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しおりを挟む「ん……」
起きてすぐの、ぼんやりした頭のまま、千尋は額に手をあてた。
やっぱり。
思ったとおり、熱はすっかり下がっている。
「あぁ、もう!」
これが昨日ならよかったのに!
そしたら、先輩と一緒に遊園地に行けたのに!
「仕方ないな」
曲がった事の嫌いな先輩が、学校をサボるなんて許してくれるはずもない。
隣のベッドには、すでに弦の姿はなかった。
先に、起き出しているらしい。
ごそりと、千尋は枕元の時計を探って手に取った。
昨日から寝てばかりいたので、時間感覚がおかしくなっている。
今、何時だろう……。
「8時27分!?」
8時30分までには、登校しなくてはいけないのに!
バタバタと慌てる千尋に気づいたのか、弦が寝室を覗きにやってきた。
「千尋、目が覚めたか」
「先輩、どうして起こしてくれなかったんですか!? もう完全に、遅刻ですよ!?」
「学校は、サボる。担任の先生には、二人とも風邪をひいたと電話したからな」
「なッ!?」
口をパクパクさせる千尋に、弦は小首をかしげて見せた。
「行きたくないのか? 遊園地」
「……弦先輩!」
ぱあっと晴れた千尋の笑顔に、弦は照れくさそうに笑って見せた。
「早く起きて来い。飯の仕度は、できてるぞ」
「ありがとう! 先輩!」
体の熱は下がったが、心の熱はぐんぐん上がってきている。
弾む心地で、千尋はすっかり寝飽きたベッドから飛び降りた。
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