時の舟には二人で乗ろう~自分を隠して偽り生きるイケメン俳優とモフモフあやかし少年は、愛を通して心を取り戻す~

大波小波

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 瘦せ細り、気力も失っていたその時、紫織は隼人の曽祖父に出会った。
 逃げることができないほど、衰弱しているのだ。
 紫織は、初めて死を覚悟した。
 もうダメだ。
(こいつも、こんなに痩せていやがる。服装からして、復員兵か……)
 腹をすかせた人間に、このまま捕まり、殺される。
 しかし、その痩せた男は、紫織の前へ静かにしゃがんだ。

『君も、ずいぶん痩せているなぁ』
『……』
『きっと、ひどい目に遭ったんだね』
『ミュゥ』
『お腹が空いてるだろう? これ、食べるかい?』
『……ニャ?』

 隼人の曽祖父は、肩から下げていたボロボロの鞄から、缶詰を出した。
 輸送艦で配給された、小さなコンビーフの缶詰だ。
 持っていた最後の缶詰を、彼はそこで開けた。
 罠かもしれない。
 紫織は、そう考えなくも無かった。
 しかし、肉の缶詰を目の前に出されると、正気を保つことなどできなかった。
 缶に顔を突っ込み、貪り食った。
 隼人の曽祖父は、ただ微笑みながら、それを見ていた。

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