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おまけ
①
しおりを挟む朝、9時30分。
今日は記念すべき美好くんとの初デートである。
夏祭りとひまわり畑も一応俺の中ではデートってことにはなってるけど、そうではなく。
正式に美好くんとお付き合いをすることになってからの、初めてのデートという意味である。
それはもうるんるんのウッキウキでバッチリ準備してきた俺は、今日も今日とて待ち合わせの10時よりも30分早い時間に集合場所の駅へと着いた。
はー楽しみだなあ、と辺りを見回してソワソワしていると不意に肩を叩かれた。
「先輩」
「え!美好くん!?」
「おはようございます」
横を見ると、今日も朝から麗しい美好くんが秋服仕様でそこにいた。
待ってメガネかけてるんだけどやばい。
「おはよう、え、早いね?」
「先輩がね?なんかいつも来るの早いから、俺も今日は早めに来たんですけど。いつも30分前に来てるんですか?」
「…まあ」
「早すぎません?なんで?」
「えーっとー、それはー」
別に言ったっていいんだけどなんか恥ずい。絶対俺が気にしすぎなだけだもん。最悪重いって引かれる可能性すらある。
「隠し事ですか?」
「いやいやいや違うって。…あのー、ほら。美好くんいつも待ってばっかりだったから、先に来てた方がなんか安心するかなって思って」
長谷川のことをいつも長い時間待って、結局すっぽかされたりしてるのを俺は知ってたから。
だからせめて俺はそんな思いをさせないようにっていうただの自己満。
改めて言うようなことでもないから恥ずいな、って目を見れずにいたら美好くんが大きく溜息をついた。
え、なに怒ってる!?
ビビって顔を上げると、そこには何故か拗ねたような顔で薄らと頬を赤く染めた美好くんがいた。
「…なんでそんなに可愛いかな」
「うわ、」
手を取られたと思ったら、俺は美好くんの腕の中にいた。背中にぎゅっと手が回されて、肩口に綺麗な顔が埋められる。美好くんのさらさらな髪が首に当たって少しくすぐったい。
「ど、どうしたの美好くん。ここ駅ですけど」
「うん。千鶴先輩が可愛すぎて、どうでもいいかなって。嫌?」
「あと五十年これでもいいです!」
「それは長い」
「あ、そう…」
抱き締めてきたのは美好くんのくせにあっさりと解放されてしまった。
俺は結構本気だったんだけどな。
付き合ってからの美好くんは激甘と塩の使い分けがすごくて、俺の心臓は日々悲鳴をあげている。
「千鶴先輩、俺いま世界で一番幸せです。アンタを好きになったおかげで」
「そんなこと言われたら泣いちゃうけど」
「ははっ、だから大げさ。でも次からはこんなに早く来なくていいですよ。先輩を待ってる時間ならきっと幸せでしかないだろうから」
大げさって美好くんは言うけど、俺はその言葉を聞いて本当にちょっと泣いてしまった。
だって、俺なら絶対あんな顔させないのにって死ぬほど思ってきたから。今君が俺の隣でそうやって笑ってくれることに価値がある。
「うん、だけど俺も美好くんのこと待ってる時間好きだからやっぱりちょっと早く来ちゃうかも」
「なにそれ。じゃあ5分前でいいですよ。俺が時間ピッタリに来ますから」
ていうか先輩、
「いつまで美好くん?俺だけ名前呼んでるんですけど」
少し拗ねたような声が耳元で囁いた。
かわいい、心臓に悪すぎる。
「いや、なんかタイミングがね?」
そりゃ呼べるものなら俺だって呼びたいけど。
なんならずっと前からいつか名前で呼んでみたいなって思ってたんだけど。いざその時が来たら勇気が。
「今呼んでみて」
「い、今ですか!?」
「今。早く、じゃないと帰る」
「わー待って待って!えーっと、あの、その、」
美好くんの綺麗な瞳が真っ直ぐに俺を見つめてくる。そんな目で見てくるのズルいだろ。
「さ、さくら…くん」
う、うわあああ。恥ずかしくて死ねる。
絶対顔赤いもう無理もう無理。
「照れすぎでしょ」
「うるさ!仕方ないだろ!って、え…」
恥ずかしくて逸らしていた顔を戻したら、思いがけない表情をした美好くんと目が合った。
それを見て俺の顔はさらに熱くなっていく。
いやいやいやなんでそんな、
(君の方が赤いんですか)
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