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 旧庭園は、この北陽高校が新しく建て替えられる前からある、和風庭園だ。
 古い校舎と共に処分するのは惜しい、と庭園だけ残された。
 そして、そこに育つ大きなクロマツの木は、樹齢300年と伝えられる名木だ。
 旧庭園は離れにあるため、あまり人は赴かないが、クロマツの存在は誰もが知るところだった。
 だがしかし。

「なぜ俺が、今からクロマツまで、行かなきゃならんのだ!?」
「行けば、解るから!」
「……また何か、企んでいるな?」
「いや、これは、その。行けば海江田クン、ハッピーになれるよ!?」
 くだらん、俺は帰るぞ、とバッグを持ち直した弦に、坂井は畳みかけてきた。

「そこに、河島クンが待ってるとしても!?」
「何で千尋が、クロマツで俺を待ってるんだ!?」
「卒業式なのよ? 可愛い後輩と、特別なお別れとか、したいと思わない?」
 話の流れから見ると、また坂井が余計なおせっかいをしたようだ。
 しかし彼女の悪だくみも、これが最後かと思えば微笑ましい。

「ありがとう、坂井」
「どういたしまして!」
 教室から去って行く弦の背中を、坂井は笑顔で見送った。

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