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 思いがけない昼寝から目覚めると、瑞樹の隣に誠の姿はなかった。
 起き出した瑞樹は部屋を出て、記憶をたどって屋敷内を歩いた。
 外へ出ると日差しが眩しく、空がやけに青い。
「あれは。あの時の叶さんの言葉は……」
 夢、ではないだろう。
 自分は現に、彼の寝室のベッドで眠っていたのだから。
 瑞樹は、そわそわしながら残りの勤務を片付けた。
 そして。

 夜が来た。
 夜が来てしまった。
「どうしよう……」
 瑞樹は、誠の言葉と自分の返事に困惑していた。

『夜は、付き合ってもらうよ』

「あぁ! それで僕、はい、って言っちゃったんだ!」
 誠のことは、好きだ。
 穏やかで、クールで。
 父のように、激情に任せて振舞うことなどない誠を、瑞樹は信頼していた。
「でも、だからって……」
 やはり、そわそわしながら食事を終え、シャワーを浴びた。
 パジャマになったその時に、瑞樹の部屋のドアがノックされた。
「は、はいッ!」
 誠が来たのかと思ったが、入って来たのは石丸だった。

「白川さん、若様がお呼びです」
「やっぱり……!」
 僕、叶さんとエッチしなきゃならないんだ。
 うなだれていると、石丸が静かに声をかけて来た。
「どうか、若様をよろしくお願いします。そのお心を、慰めてあげてください」
「えっ?」
 どちらかと言えば、慰められたのは僕の方なのに。
 誠は、悲しく辛い話を聞いてくれた。
 優しく、髪を撫でてくれた。 
 瑞樹は石丸の言葉を不思議に感じたが、ボスの命令には従わなければならない。
 瑞樹はパジャマのまま、誠の部屋へ向かった。

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