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炭酸とバニラアイス
炭酸は痛いから嫌い
しおりを挟む「みーよーしーくんっ」
ピトリ、とさっき自販機で買ったばかりの冷えたサイダーの缶をベンチに座る無防備な首筋に押し当てる。瞬間、「…っ!」と声にならない悲鳴を上げてこっちを振り向いた美好くんが物凄い形相で俺を睨みつけた。
わあ、怒ってる。
「っまたアンタかよ!まじでウザイんだけど」
「おー美好くん今日も機嫌悪いなあ。はいあげる」
「はあ!?誰のせいだと…っ!……あーもういい、ありがとうございます」
イラつきながらも結局最後にはきちんとお礼を言うところが実に美好くんらしくていいと思う。
手の中のサイダーを渡しながら俺もベンチに腰掛けて、自販機で一緒に買ってきたパックのいちごミルクにストローを刺す。あまったるい中にもほんの少しイチゴの酸味を感じるような感じないような。
「んー!今日もいちごミルクがおいしくて幸せだ」
「毎日毎日よくそんなあまったるいもん飲めますね」
「これがないと人生なんてやってらんねーよ。美好くんだってそれ糖分やばいよ、人のこと言えないから」
「いやアンタが買ってくるんでしょ。…俺が好きなのはブラックコーヒーだって言ってんのに」
そうぼやいた美好くんが缶のプルタブに指をかける。
プシュ、とこぼれる炭酸の音が心地いい。
好きだなあ、この音。俺は炭酸飲めないけど。
「…そうだっけ?ごめんごめん」
「まじアンタ口だけ。どうせまた買ってくんだろ」
「あらバレてる」
「うっざ」
心底嫌そうな顔をされるのにも随分と慣れてしまった。ていうか俺、美好くんにこの顔しかされてなくない?まあ嫌がられてるのに毎回ダル絡みしに行ってる俺が悪いんだけど。
中庭の隅の方、デカい木の下にベンチが一つだけ置かれた人気の少ないこの場所が、美好くんのお気に入り。講義がない時は大抵ここにいる。いるとわかってるんだからそりゃ俺も行く。美好くんに会える回数は多ければ多いほどいい。
学部が同じといえど3年の俺と2年の美好くんだと被る講義もほぼないし。
「美好くん、今日この後ヒマだよね?」
「ヒマじゃない」
「あれ?まだ講義あったっけ」
「図書館でレポートやる予定なんで。てかまじでなんで俺の時間割把握してんだよキモい」
「うわ、キモいは傷付ついた。毎日会ってれば大体わかるし」
「会ってるんじゃなくてアンタが勝手に来てるだけだろ」
どんなに不愉快そうな顔をしてみせても崩れない美しい顔は、笑ってる時が一番綺麗だ。だけど残念ながらそれが俺に向けてもらえることはない。俺のものじゃないそれをいつも遠くから見ているだけ。
ガラスケースの向こうに並べられた綺麗な宝石は、特別な人間にしか手に入れられない。つまりはそういうことだ。
きれいなものはいつも遠いところにある。
「ねえ美好くん」
呼び掛けた俺の声を遮るように軽快な電子音が鳴った。わざわざ確認するまでもない、発信源は美好くんのスマホだ。すぐに画面を確認した美好くんは、そのまま横に置いてあったトートバッグを肩にかけて立ち上がった。
「…忠犬め」
一連の素早い動きを眺めながらぽつりと呟けば、振り返った美好くんが不機嫌そうに眉根を寄せた。
「誰が犬だよ、このストーカー」
そう吐き捨ててさっさと歩いて行ってしまう背中に、別れの挨拶くらいあってもいいんじゃねーのと言いかけてやめた。どうせ無視されて終わりだ。
今日も今日とて美好くんはつれない男である。
てか。
「ストーカーじゃねえし」
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