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1話 何だか意識してきちゃった
しおりを挟む「技あり!」
体育教師・田中の、張りのある声が道場に響く。
そのジャッジに、弦は体から力を抜いた。
「合わせて一本!」
がっちり決められていた関節が自由になると、弦の腕に痺れがやってきた。
彼から技を解き、立ち上がったのは、青藍学園柔道部の主将・高橋だ。
一瞬目が合ったが、主将はすぐに開始線に戻っていく。
そこには自分の強さを誇示する色も、弦をあざける態度もない。
(さすが、心技体を兼ねそろえた、高橋主将だ!)
弦は、負けを潔く認めた。
二人、開始線に戻り、襟を正す。
審判の高く上げた腕が、高橋の方に向けられた。
「高橋!」
どよめきが起こり、固唾を呑んで見守っていた青藍学園柔道部員たちが、歓喜の声を上げた。
OB・田中先生が連れてきた、北陽高校の海江田 弦。
あそこの柔道部は確か、弱小だったはず。
そこの、しかも初心者だという弦が、一年生からすべて一本勝ちを奪った時から、彼らの焦りは始まっていた。
二年生が次々と負け始めた時から、彼らの危機感は強まっていった。
このままでは、50人以上いる柔道部員が、無名の初心者に全滅させられてしまう!
三年生までぽつりぽつりと負け始めたとき、さすがに田中は困った。
確かに当初は、弦に柔道の面白さを知ってもらおうと考え、強豪の青藍学園まで引っ張ってきた。
しかし、肝心の部員たちに自信をなくされては、申し訳ない。
まもなくインターハイを控えていることもあり、ここで士気が下がっては台無しだ。
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