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モラハラ

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「え?」

結家くんが意外そうな声をあげた。眉間に怪訝そうなシワまで寄っている。

「謝ったの?玻璃が?」

「あたしだって謝るよ」

「いや、そうだろうけど、そこで?」

結家くんは困惑しているような表情を見せたが、次の瞬間にはハッとして「ごめん、続けて」と言った。

「え~と、ああ、そうそう、弟は家の物置で寝てるところを発見されました」

「それはよかった。で、明くんとは?」

「あー、謝ったんだけどね、完全には許してくれなくて、さっさと帰っちゃったんだよね。だから、気まずくて、自己嫌悪中なの」

あたしはため息をついた。

「なぜ?」

「ん?」

「なぜ玻璃が自己嫌悪になる必要があるの?」

まっすぐにあたしの瞳を見つめて、結家くんは聞いてきた。

「え?だって、心配かけちゃったから……」

「相手の勝手な心配まで、玻璃が引き受けなきゃいけないの?」

結家くんはいつもの涼やかな感じと違ってイライラしているようで、そんな彼は初めてだった。

あたしは戸惑ったけれど、明の名誉のためにも言い返す。

「う~ん、あたしって、なんだか色々心配かけちゃうみたいなんだよね。危なっかしいっていうか、もうすこし女の子の自覚を持って欲しいって明にも言われるし」

「それってモラハラみたく聞こえるけど」

「何でもかんでもモラハラっていうのは違うと思う。特に、個人的なふたりの関係は、外からじゃわからないこともあると思うし」

「……」

「それに、ずっとあたしのことを考えてくれてたから、ついつい爆発しちゃったんだと思うんだよね。そう考えれば、可愛いと言えないこともないし、悪くないかな~、なんて、アハハ……」

結家くんが黙って見つめてくるから、あたしはまるで言い訳みたいに勢いでしゃべった。

顔が、熱くなる。なぜだか、涙が出てきそうで、あたしは下を向いた。
 
本当に、可愛いなんて思ってる?小さい頃から好きだったって言われた時は嬉しかったけど……。
 
沈黙を破ったのは、結家くんのやさしげな声だった。

「……俺はこのふたりきりの時間を大切に思ってる。ということは、俺たちの関係も、個人的なふたりの関係って考えていいのかな?」
 
覗き見ると、結家くんは茶目っ気のある微笑みをあたしに向けていた。
 
胸に温かな感じを覚えて、あたしは黙ってうなずく。
 
押し付けがましくない心配りのなんと好もしいことか。ただ黙って隣にいてくれるような心強さに、胸がじんと来た。
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