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7 王の命を守れ
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武術大会の間、俺は気もそぞろであった。
無理もないだろう。敬愛する王が凶刃に斃れるか否かの瀬戸際なのだ。目の前の剣戟に集中出来ないのもむべなるかな。
それ故、俺は情けなくも二回戦で当然勝てるはずの相手に敗北を喫した。
「これが妖精人の征服者の腕前か?」
「具合でも悪いのか?」とウーゼル王が気にかけてくださるのは光栄の極みだが、俺としては寧ろ貴方の命の方が気がかりだ。
そして、夜になった。
「こんばんは、ラルク様」
俺とアデライードは、辺境伯の屋敷の入り口で待ち合わせた。
彼女は深緑色の素朴な長衣を身に纏い、鞘に入った剣を抱えている。
「しかし……それ、使えるのか?」
俺は彼女の持つ剣を指し示す。
女が剣を持って戦えるとは思わなかった。女は男よりも弱いのだから。
「ええ。愛人としてラルク様のお役に立てるよう、王軍長から一通り仕込まれました。足手まといにはなりません」
アデライードが言うには、愛人というものは夜伽以外にも主人の役に立てるよう、何か一芸を教え込まれるのが習いだという。その一芸が彼女の場合武芸と軍略なのだそうだ。
確かに、我が父上オズワルドの愛人アマラスンタも毒薬等薬に詳しかったな。
「では、あてにして良いな?」
「お任せください」
王の寝所は、屋敷の敷地内の離れにあった。
出入り口を二人の戦士が守り、警備は完璧。
俺たちは彼らに話しかける。
「今夜、王のお命を狙う賊が来る。警戒せよ」
で、俺たちは賊の身柄を拘束したい。賊は後方から侵入するだろうから、貴殿らは何も知らないふりをして警備を続けて欲しい。
警備兵たちは納得してくれた。
俺たちは、離れの後方にある窓を臨む茂みに、身を潜める。狼のように。
……。
…………。
(来ませんね……カール)
気付けば、月は天頂を過ぎていた。
日付が変わったというのに、ウーゼル王の命を狙わんとする王司馬カールは姿を現さない。
来ないなら来ないで良いのかもしれないが、こちらとしては早々に賊の身柄は抑えておきたい。捕まえて、背後関係を聞き出して、王の暗殺謀議に加担した者どもを一網打尽にしなくては。
物音がした。
(静かに)
俺は目を凝らす。
辺境伯の館で客人の宿舎にあてがった棟の方から、人影がこちらに近づいてくる。
その者は、右手に短刀を握りしめ、見張りの兵の視界に入らないよう王の寝室たる離れの裏手の窓に近づいてくる。王司馬のカールだ。
王司馬のカールは挙動不審な視線を周囲に振りまきながら俺たちが潜む茂みの前を通り過ぎ、王の寝室の窓の扉に手をかけた。
今だ!
「そこで何をしている?」
俺とアデライードは茂みを飛び出し、下手人カールを挟んで退路を断つ。
明らかに動揺した様子だ。カールはしどろもどろになりながら応対する。
「……お、おお、ラルク殿じゃないですか。こんな夜更けにどうしましたか?」
「そちらこそ王の寝室の窓に手をかけて何をするつもりかな、カール殿? そのような抜き身を携えて」
俺は顎で彼が右手に握る短刀を指し示す。
「まさか、王のお命を狙っているとか?」
「……うおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
まさに図星。
王司馬カールは短刀の切っ先を俺に向け、猛然と突進してくる。最早彼の意図は誤魔化しは効かぬ。
王のお命を狙う賊はここで捕縛する!
「皆、賊よ! 王のお命を狙う賊よ!」
予め話し合っていた通りに、人々を呼び集めるべくアデライードが渾身の叫び声を上げる。
「ラルク様、仰る通りでしたな!」
まず王の寝所を守る護衛兵が駆け付ける。
彼らは、俺に短刀の白刃を突き立てようとする王司馬カールの頭頂部目掛けて、手に持つ槍の柄を振り下ろす。
「ごうっ!?」
会心の一撃。カールの刃は俺の腹に届くことなく、その主たるカールは前のめりに地面に突っ伏してしまう。
「アデライード、奴を取り押さえるぞ」
「はい、ラルク様!」
で、俺とアデライードはカールの身体を上から羽交い絞めにして、彼の行動を確実に封じる。俺はカールの背中に馬乗りになり、彼の両の腕を後ろ手に絞める。アデライードは彼の両の脹脛を抱え込み、動きの自由を奪う。
勝負あったな。
「最早貴殿の策謀は失敗に終わった。抵抗は無駄と知れ」
俺の冷たい声色が止めとなったのであろう。王司馬カールはこれ以上藻掻くことはしなかった。俺は悠々と余裕を以て彼から短刀を奪う。
そこに、王の臣下たちがようやく集まって来た。
無理もないだろう。敬愛する王が凶刃に斃れるか否かの瀬戸際なのだ。目の前の剣戟に集中出来ないのもむべなるかな。
それ故、俺は情けなくも二回戦で当然勝てるはずの相手に敗北を喫した。
「これが妖精人の征服者の腕前か?」
「具合でも悪いのか?」とウーゼル王が気にかけてくださるのは光栄の極みだが、俺としては寧ろ貴方の命の方が気がかりだ。
そして、夜になった。
「こんばんは、ラルク様」
俺とアデライードは、辺境伯の屋敷の入り口で待ち合わせた。
彼女は深緑色の素朴な長衣を身に纏い、鞘に入った剣を抱えている。
「しかし……それ、使えるのか?」
俺は彼女の持つ剣を指し示す。
女が剣を持って戦えるとは思わなかった。女は男よりも弱いのだから。
「ええ。愛人としてラルク様のお役に立てるよう、王軍長から一通り仕込まれました。足手まといにはなりません」
アデライードが言うには、愛人というものは夜伽以外にも主人の役に立てるよう、何か一芸を教え込まれるのが習いだという。その一芸が彼女の場合武芸と軍略なのだそうだ。
確かに、我が父上オズワルドの愛人アマラスンタも毒薬等薬に詳しかったな。
「では、あてにして良いな?」
「お任せください」
王の寝所は、屋敷の敷地内の離れにあった。
出入り口を二人の戦士が守り、警備は完璧。
俺たちは彼らに話しかける。
「今夜、王のお命を狙う賊が来る。警戒せよ」
で、俺たちは賊の身柄を拘束したい。賊は後方から侵入するだろうから、貴殿らは何も知らないふりをして警備を続けて欲しい。
警備兵たちは納得してくれた。
俺たちは、離れの後方にある窓を臨む茂みに、身を潜める。狼のように。
……。
…………。
(来ませんね……カール)
気付けば、月は天頂を過ぎていた。
日付が変わったというのに、ウーゼル王の命を狙わんとする王司馬カールは姿を現さない。
来ないなら来ないで良いのかもしれないが、こちらとしては早々に賊の身柄は抑えておきたい。捕まえて、背後関係を聞き出して、王の暗殺謀議に加担した者どもを一網打尽にしなくては。
物音がした。
(静かに)
俺は目を凝らす。
辺境伯の館で客人の宿舎にあてがった棟の方から、人影がこちらに近づいてくる。
その者は、右手に短刀を握りしめ、見張りの兵の視界に入らないよう王の寝室たる離れの裏手の窓に近づいてくる。王司馬のカールだ。
王司馬のカールは挙動不審な視線を周囲に振りまきながら俺たちが潜む茂みの前を通り過ぎ、王の寝室の窓の扉に手をかけた。
今だ!
「そこで何をしている?」
俺とアデライードは茂みを飛び出し、下手人カールを挟んで退路を断つ。
明らかに動揺した様子だ。カールはしどろもどろになりながら応対する。
「……お、おお、ラルク殿じゃないですか。こんな夜更けにどうしましたか?」
「そちらこそ王の寝室の窓に手をかけて何をするつもりかな、カール殿? そのような抜き身を携えて」
俺は顎で彼が右手に握る短刀を指し示す。
「まさか、王のお命を狙っているとか?」
「……うおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
まさに図星。
王司馬カールは短刀の切っ先を俺に向け、猛然と突進してくる。最早彼の意図は誤魔化しは効かぬ。
王のお命を狙う賊はここで捕縛する!
「皆、賊よ! 王のお命を狙う賊よ!」
予め話し合っていた通りに、人々を呼び集めるべくアデライードが渾身の叫び声を上げる。
「ラルク様、仰る通りでしたな!」
まず王の寝所を守る護衛兵が駆け付ける。
彼らは、俺に短刀の白刃を突き立てようとする王司馬カールの頭頂部目掛けて、手に持つ槍の柄を振り下ろす。
「ごうっ!?」
会心の一撃。カールの刃は俺の腹に届くことなく、その主たるカールは前のめりに地面に突っ伏してしまう。
「アデライード、奴を取り押さえるぞ」
「はい、ラルク様!」
で、俺とアデライードはカールの身体を上から羽交い絞めにして、彼の行動を確実に封じる。俺はカールの背中に馬乗りになり、彼の両の腕を後ろ手に絞める。アデライードは彼の両の脹脛を抱え込み、動きの自由を奪う。
勝負あったな。
「最早貴殿の策謀は失敗に終わった。抵抗は無駄と知れ」
俺の冷たい声色が止めとなったのであろう。王司馬カールはこれ以上藻掻くことはしなかった。俺は悠々と余裕を以て彼から短刀を奪う。
そこに、王の臣下たちがようやく集まって来た。
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