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しおりを挟む思いがけない紫織の申し出に、達夫はひどく喜んだ。
「いいとも! 良かったら、いつまででも居てくれ!」
「ありがとうございます」
そして紫織は、驚いている隼人の方へ向き直った。
「桐生や、その御両親が快諾してくれれば、の話だが」
「そ、それは。願ってもない話です。ですが、どうして?」
「自分なりに、いろいろ考えた末の、身の振り方なんだ」
達夫の傍で暮らし、戦中戦後の話を聞いて、執筆したい。
そして、後世に平和の大切さを伝えたい。
そう、紫織は語った。
「もちろん、高齢の達夫さんを一人にしておくのは心配、という気持ちが第一なんだ」
「私はまだまだ、元気だよ?」
「将棋のお相手も、したいし」
「それは確かに、嬉しいね!」
同世代の高齢者と比べれば、格段に健康で元気な達夫だ。
しかし、それでも隼人の両親は毎日、朝昼晩とメールを寄こすし、可能ならば電話をしている。
隼人は、うなずいた。
「両親には、私から話します。吉永さん、祖父をよろしくお願いします」
「その、吉永さん、だが。そろそろ、紫織さん、とでも呼んでくれないか?」
紫織、でもいい。
そう話す紫織の顔つきは、出会った時とはまるで別人のように、穏やかだった。
「よっしゃあ! おい、紫織ぃ!」
「比呂は、馴れ馴れしい!」
「紫織でいい、って言ったじゃん!?」
笑いが起こり、場は再び和みのひとときを迎えた。
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