鶴の独声

二ノ前ト月

文字の大きさ
上 下
2 / 10

少年クレイン

しおりを挟む
再び意識を取り戻したオレは周りを見渡した。
瞼はすんなりと開いた。
指も問題無く動く。

辺りは真っ暗闇。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。


肌寒い。

「ぶえっくしょい!」

「大丈夫ですか?」

間抜けなくしゃみから間髪入れず少年の声。
見やると華奢な、まだほんの子供に感じられる少年が膝を抱えて座りこちらを見ている様だった。
「様だった」というのは、彼の顔面はペストマスクの様なもので覆われ、一切の表情を読み取ることが出来ない為である。
よく見ると、顔面どころか全身一部の隙も無いほど着こまれていた。
それでもわかる線の細さ。
年の頃は中学生くらい。
髪はふわふわの、銀というよりは白。
耳かきに付いてる梵天の様だとぼんやり思った。



「あぁ、まだ傍に居てくれたんだね。」

上体を起こそうとゆっくり身体に力を入れる。
床にはボロボロの薄い毛布が敷いてあったが、毛布越しでもわかる小石や砂利の硬さとひんやりした感覚。

「ごめんなさい、火を熾して上げたかったんですけど煙が見つかるとマズいから・・・。」

申し訳無さそうな少年。

"煙が見つかるとマズい?"

誰に見つかるとマズいのか、どうマズいのか。
戦時でもあるまいし。

ん、いや、もしかしてウルとかいったこの場所は戦争真っ只中なのか?

わからない事が多すぎる。
ひとまずこの場で唯一の情報源である少年から情報を得る事にしよう。

「オレの名前は於東、君は何て呼べば良い?」

「ボクはクレインといいます。おにいさん、じゃなくておとうさん、なんですね。」

自分の駄洒落でクスクスとあどけなく笑う少年クレイン。
オレなら空気を凍らせる自信がある。





「・・・なる程。戦争じゃなく君自身が追われている身である、と。」

「はい・・・。」



こんな年端も行かない少年が追われてるなんて。
少年クレインが何をして追われているのかも当然気になる。

「ごめん、言いたくないなら良いんだけど」

「人を、殺してしまって。」

食い気味で放たれたクレインの言葉に一瞬心臓が飛び跳ねる。


「え?」


こんな少年が・・・人殺し?

「殺さないと、殺されてたから・・・。」

重いトーンでぼそりと呟くクレイン。



「襲われたから反撃して、止むを得ず殺しちゃったって事かい?」

今度はオレが食い気味に。
それなら正当防衛で、と言いかけた矢先


「いえ、

死んで欲しかったので。」

サラリと返って来た氷の言葉。




どういう、こと??

「大丈夫です。万が一見つかって襲われたとしてもおとうさんはボクが守ります。」

更に上乗せどういう事???


自称人殺し中学生に守られて異世界転生おじさんの冒険の始まり始まりである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

処理中です...