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 千尋が帰宅すると、弦の姿はリビングにはなかった。
 そっと寝室のドアを開けてみると、彼は布団を頭からすっぽり被って、丸くなっている。
「弦先輩」
 返事がない。
 怒ってるんだろうな、とため息をつき、一言だけ告げた
「ごめんなさい、先輩」
 そして寝室のドアを閉め、その場を後にした。

 キッチンのテーブルには、弁当が二つ置かれていた。
 今日は撤収作業で遅くなることを見越して、弦が夕食にと買っておいてくれたに違いない。
(優しいな、弦先輩)
 だけど、その優しさに触れることができるのは、これが最後かもしれない。
 千尋は、うなだれた。

 女装なんて、恥ずかしい格好を見られてしまった。
 相部屋を、追い出されてしまうかも。
 泣くまいと思っても、涙がにじんできてしまう。
 せっかく、先輩と一緒に暮らせるようになったのに。
 ぽろり、と涙が一粒こぼれたところに、弦がリビングへと起き出してきた。


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