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 それから1か月後、瑞樹は大学を中退した。
 柔道部は辞めたが、あの時の4年生たちが、彼につきまとうようになったからだ。
 もう一回、ヤらせろ、というわけだ。
 それだけは死んでも嫌だった、瑞樹だ。
 残された道は、逃げること。
 彼らの手が届かないよう、大学を離れるしかなかった。

 もちろん、勝手に退学した瑞樹に、両親は怒りをあらわにした。
 大声で怒鳴り、説教し、別の大学に入学し直せと、命じてきた。
 苦しみも悲しみも、ただ受け止めて耐える瑞樹は、兄の言葉を思い出した。

『我慢できなくなったら、遠慮なく連絡しろよ。すぐに迎えに来るから』

「声を、聴くだけ。兄さんの、優しい声を聴くだけ、だから……」
 そんな思いで電話をした瑞樹だったが、兄は全てを察していた。
 両親から、彼が大学を辞めた、という愚痴は聞かされていたのだ。
 約束通り、兄はすぐに瑞樹を迎えに来てくれた。
 両親との間を取り持ち、瑞樹をこの暗い家から救い出した。

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