異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ

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第3章  新しい試み

18話

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1階の、カフェスペースに戻ってから、本来の目的であるジャムの納品を行った。
これでようやく開店の見込みが出来た、暫くは商品の試作品を考えるのだそう。

「楽しそうだね」
「あ、ハロルド」

そんな話をしていると、ハロルドがやってきた。例の子の様子を見に来たのと、これからどうするのかの案が出たので話に来たのだそうだ。

「まずは、信頼出来る預け先を探すことかな。読み書きは後回しにしても、喋れるようになる必要もあるし」
「え、あの子、喋れないの?」
「そうみたい。なんて言えば1番いいかな…そう、言葉を持っていないんだよ」

どういう事なのか。詳しく話を聞けば、数日前の事。
やって来たと言う知らせを受けて探せば、路地裏に蹲っていて、声をかければまるで動物が吠えるような声を発したのだと。
警戒も強くて近づけず、その場での保護は諦めたが、同日の夕方、再び行けば同じ所で変わらず蹲りつつも辺りを警戒していて、けれど、腹の虫が盛大な音をたてた。
それを聞いて、近くの店で簡単に食べれる物を買って与えれば、なんとか保護する事ができた。

そして、会話が出来ない事に気がついたのは、そのすぐ後だった。
名前は(あるかすらも)不明。名前が分からないと、能力を馴染ませることが出来ない…と、今に至る。

「で、リック君が仮で預かってるんだね」
「そ。何でリックなのかは…聞いたみたいだね。何にせよ、あれだけ小さな子が来ることなんて今まで無かったみたいだから、どうするか話し合いしてきたとこ。で、まずは正式に保護者を用意する所から始めようかって。ん?」
「ん?」

説明の途中、ハロルドが何かに気が付いて目線を下に向けた。
何だろうと思ってその目線を追って見たら、膝上あたりにギュッと抱き着かれた感触がして、思わず「ひゃっ!?」と声が出た。

「な、何!?って…」

いつの間にやら、先程の子が足元にいて、ココロの足に抱きついている。
ココロの猫耳より少し大きな三角の耳…キツネあたりだろうか…をピクピクとさせている。
そして、先程もちらりと見えた、頬の辺りに生えているであろうヒゲが、太ももに擦れてくすぐったい。
なぜこんな日に限って、ショートパンツを履いてきてしまったのか。こんな事になるなんて、想像着くはずもない。

「ふむ…」

くすぐったいから離れて欲しいのだが、必死な様子を見て離れさせることは出来ず、そんなココロの心情は露知らず、ハロルドはその子とココロを見比べている。

「うん、決まりだね」
「な、何が?」

何がと聞いてはみたものの、答えは分かりきっている。
何せ、今の今までその話をしていたのだから。

「この子の保護者役、よろしくね」
「デスヨネー」



そんなこんなで、幼子を預かる事になった。
警戒心が強い子が、初対面の相手に懐いた。それ以外の理由は、必要ないだろう。
一緒に馬車に乗って、家路を行く間、しがみついて離れない子を片手に、今現在分かっている情報を確認する。

先ずは女の子である事。推定年齢は4、5歳。
元いた世界は恐らく獣人かそれに近い種族がいて、彼女もそれだと言うこと。
理由は耳。
ココロは、自分の耳に1度触れて、彼女のそれと同じ位置をそっと触る。…無かった。
つまり、この三角耳は最初からあった物で、耳としての機能を持っているという事。

ココロ自身を含め、今出会ってきた能力持ちの人の耳は、飾りに近い。
神経は通っているので軽く動かしたり出来るし、元の動物の意思が軽く残っている場合もある。
ただし、それだけ。
耳の機能は、元々の耳が担っている。

彼女のようなパターンは、今までにいなかった訳では無いけれど数少ないけれど、全くいなかった訳では無いそうだ。
だけど、居た以外の情報は詳しく残っておらず、なんの参考にもならなかったようだ。
ひとつ言えることは、やはり子供が来たことは初めてと言うことだけだった。

いつの間にか、ココロの膝に頭を乗せて寝息をたてている。
警戒していて、あまり眠れていなかったのだろうか。
馬車の揺れをゆりかごにして、気持ちよさそうだった。


暫く馬車に揺られていれば、家にたどり着く。
馬車を降りれば、いつものようにわーっと妖精達がやってくるが、人差し指でしーっと示せば、全員が全員手で口を覆っている。
すぐに、ココロに抱き抱えられている存在に気がついた。

「ココロー、だーれー?」
「だーれー?」

まるで、ユキを連れてきた時と同じような反応にクスリと笑みがこぼれる。
起こさないように2階に上がり、ベッドへ寝かせて、静かに階段を降りる。

「気持ちよさそうに寝てるから、皆静かにね。えーっとユキは…」
「ユキ、さっきまであそんでたから、ねてるー」
「んー?あ、ホントだ。こっちも気持ちよさそう」

妖精達とめいっぱい遊んだのだろう。小さな体をでろーんと伸ばしきった体制で猫ベッドで気持ちよさそうに寝ていた。
これなら暫くは静かにしてくれているだろう。
その間に軽く食事を済ませて、キッチン周りの整頓をする。午前中にジャムやらクッキーやら、色々作った名残だ。

あらかた片付いた所で、冷蔵庫からクッキー生地を取り出す。
端から均等に切っていき、鉄板に並べて余熱したオーブンで焼けば、ふんわりいい匂いが漂ってきた。 

「ん?」

粗熱が取れたクッキーをお皿に並べていれば、2階から物音が聞こえてきた。
起きたのだろうか。迎えに行こうと動き出した時には、もう階段を駆け下りて来る音が聞こえて、再び抱き着かれた。

「わっ。おはよう、よく眠れた?」

すがりついてくるその手を軽く引き離し、すぐに屈んでその小さな身体を腕の中に引き入れる。
顔を覗き込めば、最初は不安そうな表情だったものの、すぐに安心して表情を和らげた。

「ちょうどオヤツにしようとしてた所だよ。一緒に食べよう」

その子には牛乳を、自分に紅茶でも入れようと手を離し立ち上がれば、離れたくないと再びすがりついてきた。
瞳を潤ませてこちらを見つめられれば、ここで待っていてとは言えなくて。
とりあえず抱き上げて、なんとか片手を使って牛乳と紅茶(ミルクティー)を用意した。

「皆、オヤツにしよう」
「はーい!」
「あ、そのこおきたのー?」

テーブルに飲み物を置きながら妖精達に声をかけると、すぐに集まってきた。
椅子に座って、そのまま膝の上に乗せたその子は、集まってきた妖精達に、視線を向けている事に気がついたのは、それからすぐだった。
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