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しおりを挟む士郎のマンションで、秀実は台本を読んで溜息をついた。
「どうでしょう。僕、うまく演技できるでしょうか」
「上手くやろう、なんて思わないことが、秘訣じゃないのか?」
それはそうと、と士郎は秀実にポートワインのグラスを差し出しながら言った。
「ミチルくんも、二次選考通ったらしい。電話があったよ」
「ミチルさんが」
彼の名を聞くと、途端に胸がざわめく秀実だ。
(どうしよう。訊いちゃおうかな、ミチルさんとのこと)
ミチルさんと過去、何かあったんですか?
もしかして、恋人同士だったんですか?
「秀実、もしかして、妬いてくれてる?」
「え!? いえ、いや、そんな!」
でも……。
「でも、気になります。士郎さんと、ミチルさんのこと」
秀実の声は、細かった。
そんな彼に、士郎は心配するな、と。
勘繰らないで欲しい、と答えた。
「ミチルくんと私は、共演者。それ以上でも、それ以下でもないよ」
「ホントですか」
「ただ、ミチルくんから、付き合って欲しい、と言われたことはある。断ったけどね」
「なぜですか?」
「だって、彼氏がいたんだよ? ミチルくんには。二股かけさせるわけには、いかない」
「そうですか……」
それだけだ、と士郎は秀実のグラスに自分のグラスを軽く当てた。
(士郎さんを、信じよう。どっちにしろ、僕には士郎さんしかいないんだから)
秀実は小さく微笑むと、ポートワインを口にした。
「私には、秀実しかいないよ」
「……!」
(僕の心の声、士郎さんに聞こえちゃったのかな!?)
甘いポートがさらに甘くなるような、士郎の言葉だった。
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