カンバスに想いを込めて ～不幸なオメガを救い上げたのは……極道アルファ！？

7

　樹里に背を向けたまま、徹は語った。

「今は時代が変わった。先代は暴力団の看板を下ろし、不動産と金融業の会社を設立させ、私はそこの二代目だ」

　しかし、先々代からのヤクザの看板を下ろしたつもりはない、と言う。

「君に、この彫り物が触れるか？　樹里くん」
「……」

　恐々と、樹里は身を乗り出した。

　美しい。
　体中に施された刺青は、樹里にとっては畏怖の対象ではなかった。
　それは、まさに極上の美術品。
　溜息をつき、樹里は指先で竜の輪郭をたどった。
　針を深く入れるために、皮膚が盛り上がって見えるそれは、生きているかのようだ。

　徹はそれに満足したように、樹里の頭に手を乗せた。

「契約成立だ」

　徹は衣服を整えると、再びソファに掛けた。

「私に尽くしてもらう、とさっき言ったが。できるね？」
「はい」

　では、と探るような目を、徹は樹里に向けて来た。

「客は、私一人。樹里くんには、私だけの売れっ子になってもらおう」

　その言葉に、樹里は徹が自分に何を求めているかを、悟った。
　
　実の弟の、慰みものになるより。
　風俗で、大勢の客を相手にするより。
　
（憧れだった、常連のお客さんに。綾瀬さんだけに、尽くせるのなら）

「はい」

　短い返事だったが、樹里の決意はしっかりと固まっていた。