神様が死んだ日

神様が死んだ日

5

懐かしい夢をみた気がする。
気がするだけ。目が覚めた時にはもうなにも思い出せなかった。
  




「っ、あたまいてぇ…」

起きた瞬間の鈍い頭痛に手をやると、額に柔らかい感触。触れた途端簡単に剥がれたそれは乾いて粘着力の落ちた冷えピタだった。
ああ、そういえば寝る前にあいつが貼ってたっけ。
熱は大分下がったような気がする。
体を起こして用済みになったそれをゴミ箱に捨てる時、すぐ横のミニテーブルに珍しくいくつも物が乗っていることに気付く。
覚えのある飲みかけのスポドリと、風邪薬に弁当箱。それと、メモが一枚。

〝よかったら食べて〟

誰が食うか、と思った。
どいつもこいつも嫌いだけどそのなかでも一番嫌いな人間。何度突き放しても、へらへら笑ってしつこく俺の前に現れる。
弁当箱ごと捨ててやろうと思って、でもせっかくだから捨てる前にあのバカがどんな弁当を作るのか見てみようと思った。
昔から不器用で、ハサミすら上手く使えずに怪我をしてたこともある。小学生の頃は黒焦げの卵焼きを作って、おれがそれを食べたら泣きそうになってた。


それくらいなのに、弁当の中身は思ってたよりもずっとちゃんとしていた。
手作りなのがわかる少し不恰好なハンバーグと金平ごぼう、それから。
全然焦げてない綺麗な色をした卵焼き。


『だから練習して、まあ食べてもらえることはないかなーって感じですけど』


あいつのことを思い出すだけで、あいつが近くにいるだけで、イライラして死にそうになる。

「聞こえてんだよ」

俺に近づいてなにがしたいんだよ、先に裏切ったのはお前のくせに。いつも泣きそうな目で俺を見る。問い詰めたって「ごめん」ってそればっかりで。
そんなことを言われたいわけじゃない、ただ俺の前から消えてほしかった。

「…バカじゃねーの、ほんと」

お前も俺も。
どっちも同じだった。
なんでこんなに、救われないんだろう。


『明が卵焼きは甘い方が好きなんです』


捨てようと思ったはずのそれをいつのまにか口に入れて、いつかの宝物を思い出していた。





















めい、それコゲてるから！まずいでしょ？
まずくない。
え？
まずくない。おいしいよ、きよ。
う、うそだ～！
ほんとだって。なんで泣くんだよ。
だってめいが無理してるから。
はあ？してねーよ。あまいし、ちゃんとおれの好きな味になってる。




「…あま」

昔も今も、ずっと。