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しおりを挟むしかし、千尋は動けなかった。
弦の体温は、匂いは、その胸の中の心地よさは、あまりに鮮烈だった。
「来ちゃダメだ、って言ったのに」
(でも、やっぱり来てくれたんですね。先輩)
千尋の声に、弦はようやく正気に戻った。
「ちッ、千尋! 何を考えてるんだ!? そんな格好で!」
「ごめんなさい、弦先輩!」
だが、そんな格好の千尋に、思わず抱きついてしまった自分がここにいる。
ただ動揺し、後が続かない弦の耳に、妙な裏声が響き渡った。
「河島、キスだ! 先輩に、キスしろ!」
ぎょっとして振り返ると、いつの間にか女装男子が現れ、囃し立てている。
そうこうするうちに、セーラー服やら魔法少女やら、バニーちゃんやらが集まって来て、いっそう騒ぎを大きくする。
「キ~ス! キ~ス! キ~ス!」
弦が千尋に目をやると、怒るどころか頬を染めてうつむき、もじもじしているではないか。
「ばッ、馬鹿もん! いいかげんにせんか!」
人垣を無理やり割って、弦は逃げ出した。
頭の中は、千尋の姿でいっぱいだ。
メイド服、赤く染めた頬、恥らう仕草。
そして、この上キスまでされてしまっては……。
(後戻りできなくなる!)
その日、弦は早退した。
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