あなたがくれた痛みなんていりません

Yapa

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事の顛末

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でも、街中を一人でプラつくのってつまんないなって思ったの。もちろんそうじゃない人もいるだろうけれど、あたしの趣味じゃない。

いつからあたしは暇になると、街中を一人で歩くしかなくなってしまったんだろうって、急に悲しくなった。

子どもの頃はひとりでも、もっと自由で楽しかった気がする。こういうの、わかる?

それで、何を言っているんだって思うかもしれないけど、子どもの頃によく遊んでいた場所に行ってみようって思ったの。スマホの電源を切ってね。子どもの頃にスマホなんて持ってなかったでしょ? 

記憶だけを頼りに、街をはずれて、テクテク歩いてった。だんだんビルもなくなっていって、緑成分が多くなっていって、試験前に何をしてるんだって気がするけど、ワクワクした。

あたしは探検的に歩き回るのが好きみたい。

全然知らない場所に出たり、なんとなく見覚えあるところを見つけたりして歩いていくと、叔母の家に来ると必ず遊んだ原っぱにたどり着いたの。

すごいなって思った。こんな何もない原っぱで、よく遊んでられたなって。

でも、子どもの目には、何もないなんてことなくて、自分の背丈より大きな草や、剣になる木の棒、その剣で大きな草を薙ぎ払ったり、そこから出てくるバッタを捕まえたり、追いかけっこをすれば、草をかき分けて逃げる極上のスリルを味わえたり……。

え?なに?男の子の遊びみたいだって?

……そうね。飛んだり跳ねたり、生傷が絶えなかったりしてたから、ちょっとヤンチャな女の子だったと言えるかもしれないね。

でも、その頃初恋してたんだよ。吉野くんっていう原っぱでだけ会える男の子。

ふふっ。え?なにを思い出し笑いしてるのかって?不気味とは失礼な。

思い出し笑いくらいするよ。だって、その子にプロポーズされたんだよ、あたし。小学二年生なのに、すごくない?

しかもプロポーズの言葉が「ぼくは愛するあなたと一緒に幸せになりたい」っていう大人びたものでさ。一緒にってとこが良いよね。うふふ、笑いが止まらん。にやける。

まあ、子どもの約束だから、いつの間にか男の子が原っぱに来なくなっちゃってそれっきりなんだけど、かわいい思い出だよね。

そんなわけで、あたしは幸せいっぱいな充実した気分で叔母の家に帰ったわけよ。

そしたら、家の前に明がいてさ。

あたしは気分も良いし、満面の笑顔で近づいて行ったわけ。なになに?さみしくなっちゃったのかな~?わざわざ会いに来るなんて、愛い奴めって。

そしたら、いきなりパチン、よ。

『バカ!どれだけ心配したと思ってるんだ!』なんて怒鳴りつけてきてね。

ムカついた。付き合ってるからって、旦那ヅラされる筋合いなんてないじゃない?

でも、事情を聞くと、弟の透がお父さんに怒られたとかで家出騒ぎを起こしてて、自分の弟同然にかわいがってるからって明も探してくれてたの。

それで、叔母の家に行ったのかもしれないって、あたしに連絡取ろうとしたら、今度はあたしと全然連絡取れなくて、ものすごく心配したらしいのね。もしかして、姉弟でなにか事件に巻き込まれたんじゃないかって、良からぬ想像がどんどんふくらんでいったんだって。

そういえば、スマホ電源切ってたわって思って、電源入れたらいっぱい連絡入ってて、ああ、こんなに心配かけちゃったのかあ、なんか悪いことしたなって思って、謝った。

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