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第一章
第9話 ブラッドリーはげっそりし、ローザはうっとりする
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「そうですか……。コートニーさんとは、ずいぶん仲がよろしいのですね……!」
ローザのその低く冷たいつぶやきは、室内の体感温度を数度下げた。
サファイアの瞳から冷気が放出されているかのようだった。
窓の外にいた鳥が突然激しく泣いて飛び立ち、快晴だった空に急に暗雲が立ちこめ、太陽を遮った。
リュックとニコラは、急に暗くなった部屋に不穏な気配を感じ、息を潜める。
「い、いや、仲が良いとかそういうことではなく、公務の上で信頼しているということです」
真正面から冷気を受けたブラッドリーは、つい言い訳じみたことを言ってしまう。
ブラッドリーは座っているから、立っているローザに自然と見下されている格好になり、蛇に睨まれたカエルのようで落ち着かない。
「ふーん、信頼、ですか……」
「そ、そうです……!」
歴戦のツワモノであり、“戦神”とも謳われるブラッドリーの背筋に緊張が走る。
(い、一体なにを怒っているんだ……?)
昨夜の熱っぽい怒りとはちがう、冷凍ヤケドでもしてしまいそうな怒りに触れてブラッドリーは戸惑った。
ローザはすこしも視線を外さず、瞳で捕食するかのようにブラッドリーをまばたきもせずに見つめ続ける。
つい、ブラッドリーは視線を外す。
「……わかりましたわ。ニコラの件は了承頂けましたわね?」
「え、ええ……」
「結構。失礼致しますわ。ニコラ行きましょ」
「は、はい!」
うしろで不安そうに成り行きを見守っていたニコラが、重苦しい空気から解放されて大きな返事をする。
リュックはローザと目を合わせないように、下を向いていた。
(ふぅ……)
ブラッドリーも内心ため息を吐く。
「……!?」
だが、次の瞬間、ブラッドリーの表情は驚愕に染まっていた。
出ていったと思った刹那、扉に手が残っているのに気づく。
白く、美しい白蛇のような指。
ズズズ……、と音がするように、半分だけローザが顔を出し、まばたきをしないサファイアの瞳でブラッドリーを見つめていた。
「……ブラッドリー様」
「……な、なんでしょう?」
冷や汗を流しながら、ブラッドリーはかろうじて聞く。
「アーサー様を、愛していらっしゃいますか……?」
「な、なにを……!?」
「答えてください。大事なことなので」
大事なことだと言われては、ブラッドリーは答えざるを得ない。
「……愛しています」
「本当に?」
「……本当です。当たり前でしょう」
ブラッドリーはやや不機嫌に答えた。
「……わかりました。不躾な質問お許しください。それでは」
ローザは顔を引き剥がすように扉から離し、それから手をゆっくりと放した。
まるで絡みついていた白蛇が脱力するような指の動きだった。
扉が閉まる。
ローザたちの気配も遠ざかっていく。
リュックが足音をさせずに扉に近づき、カギを後ろ手に掛けた。
「……お前の新妻ヤベえな」
真剣な顔で言う。
「……ああ」
ブラッドリーは痛む頭に手をやり、観念するようにうなずくほかなかった。
「おはようございます!アーサー様!」
「……おはよう」
ローザが朝食を食べに食堂に行くと、まだ眠気眼なアーサーがいた。
(はあ……!目がトロンてしてるアーサー様かわいい!)
「た、食べさせて差し上げましょうか?」
あまりの可愛さに、ローザは少々大胆な提案をしてみる。
そんなローザにアーサーはジト目を向けた。
(あっ……!いきなり距離詰め過ぎたかも……!)
「……うん」
アーサーはこっくりうなずいた。
「!そ、それではお隣失礼致しますわね?」
ローザは半分寝ているアーサーの口に料理を運んでいく係と化す。
アーサーが目をつぶりつつも、差し出されたスプーンにパクついて来る。
ローザは胸がキュンキュンした。
(し、幸せ……!ずっとこの係やっていたいわ……!)
「ガハハ!奥様は坊っちゃんのことが大好きですなあ!」
豪快な笑い声がしたので見ると、そこには料理長のゴードンがいた。
背はブラッドリーよりやや低いが、なんというか全体的に野太い感じのする男だ。
だが、妙な愛嬌があり、巨大なクマのぬいぐるみに似ている。
「ええ、そうなの……」
ローザはうっとりと応える。
ゴードンはガハハと愉快そうに笑った。
「どうです?ここの料理はお口に合いますかい?」
「ええ、とても」
ここはいわゆる辺境と呼ばれる地域なので、ローザが食べ慣れた王都の料理とは当然違ってくる。
「苦手な素材なんかはありましたかね?」
「ううん。どれも今のところおいしいわ。この木の実なんかは初めて食べたけど、好きな味よ」
「ああ、シャインナップルですね。ここらへんでしか採れないんですよ」
光り輝かんばかりのそのフルーツは、固そうな見た目に反して皮ごと食べられた。甘みと酸味が絶妙だった。
「酸味が苦手という人もいるんですが、これが楽しめるならあまり心配はいらなそうですね。安心しやした」
ゴードンはニカッと豪快に微笑む。
「あら、心配してくれてたの?」
「嫁いできたばかりで心細くても、体まで細くなる必要もねえですからね」
ゴードンはただ美味しい食事を出すだけでなく、相手の健康まで考える。プロ意識の高い男と言えた。
様々な食材を求めて各地を放浪した経歴を持ち、1年前にここコドラ領にたどり着いたという。
プロ意識が高く、1年前という浅い職歴から、ローザにとってかなり安全な部類に入る男だと言える。
コックに毒など入れられては敵わない。
さっき確認したら、侍女とコックでは完全に指示系統は別らしく、コートニーが侍女頭の権力を使ってむりやり毒を入れさせるということは考えづらい。
プロ意識の高い男が料理長を務めているなら、なおさらのことだろう。
加えて、浅い職歴から変なしがらみに絡め取られている可能性も薄い。
だから、信用できるとローザは判断した。
(本当はもっとじっくり時間をかけて判断したいけど……)
「……ありがとう」
「へへ、コックとして当たり前のことですよ」
「ニコラのことも感謝してるわ」
調理場でニコラに食事をさせてもらえるようにお願いしていた。
これまで通りほかの侍女たちといっしょに食べるのは、さすがに針の筵過ぎるだろう。
「ガハハ!なーに、若い連中が張り切ってちょうどいいですよ」
「そう。それは良かった」
(信頼、か……)
ゴードンの屈託のない笑顔を見て、ローザは思った。
(ブラッドリー様は、コートニーのことを信頼していると言ったわ……。わたしはこんなに好意的な笑顔を向けてくれるゴードンを打算的にしか信用できないのに……)
きっと彼らは長い時間でしか培えないものを共有しているのだろう。
(……なんでだろう?それはそれで腹が立ったのよね……?)
ローザは自分がなぜ腹を立てたのか、皆目見当もつかなかった。
(……まあ、いいか。それよりも、もしかしたらブラッドリー様もコートニーとグルっていう最悪の想定が浮かんでいたけれど……)
ブラッドリーの真剣な眼差しを思い出す。
『……愛しています』
『本当に?』
『……本当です。当たり前でしょう』
言い慣れない言葉だからか、たくましい喉仏が震えていた。
不機嫌そうに顔を赤らめて。
(……ウソとは思えない。……というか、信じたいな……)
「……ローザ?」
顔を赤らめてボーっとしていると、アーサーに不審がられた。
「あ、ごめんなさい。なんでもないのよ」
「うん……」
照れ笑いを浮かべて取り繕うローザをよそに、アーサーは目をつぶって口を開く。
自分で食べる気ゼロだ。
スプーンを握る様子すらない。
「まあまあ!待っててくれたのね!なんてえらいのかしらっ!」
ローザはとてもうれしかった。
(可愛すぎる……!わたしの天職を見つけてしまったわ……!)
ローザはシャインナップルをナイフとフォークで一口サイズに器用に切り分けて、アーサーの口に運ぶ。
「おいしいですか?」
「……うん」
褒められたのはシャインナップルのはずなのに、その答えにローザはついうれしくなる。
小さなのどを鳴らして食べる姿には、感動すら覚えた。
「ガハハ!これは親バカ一直線ですな!」
ゴードンは豪快に笑うと、テーブルにバスケットを置いた。
「坊っちゃん。2人分のお弁当ここに置いときやすね」
「……うん。ありがと」
アーサーは半分目を開けてお礼を言う。
「それじゃ、あっしはこれで!」
ゴードンが去り、2人分の弁当が残された。
(ああ!半目のアーサー様も可愛い……!じゃなくて、2人分……!?一体、誰と……?)
ローザは弁当から目を離せなかった。
「あ、あの……、このお弁当はだれと食べるんですか?」
「ん……?友達……」
「友達!?わたしですかっ?」
ローザは突っかけるように聞いた。
アーサーはふるふると首をふる。
「ローザじゃなくて、ヴィン……」
ローザはがっかりした。
アーサーのもう一人の友達は、ヴィンという名前らしい。
(いや、当たり前よね……。約束だってしてないのに、そんないきなり……。なんだかわたし、アーサー様のこととなるとちょっと正気じゃいられないわね……)
ローザはちょっと反省した。
アーサーは薄目でローザを見ている。
「……ローザもお弁当食べたいの?」
「え?」
「……いっしょに来る?」
「行きます!」
ローザは即答した。
「そっか」
アーサーはうれしそうに微笑んだ。
それはどんなフルーツよりも甘い微笑みだった。
(ああ……、なんか……!)
思わずローザは顔が赤くなる。
(なんか、ズルいかも……!)
アーサーが口を開ける。
(アーサー様って、もしかして天使であり、小悪魔……?)
ローザはせっせと口に料理を運ぶのだった。
ローザのその低く冷たいつぶやきは、室内の体感温度を数度下げた。
サファイアの瞳から冷気が放出されているかのようだった。
窓の外にいた鳥が突然激しく泣いて飛び立ち、快晴だった空に急に暗雲が立ちこめ、太陽を遮った。
リュックとニコラは、急に暗くなった部屋に不穏な気配を感じ、息を潜める。
「い、いや、仲が良いとかそういうことではなく、公務の上で信頼しているということです」
真正面から冷気を受けたブラッドリーは、つい言い訳じみたことを言ってしまう。
ブラッドリーは座っているから、立っているローザに自然と見下されている格好になり、蛇に睨まれたカエルのようで落ち着かない。
「ふーん、信頼、ですか……」
「そ、そうです……!」
歴戦のツワモノであり、“戦神”とも謳われるブラッドリーの背筋に緊張が走る。
(い、一体なにを怒っているんだ……?)
昨夜の熱っぽい怒りとはちがう、冷凍ヤケドでもしてしまいそうな怒りに触れてブラッドリーは戸惑った。
ローザはすこしも視線を外さず、瞳で捕食するかのようにブラッドリーをまばたきもせずに見つめ続ける。
つい、ブラッドリーは視線を外す。
「……わかりましたわ。ニコラの件は了承頂けましたわね?」
「え、ええ……」
「結構。失礼致しますわ。ニコラ行きましょ」
「は、はい!」
うしろで不安そうに成り行きを見守っていたニコラが、重苦しい空気から解放されて大きな返事をする。
リュックはローザと目を合わせないように、下を向いていた。
(ふぅ……)
ブラッドリーも内心ため息を吐く。
「……!?」
だが、次の瞬間、ブラッドリーの表情は驚愕に染まっていた。
出ていったと思った刹那、扉に手が残っているのに気づく。
白く、美しい白蛇のような指。
ズズズ……、と音がするように、半分だけローザが顔を出し、まばたきをしないサファイアの瞳でブラッドリーを見つめていた。
「……ブラッドリー様」
「……な、なんでしょう?」
冷や汗を流しながら、ブラッドリーはかろうじて聞く。
「アーサー様を、愛していらっしゃいますか……?」
「な、なにを……!?」
「答えてください。大事なことなので」
大事なことだと言われては、ブラッドリーは答えざるを得ない。
「……愛しています」
「本当に?」
「……本当です。当たり前でしょう」
ブラッドリーはやや不機嫌に答えた。
「……わかりました。不躾な質問お許しください。それでは」
ローザは顔を引き剥がすように扉から離し、それから手をゆっくりと放した。
まるで絡みついていた白蛇が脱力するような指の動きだった。
扉が閉まる。
ローザたちの気配も遠ざかっていく。
リュックが足音をさせずに扉に近づき、カギを後ろ手に掛けた。
「……お前の新妻ヤベえな」
真剣な顔で言う。
「……ああ」
ブラッドリーは痛む頭に手をやり、観念するようにうなずくほかなかった。
「おはようございます!アーサー様!」
「……おはよう」
ローザが朝食を食べに食堂に行くと、まだ眠気眼なアーサーがいた。
(はあ……!目がトロンてしてるアーサー様かわいい!)
「た、食べさせて差し上げましょうか?」
あまりの可愛さに、ローザは少々大胆な提案をしてみる。
そんなローザにアーサーはジト目を向けた。
(あっ……!いきなり距離詰め過ぎたかも……!)
「……うん」
アーサーはこっくりうなずいた。
「!そ、それではお隣失礼致しますわね?」
ローザは半分寝ているアーサーの口に料理を運んでいく係と化す。
アーサーが目をつぶりつつも、差し出されたスプーンにパクついて来る。
ローザは胸がキュンキュンした。
(し、幸せ……!ずっとこの係やっていたいわ……!)
「ガハハ!奥様は坊っちゃんのことが大好きですなあ!」
豪快な笑い声がしたので見ると、そこには料理長のゴードンがいた。
背はブラッドリーよりやや低いが、なんというか全体的に野太い感じのする男だ。
だが、妙な愛嬌があり、巨大なクマのぬいぐるみに似ている。
「ええ、そうなの……」
ローザはうっとりと応える。
ゴードンはガハハと愉快そうに笑った。
「どうです?ここの料理はお口に合いますかい?」
「ええ、とても」
ここはいわゆる辺境と呼ばれる地域なので、ローザが食べ慣れた王都の料理とは当然違ってくる。
「苦手な素材なんかはありましたかね?」
「ううん。どれも今のところおいしいわ。この木の実なんかは初めて食べたけど、好きな味よ」
「ああ、シャインナップルですね。ここらへんでしか採れないんですよ」
光り輝かんばかりのそのフルーツは、固そうな見た目に反して皮ごと食べられた。甘みと酸味が絶妙だった。
「酸味が苦手という人もいるんですが、これが楽しめるならあまり心配はいらなそうですね。安心しやした」
ゴードンはニカッと豪快に微笑む。
「あら、心配してくれてたの?」
「嫁いできたばかりで心細くても、体まで細くなる必要もねえですからね」
ゴードンはただ美味しい食事を出すだけでなく、相手の健康まで考える。プロ意識の高い男と言えた。
様々な食材を求めて各地を放浪した経歴を持ち、1年前にここコドラ領にたどり着いたという。
プロ意識が高く、1年前という浅い職歴から、ローザにとってかなり安全な部類に入る男だと言える。
コックに毒など入れられては敵わない。
さっき確認したら、侍女とコックでは完全に指示系統は別らしく、コートニーが侍女頭の権力を使ってむりやり毒を入れさせるということは考えづらい。
プロ意識の高い男が料理長を務めているなら、なおさらのことだろう。
加えて、浅い職歴から変なしがらみに絡め取られている可能性も薄い。
だから、信用できるとローザは判断した。
(本当はもっとじっくり時間をかけて判断したいけど……)
「……ありがとう」
「へへ、コックとして当たり前のことですよ」
「ニコラのことも感謝してるわ」
調理場でニコラに食事をさせてもらえるようにお願いしていた。
これまで通りほかの侍女たちといっしょに食べるのは、さすがに針の筵過ぎるだろう。
「ガハハ!なーに、若い連中が張り切ってちょうどいいですよ」
「そう。それは良かった」
(信頼、か……)
ゴードンの屈託のない笑顔を見て、ローザは思った。
(ブラッドリー様は、コートニーのことを信頼していると言ったわ……。わたしはこんなに好意的な笑顔を向けてくれるゴードンを打算的にしか信用できないのに……)
きっと彼らは長い時間でしか培えないものを共有しているのだろう。
(……なんでだろう?それはそれで腹が立ったのよね……?)
ローザは自分がなぜ腹を立てたのか、皆目見当もつかなかった。
(……まあ、いいか。それよりも、もしかしたらブラッドリー様もコートニーとグルっていう最悪の想定が浮かんでいたけれど……)
ブラッドリーの真剣な眼差しを思い出す。
『……愛しています』
『本当に?』
『……本当です。当たり前でしょう』
言い慣れない言葉だからか、たくましい喉仏が震えていた。
不機嫌そうに顔を赤らめて。
(……ウソとは思えない。……というか、信じたいな……)
「……ローザ?」
顔を赤らめてボーっとしていると、アーサーに不審がられた。
「あ、ごめんなさい。なんでもないのよ」
「うん……」
照れ笑いを浮かべて取り繕うローザをよそに、アーサーは目をつぶって口を開く。
自分で食べる気ゼロだ。
スプーンを握る様子すらない。
「まあまあ!待っててくれたのね!なんてえらいのかしらっ!」
ローザはとてもうれしかった。
(可愛すぎる……!わたしの天職を見つけてしまったわ……!)
ローザはシャインナップルをナイフとフォークで一口サイズに器用に切り分けて、アーサーの口に運ぶ。
「おいしいですか?」
「……うん」
褒められたのはシャインナップルのはずなのに、その答えにローザはついうれしくなる。
小さなのどを鳴らして食べる姿には、感動すら覚えた。
「ガハハ!これは親バカ一直線ですな!」
ゴードンは豪快に笑うと、テーブルにバスケットを置いた。
「坊っちゃん。2人分のお弁当ここに置いときやすね」
「……うん。ありがと」
アーサーは半分目を開けてお礼を言う。
「それじゃ、あっしはこれで!」
ゴードンが去り、2人分の弁当が残された。
(ああ!半目のアーサー様も可愛い……!じゃなくて、2人分……!?一体、誰と……?)
ローザは弁当から目を離せなかった。
「あ、あの……、このお弁当はだれと食べるんですか?」
「ん……?友達……」
「友達!?わたしですかっ?」
ローザは突っかけるように聞いた。
アーサーはふるふると首をふる。
「ローザじゃなくて、ヴィン……」
ローザはがっかりした。
アーサーのもう一人の友達は、ヴィンという名前らしい。
(いや、当たり前よね……。約束だってしてないのに、そんないきなり……。なんだかわたし、アーサー様のこととなるとちょっと正気じゃいられないわね……)
ローザはちょっと反省した。
アーサーは薄目でローザを見ている。
「……ローザもお弁当食べたいの?」
「え?」
「……いっしょに来る?」
「行きます!」
ローザは即答した。
「そっか」
アーサーはうれしそうに微笑んだ。
それはどんなフルーツよりも甘い微笑みだった。
(ああ……、なんか……!)
思わずローザは顔が赤くなる。
(なんか、ズルいかも……!)
アーサーが口を開ける。
(アーサー様って、もしかして天使であり、小悪魔……?)
ローザはせっせと口に料理を運ぶのだった。
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