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泣き虫クレイン
しおりを挟む「聖女が遺した"再び黒に染まる時が最期"。という言葉が本当なら、ボクはきっと時間制限か何かのきっかけでまた元の黒い瞳と髪に戻るって
事なのかも知れません。。そして、そうなった時に死ぬのだと思います。もしくは、全く別の意味の"黒に染まる"なのかも知れませんが。」
他人事の様に推測するクレイン。
「もしかしたらアイツらみたいに黒い塊になってしまうって事なのかな・・・。」
ぼそりと呟いたクレインの瞳はただ遠くを見つめていた。
「ひとまずオレ達が出来る事は竜人とやらに会って、逆鱗を何としてでも譲って貰ってー・・・それからー・・・
それからはそれからだな!」
我ながら満面の笑顔。
「おとうさんは強いなぁ。」
肩をすくめて呆れた様な、諦めた様な表情のクレイン。
どちらにせよ現状が何一つ変わらないのなら暗い顔してたって仕方ないじゃないか。
やれる事をやって、最適解を見つけてそれから、
それから・・・
どう転んだって、その場その時オレに出来る事をやるだけだよな。
目的の街に着く頃にはもう辺りは薄暗く、酒場や街頭の灯りがまるで祭りの夜の出店さながらだった。
道行く人で賑わい、酒場の店先では屈強な男達が酒を酌み交わし、腕相撲に興じている者もいる。
「ここの人達にもクレインは見えないのかな?」
先程の話を思い出す。
故郷では呪いの後にクレインの存在自体が認知されなくなったという話だったが。
「いいえ、それが
ボクが干渉するのもされるのも不可能なのは故郷だけみたいなんです。
故郷以外では買い物も、会話も何の問題も無く出来ます。」
「へぇ。」
「それに、故郷からの追跡者も他の土地では手にかける事が可能だったので。」
また、さらっと物騒な事を言いだした。
【つまり、故郷自体のフィールドに呪いがかかっているのか?】
「今日はもう遅いし、一先ず宿をとって竜人の居る宮殿へは明日の訪問にするか。」
「はい。」
オレ達2人はその足で酒場の二階にあるこじんまりとした宿屋で部屋を取る事にした。
「2人で2ウルン。」
不愛想な宿屋の店主はそう言い放った。
チャラリと2枚の銀貨を差し出すクレイン。
そのやりとりを見てハッと青ざめた。
そういえばお金・・・
オレはここの世界のお金を一銭も持ってないんだった。
当たり前の様に宿をとるなんて言いだしたけど、2ウルンっていくらくらいなんだろう。
もしかして無理して捻出してたりしたらどうしよう。
「どうしたんですか?おとうさん。
部屋は上らしいですよ、行きましょう。」
「あ、あの、ごめんね?
大人のくせに宿代出して貰っちゃって・・・その、お金稼げる機会があったら真っ先に返すからね?」
そう言ったオレを見てクレインが赤い瞳を丸くした。
そしてくすくすと笑う。
「おとうさん、ボクのせいでこっちに呼ばれたのにそんな事で気を遣わなくて良いんですよ。それに、ボク結構お金持ってますから大丈夫です。」
この子はヒモにも優しい。泣けてくる。
部屋は狭いけどふかふかのベッドが二つ。
ここ数日砂利の上で寝ていた事を思えば天国だ。
オレはスーツのままベッドにダイブした。
嗚呼、幸せ。
「・・・。」
そのまま何時間眠っていたんだろう。
倒れ込んだまま掛け布団の上で寝てた筈が、すっかりベッドに潜り込んでいた。
靴も、ジャケットも近くにきちんと並べられていて、明らかに世話を焼かれた形跡があった。
「クレイン・・・?」
ランプの灯りだけの薄暗い部屋を見渡す。
部屋の片隅にある木の椅子で膝を抱えて小さく縮こまり、目を閉じているクレインを見つける。
薄い毛布を羽織り、白い髪は綿毛の様にゆらりゆらりとランプの灯りに照らされていた。
「何だ、お前。折角ベッドがあるんだからベッドで寝ようぜ」
よいしょ、と少年の身体を抱えようとした瞬間
凄まじい力で撥ね退けられた。
転んだ拍子に肩を強打して痛みに思わず声が漏れる。
敵意に満ちた赤い瞳がオレを捉える。
「あっ・・・!!!」
オレを視認して我に返ったのか、一瞬で憑き物が落ちたかの様に顔つきが変わった。
「ご、ごめんなさいっ!!!!」
オレに駆け寄り、オロオロと戸惑う少年。
先ほどバカ力で突き飛ばしてきた本人かと疑うほどに、か細い声で何度もオレの名を呼び壊れものを触るかの様に
怪我の有無を確かめている。
「いや、オレの方こそごめん。ビックリさせたな。」
大丈夫だからと宥める。
他人に触られるのが生理的に受け付けない人間だって居るのに、これは無神経に近寄り過ぎたオレが悪い。
寝込みを襲われた経験があるのか、安心して眠れないのだろうな。
当たり前に睡眠を貪れる現代人のオレからしたら到底想像もつかない。
未だ心配の色を浮かべてオレを見詰めている。
「おとうさん、ボクは・・・
人の居場所を奪って生きて来ました。そうしないと生きていけなかったから。死にたいワケじゃない、でも生きていたくなかった。いつ死んでもいいやって思ってるくせに、身を守ってしまう・・・ボクは矛盾だらけだ。」
首をうな垂れ、か細い声で申し訳なさそうに話すクレイン。
「なぁ、クレイン。
今よりもっと小さかった頃からまともに人間らしい生活送って来れなかったんだろう?おかしくなって当たり前なんだよ。お前がおかしいんじゃないぞ。」
そう言うと、白い綿毛はハッとした表情で顔を上げた。
赤い瞳にはうっすらと涙。
「頑張って生きて来たな、お前。」
堰を切ったように泣き出すクレイン。
小さな肩を震わせ、大粒の涙をボロボロと零す。
我慢して押し殺す小さな小さな嗚咽。
まだほんの子供なのに、こんなにも辛い涙を流している。
触れても平気かと戸惑いつつも、居てもたっても居られず少年の涙を拭う。
そっと、遠慮がちに肩に寄りかかってくれたふわふわの頭を撫でる。
胸の底から湧き上がる慈しみと庇護欲。
暫くすると嗚咽は消え、静かな寝息に替わった。
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