フラン

1 テレビ、恥ずかしい！

　テレビ収録の本番前、秀実はミチルの楽屋を訪れていた。
（どんな人かな。優しい人だといいな）
　ノックをし、どうぞ、との声に、ドアを開けた。
「あの、お邪魔してすみません。僕、今日ゲスト出演する、秀実です」
「そう。よろしく」
　椅子に掛けたまま振り向いたミチルは、美しかった。
　白い肌に、切れ長の目。
　形のよい鼻に、薄紅の唇。
　そして、大人の雰囲気をまとっていた。
（垢抜けてるなぁ。まさに芸能人って感じ）
　秀実は一瞬その姿に見蕩れたが、すぐに手にした花束を差し出した。
「これ、うちの事務所からです」
「ありがとう。そこに置いておいて」
　必要最小限の返事に、秀実は思いきって言ってみた。
「うちの事務所の、近藤からです」
　そこで初めて、ミチルに表情が現れた。
　華やぐ笑顔。
　椅子から立って、花束を大切に抱えた。
「士郎さんから？　ありがとう」
（士郎さん、って名前で呼んでる！？）
　秀実の胸の内が、途端にざわめいた。
　やはり、二人は深い仲だったんだろうか。