鶴の独声

二ノ前ト月

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竜人ドーラ

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オレが、竜人と異世界で子供をつくるだって???
しかも今さっき出逢ったばかりの相手と。

「冗談ならやめて下さい・・・人の命がかかってるんです。」

竜人はふんと鼻を鳴らした。

「冗談はお主の方じゃろ、逆鱗をくれなどと。我だから良かったものの、他の竜人であれば十中八九その場で燃やされるか喰い千切られて居たぞ。」

こっ、怖っっ

確かにそうかも知れない。
おかしい頼み事をしているのはオレも同じなのだ。

それにしたって規格外が過ぎる。
子供作るったって、このサイズの違い・・・どうするんだ。
良からぬ妄想がちらりちらりと脳裏に浮かぶ。

目を伏せ沈黙したオレの表情を見て察したのか、竜人は悪戯な微笑みを浮かべてオレの顔を覗き込んだ。
もしかしたら顔が赤くなってたかも知れないと思うと恥ずかしい。

「ふふ、案ずるでない。
我ら竜人、容姿を操るのは造作も無い事。必要とあらばお主の望みの姿になってやろう。」


『そういえばそんな様な事をクレインも言ってたな。』


「それに、お主ら人間と違って我らは卵生での繁殖。一度で子を生す事が可能じゃ。
それで?どうするのじゃ?先ほども申したが強制はせぬぞ。得心がいかぬならこのまま立ち去るが良い。」

言い終えると、また指輪の箱に視線を戻す竜人。


「あの、えっと、け、けけ、結婚とか、子育てとか、親御さんへのご挨拶などは」

しどろもどろしていると呆れた顔で竜人が振り返った。



「何をごちゃごちゃと。我が欲しいのは子種だけ。お主はただ我に子種を授ければ良いだけじゃ。」



人間であるオレ自身には心底興味が無いという風な声色。
まさか異世界でドラゴン相手に精子提供する事になるなんて。
そういえば"卵生"って言ってたから、卵にその、アレすればいいわけか。
過去にテレビで見た鮭の繁殖行動の映像が脳内再生された。


「・・・わかりました。では、宿で待ってるクレインにこの事を伝えてすぐ戻ってきます。」

くるりと身を翻し、扉に向かおうとした瞬間。

「ならぬ。」

間髪入れずに制止される。
大きな手で全身が掴まれ、身動きがとれない。
一瞬呼吸が出来ないくらいの圧力が全身にかかる。

ヒュウ、と肺から音が漏れる。
それを聞いて竜人は慌てて握った手を解く。

「済まぬ、済まぬ!大事無いか・・・?」

心配そうにケガの有無を確かめている姿が、昨夜のクレインと重なる。
追い返されてとぼとぼと歩いて戻ったクレインの背中・・・

あぁ、早く帰ってやりたい。

「人間は兎角ウワサ話が好きじゃろう。"人の口に戸は立てられぬ"とはよく言うたものじゃ。
この地域を守護する竜人が異世界人と子を生したとあらば、産まれて来る我が子は謂れのない迫害に遭うやもしれん。
・・・宿屋へは後ほど、我の信頼が置ける小間使いに書簡を持たせよう。」


それなら、とオレは頷いた。
と、いってもそもそもオレには選択肢など用意されていないのだが。




「さて。」








「目を閉じて、我が三つ数えたら目を開けよ。」

指示通り、瞼を閉じてカウントを待つ。

「一つ、二つ、三つ。」

ゆっくりと瞼を開ける。
目の前に居た巨人は消えていて、
替わりにそこに居たのはオレと同じ背丈の女。


「身の丈はこの程度で良いか?」


にこりと微笑みかけてくる美しい顔。
豊満な胸と、くびれたウエスト、安産型のお尻から伸びるすらりとした長い脚は足首に向かうほどに締まっている。




「大変良いです。」




我ながらアホな返事。










「あの、それで肝心の卵はどちらに・・・」


オレは鮭。
オレは鮭。

念仏の様に自分に言い聞かせる。


「ここに決まっておろうが?」


女は熱を帯びた上目遣いで自身の下腹部を指でつつっとなぞる。



「卵生ではあるが、まぐわい方はそなたらと同様じゃ。さ、好きに抱くが良い。」




「は、はぇ???」




我ながらどこから出てるのかわからない浮ついた声と、生唾を飲む音。

誘われるまま、近くにあった来客用のソファに倒れ込む。

何とも言えぬ良い匂いと、吸いつく柔い肌。
潤んだ瞳は吸い込まれそうなほど美しいルビーの輝きを放っていた。








「我が名はドーラ。今宵は離さぬから覚悟せよ。」



















「本来なら、同業者の種明かしは御法度なのじゃぞ。
その聖女とやらがかけた呪いはほぼ間違いなく"血"にかけられておる。」


重ねた肉体の余韻はそこそこに、まだ火照った身体をソファに横たえたままの彼女が口を開く。


「血・・・?」

「そうじゃ。」

はぁ、と満足気な溜息をついてドーラは続けた。

「つまり、血にかけられた呪いじゃからの。血をそっくり入れ替えてしまえば良いのじゃ。暴論じゃがそれが手っ取り早い。」

そう言って、ドーラは自分の指先にはめている装飾品を一つ外してオレの小指の先に装着した。
真っ白な、鉤爪の様な形。

「これは・・・?」

次の言葉が出る前に指先に走る激痛。


「痛っっうっ!!!!」


思わず声が出る。

何が起きているのかはわからないが、何か鋭利なものが指先に刺さったのだけはわかる。
オレの様子を見て驚きもせずドーラは淡々と説明する。


「その魔装器具は常時お主の血を吸い上げて溜める。本来は血を用いた呪いに使用される代物じゃ。常に貧血に襲われるのを覚悟せよ。
その少年にあと何日の猶予が残されておるかは知らぬが・・・万が一、呪いの成就が数日中だとすれば於東・・・足りぬ分はお主の血と引き換えになる。つまり、その場合お主はほぼ確実に死に瀕するぞ。」


指先の痛みはもう消えていた。
小指の先の魔装器具とやらに目をやると、先ほど真っ白だったものが薄っすらと赤くなっている。


「はい・・・。」

「使い方じゃがな、上限まで血が溜まるとその爪が真っ黒になる。その時にじゃな・・・」




本当にそんな方法で・・・?
にわかに信じ難いが、オレにはそうするしか無い。
そう、クレインの為にやれる事をやるしか無いんだ。




「それはそうと、於東よ・・・」




たった今終えたばかりの行為をもう一度、とオレの背を艶めかしく撫でながらねだる彼女。
まさか本当に、夜が明ける迄離して貰えないとは思わなかった。












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