金曜日の少年～「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく～

2

　伊織が駿以外の人間にチョコを貰ったように、駿もまた他の人間にチョコを貰っている。
　その事実は、伊織を動揺させた。
　駿が伊織の従者であることは、校内の人間なら誰もが知るところだ。
　それを承知の上で、駿にチョコを渡すとなると……！
（何て命知らずな！）
　お前たちは、この天宮司 伊織に挑戦状を叩きつけようというのだな！？
　心中穏やかでない伊織に、駿は澄んだ目を向ける。
「伊織さま？」
「ん？　ぅん。しゅ、駿も、なかなかやるじゃないか」
　それには、駿はため息をついた。
「僕には、伊織さましかいないのに。困ってるんです」
（駿！　よく言った！）
「それでこそ、駿だ」
　伊織は、駿の髪を撫でた。
「しかし……」
（私たちは、間もなく卒業する）
　伊織の心に、初めて不安が訪れた。
　卒業後、同じ大学に進むつもりで入る二人だが。
「万が一……」
（どちらかが不合格になったりしたら）
　学力においては、問題ないと踏んでいる。
「それでも……」
（不慮の事故や発病などで、試験を受けられなくなったり、とか！）
　伊織の頭は、不吉な思いで溢れかえりそうだった。