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「そう言えば。明日の午後、君の父上と会うことになっている」
「お父様と、ですか」
「竜造寺グループが、本格的に九曜貴金属へ融資することが決まったんだ」
「ありがとうございます!」
 良かった!
 これで会社が、家族が助かるんだ!
 悠希は満面の笑みをたたえたが、貴士の次の言葉に顔を引き締めた。
「悠希も来るか? 父上に会いに」
「いえ……。僕は、お父様とは会わない方が……」
 喜ぶと思っていた悠希の意外な返事を、貴士は不思議に感じた。
「何かあったのか? 父上との間に」
「僕、勝手にお兄様の代わりに、お見合いしたものですから。電話で叱られたんです」
「ふむ」
 しかし、と貴士は長い脚を組んだ。
「正直に言えば、悠希が婚約者でなければ、この話は無かった」
「なぜですか?」
「先だっても言った通り、君は私の恩人だ。だからこそ、融資をする気になった」
 だから、父上は君を叱ることなどできないはずだ。
 そう、貴士は言う。
「一緒に来るといい。父上も、私の前では君を叱ったりしないだろう」
「はい……」
 まだ心が委縮している悠希に、貴士は微笑んだ。
「父上に会うのが、怖いか?」
「はい」
 ここでも素直な悠希に、貴士は身を乗り出した。
「怖がりの悠希に、おまじないを掛けよう」
 そして、静かにキスをした。

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