両片思いのI LOVE YOU

大波小波

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 空き時間をスマホで遊ぶ習慣のない瑠衣は、もっぱら道行く人々を眺めていた。
 ビジネスマン風の男性、着飾った女性、家族連れに、老夫婦に、制服のカップル。
 みんな、幸せそうに見えた。
 みんな、自分より優れた人間に見えた。
「ダメダメ。寿士さんも言ってた。自分に自信を持て、って」
 瑠衣は、背筋を伸ばして前を見た。
「ん?」
 そこに、一人の老人が歩いて来た。
 春の陽気にはまだ気の早い、派手なアロハシャツ。
 白髪は長く伸ばして、ひとつに結んで後ろに流してある。
 茶色のサングラスに、赤いステッキ、NIKEのシューズ。
「カッコいい、お爺さんだなぁ」
 颯爽と歩いていた老人だったが、歩道の段差に足を取られて急に転んだ。
「あ!」
 瑠衣は、老人を見守っていた。
 すぐには起き上がらず、足首を押さえている。
 とても、痛そうだ。
「だ、誰か……」
 しかし、道行く人は誰も老人に目もくれない。
 すぐ横を通っても、声もかけないのだ。
 瑠衣は、時計を見た。
「4時50分」
 多分、もうすぐ寿士さんがここに来る。
 でも。
「でも……!」
 瑠衣は、老人の傍に駆け寄っていた。

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