I love youの訳し方

おつきさま。

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背伸びとブラックコーヒー

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指定された時間の10分前に集合場所に着くと先輩はもうすでに来ていて、俺の姿を見つけた瞬間「美好くん!」と弾んだ声で名前を呼んで目の前まで駆けてきた。
マジで犬みたい。

「こんばんは、先輩。すみません待ちました?」
「全然!俺も今来たとこだから」
「そっか、よかった」

デートの定型文のような会話を交わしてから、行こうかと歩き出す。別にデートではないけど。
会場に近付くほど人の量が増していく。
周りを歩く人は浴衣を着ている割合が多く、カラコロと鳴る下駄の音が夏を感じさせた。

「先輩は浴衣着ないの」
「着ないっていうか着れない、持ってないし。美好くん着れるの?」
「ムリ」
「だよね。でも、美好くんは絶対浴衣似合うよな。黒髪綺麗だし」
「そうですか?」
「うん、美好くんが浴衣着たらみんな振り返っちゃうね」

そんなことはないと思うけど、なんでか先輩は俺のことを褒めてうれしそうに笑った。
先輩だって、淡い髪色をしているから濃い色の浴衣を着たらきっと似合う。
思ったけど、言わなかった。

「あ、屋台見えてきた!俺クレープ食べたい」
「初手からですか?ほんと甘党ですね」
「美好くんも食べようよ、好きじゃん甘いの」

先輩はいつも、全部わかったうえで俺に甘いものを勧めてくる。そんなの好きじゃないって普段なら断るけど、もういいか。
いつまでもくだらない意地を張ったって、それが何にもならないことくらいもうとっくに気付いてた。

「…じゃあ、イチゴので」
「っ!わかった!俺もそうしよっかな」
「先輩の奢り?」
「おう任せろ」

ちょっと待ってて、っていそいそとクレープを買いに行く背中を見て思わず笑いが漏れた。
なんでいっつもあんなにうれしそうなんだろう、あの人。こっちが恥ずかしくなるくらい、俺のことばっかりで。

「はい、どーぞ」
「ありがとうございます」

差し出されたクレープは焼き立てなのか温かかった。一口かじれば甘すぎるクリームと甘酸っぱいイチゴの味が口の中に広がる。
こんなに甘いもの久しぶりに食べた。
いつからか、あの人の前でもそうじゃなくても甘いものを遠ざけるようになっていた。

「おいしい?」

まるい瞳が恐る恐るというように俺の顔を覗き込んだ。強引に来たかと思えばそうやってこっちの反応を気にして不安そうな顔をする。わざと揺さぶってんのかなって思うけど、どう考えてもそんなに器用なタイプじゃなかった。

「うん、美味しい」
「っそ、そー。よかった、え、なに。なんで笑ってんの?」
「いやーわかりやすいなって」
「はあ?なんの話?」
「別に?」

向井先輩は油断するとすぐに顔が赤くなる。
そういうところはちょっとだけ、可愛いかもしれない。

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