たしかなこと

大波小波

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 ウェイターの名は……、白洲 沙穂(しらす さほ)。
 霞む目で、真輝は彼のネームプレートを見た。
「白洲くん、実は胸が苦しく具合が悪い」
「では、すぐに救急車を手配いたします」
「それには及ばない。そういう類の悪さではない」
「でも……」
「何か飲み物を、頼む」
 かしこまりました、と沙穂は真輝から離れていった。
 あの香りが、遠くなる。
 心を温かくする、あの香りが。
 途端に、再び悪寒がしてくる。
(白洲くんの匂いには、何らかの浄化作用があるのか?)
 顔もまともに見ていない。
 そこまで首をあげる余裕が、なかった。
 情けなく、下を向いたままの真輝の傍らに、人の立つ気配がした。
 優しい、あの香りと共に。
「カモミールティーを、お持ちしました」
「すまない」
 真輝は、少し上を向いた。
 するとそこには、心配そうにこちらを覗き込んでいる青年の顔があった。
 白い肌に、柔らかい栗色の髪。
 垂れ目がちな、優しいまなざし。
 やや控えめな、だがすっと通った鼻に、薄めの唇。
(何だ、白洲くん。美しいじゃないか……)
 こんな体たらくでなければ、口説きたいところだ。
 だが今の真輝は、お茶を飲むことで精いっぱい。
 カチカチと音を鳴らしながらカップを手にすると、一口飲んだ。

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