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「いつも、私のために腕を振るってくれてありがとう。でもな、杏。今度はその腕を、自分のために使ってみないか?」
「自分のために、ですか」
 そうだ、と真はうなずいた。
 これだけの料理の腕があれば、社会的にも認められる。
 お金も稼げるし、名誉だって手に入る。
「杏は、強くなれる。みんなが、君を認めてくれるんだよ」
「何だか、夢みたいです……」
 あまりのサプライズに、ぽうっとしている杏だ。
 だが、はっきりと自分の考えだけは述べた。
 絶対に譲れない、信念だけは伝えた。
「でも、僕が一番お料理を作ってあげたいのは、真さんですからね」
「杏、君は」
「レストランで働いても、真さんの御飯作るのは、やめませんから!」
「ありがとう、杏」
 よし、と真は晴れやかな声を上げた。
「まずは、メニューの検討からいこうか!」
「待ってください、真さん。このレストラン、和食ですか、洋食ですか?」
 それには、おじいちゃん先生が頼もしく杏の肩を叩いた。
「和洋中、何でも出そうじゃないか。皆の好きなものが食べられる、そんな店にしよう」
「ありがとうございます!」
 慌ただしく動き始めたスタッフの中で、真は杏の手を強く握った。

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