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太陽と向日葵
きれいなものはいつも遠くにある
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「ちーづ!はよ」
「ゔえっ」
長かったはずの夏休みはあっという間に終わりを告げ、カレンダーも気付けば9月の中旬になっていた。
今日から本格的に講義も始まる。
あー夏休み戻ってこねえかな、と鬱々とした気持ちで廊下を歩いていたところで見知った金髪に勢いよく肩を組まれた。
「いってえよ馬鹿、離れろ」
「えー無理。久しぶりの紫ちゃん嬉しいだろ?」
「お前に会わない夏休みは快適だったよ紫」
「あははー強がってるわコイツ」
「ユカちゃんが女と遊んでばっかで向井の誘い断るから拗ねてんだろ」
「向井も割と紫のこと好きだからな」
「ちづってほんと可愛い」
「お前らはまた好き勝手なことを…」
コイツらと集まるといつもこれだ。
前から思ってたけど永瀬と真白はなんで当たり前のように紫の方に付いてるわけ?一人でいいから俺の味方をしろよ。やっぱり最初のグループワークが失敗だったな、と思いながら講義室に入る。
何度も絶交を言い渡している割には次の講義も全員一緒だ。仕方ない、その方が休んだ時とか困らないし。
室内を見渡して空いている席を探していると、回された手に肩を叩かれた。
「あれ?おいちづ」
「なんだよ」
「アレ、お前の大好きな美好くんじゃね?」
「え!?」
紫が指差す方を見ると、なんとそこにいたのは確かに美好くんだった。窓際の席に座ってぼんやりと外の景色を眺めている姿がものすごく絵になる。
「ちょ、お前邪魔どけ」
「はー?せっかく教えてやったのに」
いまだに肩の上に乗っていた腕を叩き落として急いで美好くんの方へと向かう。
「美好くん!」
「…先輩?」
「え、次ここ?」
「そうですけど。先輩もですか」
「そう!うわー初めて講義被った、隣誰か来る?俺一緒に受けてもいい?」
美好くんの隣は奇跡的に空いていた。そりゃそうだ、座りたくたって恐れ多くて座れないだろう。
「一人です。俺はいいですけど、先輩のお友達は?」
「友達?」
「友達?じゃねーのよ。俺らのことだろアホ」
振り向くと置いてきたはずの紫達がいた。
さっき叩き落とした腕が再び肩に回されてそのまま後ろに体重をかけられる。結果、重みに傾いた体は真後ろに立っていた紫の胸に収まる形になった。ムカつくことに俺よりも大分背の高い紫は立っていると毎回こうして俺のことを肘置きか何かのように扱ってくる。クソだ。
「ああ大丈夫!コイツらはどうでもいいから」
「ちづちゃん?お前今あっさりと友達を捨てやがったね」
「当たり前だろ。いいから散れ」
「こいつやば。しょうがねえな、ごめんねー美好くん。ウチのちづが迷惑かけたら教えてね、すぐ回収するから」
「あぁ、いえ」
「おいだれが迷惑、ってやめろ、顔つかむな!」
人の顔を掴んでもきゅもきゅと好き勝手に頬を潰した後、いい子にしろよとかなんとか言い残して紫は去って行った。永瀬と真白もいつのまにか美好くんに話しかけて、いつも向井がごめんねーだとか紫と同じようなことを言っている。
だからお前らは俺のなんなんだよ。
「…あー、なんかごめんね美好くん。あいつらマジでウザくて」
「全然、楽しそうでいいなぁって思いました。てか先輩にウザいって言われたら終わりですね」
「んん!?」
「だってストーカーだったじゃん」
「そんなつもりはなかったんですけどね…その節はスミマセン」
「ははっ、今は思ってないですよ」
机に頬杖をついて笑う美好くんはなんだかあざとかった。そうやって簡単に笑われると悪い男に騙されてるような気分になる。それくらい綺麗で、いつまでも慣れずに見惚れてしまう。
その時、前方の席がざわめいた。
周りの視線が向く先を見てその反応に納得する。
派手な髪色と派手な服装、遠目から見てもわかるスタイルの良さと整った顔。中身がどうしようもないクズだと知っても尚、目を引くような華がある。
見たくないなと思いながらも美好くんがどんな顔をしているのか気になって隣を盗み見ると、思いの外普通の顔をしていて拍子抜けした。
「なに?」
「いや…」
ざわめきにつられただけで後はもう興味なんてないというように、美好くんの視線が入口に立つ長谷川を追いかけることはなかった。
もっとわかりやすく嬉しそうに笑って、なんなら俺のことなんて忘れてあっちに行っちゃうかもって思ったのに。
「いいの?長谷川いるよ」
「なにそれ、先輩のこと置いて行ってもいいの?」
「いや、それは傷付くんですけどね」
「ははっ、素直かよ。いいですよ別に。また知らない男といるし、声掛けてもあの人俺のことなんて選ばないから」
なんてことないように話す美好くんの表情は冷め切っていて、その言葉には呆れと諦めが強く滲んでいた。
そこまで言うくせに美好くんの心は今もあいつの所にあって、いつまでも俺のものにはならない。
いつになったら、って。夢を見るように考える。
いつになったら君はあいつを諦めて、いつになったら君は俺のことを好きになるんだろう。
「俺だったら美好くんのことしか選ばないけどね」
「なに張り合ってるんですか」
「だから毎回ここ座ってもいい?この講義の時は、美好くんの隣は俺のものってことで」
本当はずっとじゃなきゃ嫌だけど、今はそれでいいから。
「好きにして」
「いいの?やったねー」
喜ぶ俺を横目に見て、美好くんがふっと笑った。
「単純ですね、先輩は」
向けられたその瞳がやたらとやさしいような気がして心臓がぎゅっと苦しくなる。
そんなわけないって知ってるのに、勘違いしそうになる。
気を許した美好くんはやっぱり危険だ。
「ゔえっ」
長かったはずの夏休みはあっという間に終わりを告げ、カレンダーも気付けば9月の中旬になっていた。
今日から本格的に講義も始まる。
あー夏休み戻ってこねえかな、と鬱々とした気持ちで廊下を歩いていたところで見知った金髪に勢いよく肩を組まれた。
「いってえよ馬鹿、離れろ」
「えー無理。久しぶりの紫ちゃん嬉しいだろ?」
「お前に会わない夏休みは快適だったよ紫」
「あははー強がってるわコイツ」
「ユカちゃんが女と遊んでばっかで向井の誘い断るから拗ねてんだろ」
「向井も割と紫のこと好きだからな」
「ちづってほんと可愛い」
「お前らはまた好き勝手なことを…」
コイツらと集まるといつもこれだ。
前から思ってたけど永瀬と真白はなんで当たり前のように紫の方に付いてるわけ?一人でいいから俺の味方をしろよ。やっぱり最初のグループワークが失敗だったな、と思いながら講義室に入る。
何度も絶交を言い渡している割には次の講義も全員一緒だ。仕方ない、その方が休んだ時とか困らないし。
室内を見渡して空いている席を探していると、回された手に肩を叩かれた。
「あれ?おいちづ」
「なんだよ」
「アレ、お前の大好きな美好くんじゃね?」
「え!?」
紫が指差す方を見ると、なんとそこにいたのは確かに美好くんだった。窓際の席に座ってぼんやりと外の景色を眺めている姿がものすごく絵になる。
「ちょ、お前邪魔どけ」
「はー?せっかく教えてやったのに」
いまだに肩の上に乗っていた腕を叩き落として急いで美好くんの方へと向かう。
「美好くん!」
「…先輩?」
「え、次ここ?」
「そうですけど。先輩もですか」
「そう!うわー初めて講義被った、隣誰か来る?俺一緒に受けてもいい?」
美好くんの隣は奇跡的に空いていた。そりゃそうだ、座りたくたって恐れ多くて座れないだろう。
「一人です。俺はいいですけど、先輩のお友達は?」
「友達?」
「友達?じゃねーのよ。俺らのことだろアホ」
振り向くと置いてきたはずの紫達がいた。
さっき叩き落とした腕が再び肩に回されてそのまま後ろに体重をかけられる。結果、重みに傾いた体は真後ろに立っていた紫の胸に収まる形になった。ムカつくことに俺よりも大分背の高い紫は立っていると毎回こうして俺のことを肘置きか何かのように扱ってくる。クソだ。
「ああ大丈夫!コイツらはどうでもいいから」
「ちづちゃん?お前今あっさりと友達を捨てやがったね」
「当たり前だろ。いいから散れ」
「こいつやば。しょうがねえな、ごめんねー美好くん。ウチのちづが迷惑かけたら教えてね、すぐ回収するから」
「あぁ、いえ」
「おいだれが迷惑、ってやめろ、顔つかむな!」
人の顔を掴んでもきゅもきゅと好き勝手に頬を潰した後、いい子にしろよとかなんとか言い残して紫は去って行った。永瀬と真白もいつのまにか美好くんに話しかけて、いつも向井がごめんねーだとか紫と同じようなことを言っている。
だからお前らは俺のなんなんだよ。
「…あー、なんかごめんね美好くん。あいつらマジでウザくて」
「全然、楽しそうでいいなぁって思いました。てか先輩にウザいって言われたら終わりですね」
「んん!?」
「だってストーカーだったじゃん」
「そんなつもりはなかったんですけどね…その節はスミマセン」
「ははっ、今は思ってないですよ」
机に頬杖をついて笑う美好くんはなんだかあざとかった。そうやって簡単に笑われると悪い男に騙されてるような気分になる。それくらい綺麗で、いつまでも慣れずに見惚れてしまう。
その時、前方の席がざわめいた。
周りの視線が向く先を見てその反応に納得する。
派手な髪色と派手な服装、遠目から見てもわかるスタイルの良さと整った顔。中身がどうしようもないクズだと知っても尚、目を引くような華がある。
見たくないなと思いながらも美好くんがどんな顔をしているのか気になって隣を盗み見ると、思いの外普通の顔をしていて拍子抜けした。
「なに?」
「いや…」
ざわめきにつられただけで後はもう興味なんてないというように、美好くんの視線が入口に立つ長谷川を追いかけることはなかった。
もっとわかりやすく嬉しそうに笑って、なんなら俺のことなんて忘れてあっちに行っちゃうかもって思ったのに。
「いいの?長谷川いるよ」
「なにそれ、先輩のこと置いて行ってもいいの?」
「いや、それは傷付くんですけどね」
「ははっ、素直かよ。いいですよ別に。また知らない男といるし、声掛けてもあの人俺のことなんて選ばないから」
なんてことないように話す美好くんの表情は冷め切っていて、その言葉には呆れと諦めが強く滲んでいた。
そこまで言うくせに美好くんの心は今もあいつの所にあって、いつまでも俺のものにはならない。
いつになったら、って。夢を見るように考える。
いつになったら君はあいつを諦めて、いつになったら君は俺のことを好きになるんだろう。
「俺だったら美好くんのことしか選ばないけどね」
「なに張り合ってるんですか」
「だから毎回ここ座ってもいい?この講義の時は、美好くんの隣は俺のものってことで」
本当はずっとじゃなきゃ嫌だけど、今はそれでいいから。
「好きにして」
「いいの?やったねー」
喜ぶ俺を横目に見て、美好くんがふっと笑った。
「単純ですね、先輩は」
向けられたその瞳がやたらとやさしいような気がして心臓がぎゅっと苦しくなる。
そんなわけないって知ってるのに、勘違いしそうになる。
気を許した美好くんはやっぱり危険だ。
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