたわ」
「まぁ…」
レイチェルの話は興味深い。
「レイチェルの隣国訛りはとっても可愛くて、私は好きだな」
チャールズが彼女にウィンクを送っていた。
どうやら彼は先程のレイチェルの反応が楽しかったらしく、彼女に好意を伝えるのに躊躇が無くなった様だ。レイチェルはまた顔を真っ赤にした。
「私もとても可愛いと思うわ」
「ありがとうございます。でもこちらの国では社交界で笑われてるのも存じてますから、なるべく父の言葉に近付けるようにしてるんです。でも、父も最近母と同じように話すようになってきてて…」
「あはは」
そんな風にしばらく3人でお茶をして会話を楽しんでいた。
池の近くという事もあり、周りに小さな水鳥や虫の声が響いている。モローニ伯爵のタウンハウスは王都郊外の南に位置するが、広大な敷地の中にとても風流な庭を造っている。
東屋の屋根が日光を遮り、風が通って暑すぎず、良い加減に調整されているのだろう。
「では、そろそろ私はお暇致しますわ。いつまでも二人の時間を邪魔するのも、無粋でございますし…」
会話が一区切りついたところで、そう言って立ち上がろうとした時、何やら女性の声が聞こえて来た。
振り返ると、池の向こう側から男女が東屋に向かって歩いて来ていた。
背の高い男性は庭の石畳に気を付けるように女性の手をとってエスコートしていた。
近付いてくると、それがハーバートと、この前彼と親しく話していた御婦人であることが分かった。
黒髪の巻き毛で通った鼻筋が美しいご婦人は、今日も最新のファッションでハーバートが歩く後ろをにこやかな表情で付いてきていた。
コリーヌは内心『先週のことがあるからハーバートと顔を合わせたくなかったのに』と思っていたが、彼を視界に入れた途端、胸が高鳴り、しかしその後ろの御婦人の存在にズキリと棘が刺さってしまう。
ハーバートは東屋にコリーヌが一緒に座っているのに気付いたのか、少し顔を強張らせているようだ。今日の彼も黒のウェストコートとトラウザー姿が素敵だ。この格好でデートしてきたのだろうか。
傍までやってきて、先に口を開いたのはハーバートだった。
「…やあ、コリーヌ。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、お邪魔しております。…モローニ伯爵」
2人は微妙な空気の中、とりあえずの挨拶をした。
一緒に行動しているってことは…やっぱり、この人はハーバートの…
コリーヌは痛む心を押さえながら女性に顔を向けた。
ああ…きっと彼女は言うのよ…『モローニ伯爵と仲良くしています』って…
後ろにいた貴婦人が少し前に出て口を開くと、
「あんたはんがコリーヌ先生でっか?よろしゅうに。うちはシルビア・ビルクレインでございます。うちの娘が今日はお世話になりましたなぁ。」
コテコテの隣国訛りが飛び出したのだった。
チャールズとレイチェル・ビルクレイン子爵令嬢は2人で真剣にコンドームの付け方を練習していた。
レイチェルはXXLマグナムサイズの張型にコンドームが被せられたものを、恐々と触っている。
「すごい……うちの閨の先生は大きさの事なんてなんも教えてくれへんかったから…こんなん体の中に入りますん?」
レイチェルは不安気に瞳を揺らしていた。
「違うよ、レイチェル嬢…!これは違うから!一番大きい規格外のサイズだから」
チャールズは必死で首を振って否定する。
「そ…そうなんです…か…」
レイチェルはチラリとチャールズのトラウザーに視線を下していた。
ここで恐怖心を植え付けるわけにもいかないので、コリーヌはニッコリと笑う。
「普通は三分の一くらいの大きさですわよ」
「そうそう。だから大丈…」
チャールズは爽やかな笑顔を作って、婚約者の不安を取り去ろうとしているが…レイチェルの顔を見て言葉を切った。
「…」
レイチェルは無意識なのかチャールズのトラウザーの股間部分を凝視していた。
「どこ見て…あっ、レイチェル…!」
チャールズは思わず股間部分を両手で隠した。その顔は真っ赤になっている。
「ご、ごめんなさいっ私ったら…」
自分がどこに視線を向けていたのかチャールズに知られ、レイチェルは両手で顔を隠していた。
…あら、もしかしたら、私は席を外して、2人でチャールズの『本物』にコンドームを付ける練習をしてもらえば良かったかしら?ふふふ…
「それを見せてもらうのは、もう少し後の楽しみにしておきましょうか。では、今日の授業はこのあたりで終わりましょう」
懐中時計を確認したコリーヌは可愛らしい二人に声を掛ける。
「コリーヌ先生、もし良かったら、この後チャールズ様と二人でお茶をする予定なのですが、ご一緒にいかがですか?」
レイチェルは無邪気に笑顔を向けてくれるが、コリーヌは今ハーバートと顔を合わし辛かったので少し躊躇した。
どうしよう、お茶をしている間にハーバートが帰って来るかもしれないわ…だけど、2人とも善意でお茶に誘ってくれているわけだし…
「お二人の御邪魔じゃないかしら?」
「いいえ。ね?チャールズ様?」
「もちろんさ」
レイチェルの勢いに負けているのか、彼女の活気のある言葉に苦笑いしながらも温かい声でチャールズは了承した。
「では、少しだけお邪魔しますわ」
そう言うと三人で伯爵家のタウンハウスの庭園へと移動した。
途中チャールズはきちんと貴族の令息らしくレイチェル嬢をしっかりとエスコートしていた。
またもやコリーヌは心の中で『10点満点!』とサムズアップしていた。
それにしても、チャールズはハーバートの息子なだけあって、こういった立ち居振る舞いが洗練されている。父親からしっかりと指導されているのかしら?所作もよく似ているわ。
…つい、コリーヌはチャールズの中にハーバートを見てしまう。
駄目ね。不毛な恋心を忘れたいのに…
コリーヌは先週ハーバートに『また』恋している事に気付いた。またもや遅い自覚だったと思う。
一度目の失恋はハーバートの結婚式の時だったし、今回だって、恋人らしき人がいることで気付いた。
ああ、だからといって、もっと早くに気付いて、彼に告白したとして…
それで彼が私の事を好きになってくれる保証はないわ。それにいくら最近は貴賤結婚が多いからって…彼は伯爵なのだから。
私の事を妹程度には好意は持ってくれているだろうけど。それ以上?と思える確証はない。
授業中に戯れでしたキスと、手へのキスと、授業用の求愛のセリフ…
それ以上はないもの。
コリーヌは前回の授業で、性交渉の体位のポーズをハーバートと一緒にした事を思い出した。
あの時の彼の眼差しと、暖かさと、香り…彼の声…
「コリーヌ…愛している。ずっと前から…」「好きだよ…コリーヌ…」
だから、あれは授業のための事だからっ!!
コリーヌは自分の頭の中のハーバートをブンブンと首を振って追い出す。
「先生?どうしました?」
チャールズはいきなり頭を振ったコリーヌを不思議そうに見ていた。
「ああ、いえいえ、ちょっと虫がね」
ホホホと、コリーヌは笑って取り繕った。『貴方のお父様の事を考えてしまいます』とは言えない。
チャールズと婚約者のレイチェル、そしてコリーヌは3人でモローニ伯爵邸にある人口池の畔に立てられた東屋でお茶を頂いていた。
レイチェルは国境沿いに領地のあるビルクレイン子爵家の次女で、子爵領のお土産のお菓子を持って来てくれていたらしい。珍しいお菓子と、隣国のお茶が用意されている。
「あら…この線の模様の入ったお菓子、美味しいし、とても面白い形ね」
コリーヌは見たことのないお菓子に話題を振った。
「これはうちの母の祖国から輸入したお菓子なんですわ。木の年輪みたいですやろ」
レイチェルは木の切り株の様なお菓子をパクリとお上品に食べている。
「本当ね、可愛らしいわ。あら、お母様のビルクレイン子爵夫人は外国の方でしたの?」
「はい。父とは国際結婚ですわ」
どうりで訛っているはずだ。これは隣国の訛りなんだわ。
やっとコリーヌはレイチェルが訛っている訳を知った。
「母も最初はなかなか父とコミュニケーションを取るんが難しかったらしいです。両国ともに共通語を使っているんやけど、キツイ言い方に聞こえてしまったり、父の言い方が母の国では違う意味を持っている事があったって聞きましたわ」
「まぁ…」
レイチェルの話は興味深い。
「レイチェルの隣国訛りはとっても可愛くて、私は好きだな」
チャールズが彼女にウィンクを送っていた。
どうやら彼は先程のレイチェルの反応が楽しかったらしく、彼女に好意を伝えるのに躊躇が無くなった様だ。レイチェルはまた顔を真っ赤にした。
「私もとても可愛いと思うわ」
「ありがとうございます。でもこちらの国では社交界で笑われてるのも存じてますから、なるべく父の言葉に近付けるようにしてるんです。でも、父も最近母と同じように話すようになってきてて…」
「あはは」
そんな風にしばらく3人でお茶をして会話を楽しんでいた。
池の近くという事もあり、周りに小さな水鳥や虫の声が響いている。モローニ伯爵のタウンハウスは王都郊外の南に位置するが、広大な敷地の中にとても風流な庭を造っている。
東屋の屋根が日光を遮り、風が通って暑すぎず、良い加減に調整されているのだろう。
「では、そろそろ私はお暇致しますわ。いつまでも二人の時間を邪魔するのも、無粋でございますし…」
会話が一区切りついたところで、そう言って立ち上がろうとした時、何やら女性の声が聞こえて来た。
振り返ると、池の向こう側から男女が東屋に向かって歩いて来ていた。
背の高い男性は庭の石畳に気を付けるように女性の手をとってエスコートしていた。
近付いてくると、それがハーバートと、この前彼と親しく話していた御婦人であることが分かった。
黒髪の巻き毛で通った鼻筋が美しいご婦人は、今日も最新のファッションでハーバートが歩く後ろをにこやかな表情で付いてきていた。
コリーヌは内心『先週のことがあるからハーバートと顔を合わせたくなかったのに』と思っていたが、彼を視界に入れた途端、胸が高鳴り、しかしその後ろの御婦人の存在にズキリと棘が刺さってしまう。
ハーバートは東屋にコリーヌが一緒に座っているのに気付いたのか、少し顔を強張らせているようだ。今日の彼も黒のウェストコートとトラウザー姿が素敵だ。この格好でデートしてきたのだろうか。
傍までやってきて、先に口を開いたのはハーバートだった。
「…やあ、コリーヌ。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、お邪魔しております。…モローニ伯爵」
2人は微妙な空気の中、とりあえずの挨拶をした。
一緒に行動しているってことは…やっぱり、この人はハーバートの…
コリーヌは痛む心を押さえながら女性に顔を向けた。
ああ…きっと彼女は言うのよ…『モローニ伯爵と仲良くしています』って…
後ろにいた貴婦人が少し前に出て口を開くと、
「あんたはんがコリーヌ先生でっか?よろしゅうに。うちはシルビア・ビルクレインでございます。うちの娘が今日はお世話になりましたなぁ。」
コテコテの隣国訛りが飛び出したのだった。
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