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以前に伊織から、卒業と同時に従者も解任する、と駿は聞いている。
今のような、自分と同じ待遇の人間に、激しい嫉妬を覚えることはないだろう。
(でも……)
大学へ進んだら。
新しい空気、新しい環境、新しい出会い。
伊織さまは、その出会いの中で、素敵な人を見つけるかもしれない。
『金曜日の少年』でなくなった僕は、どうすればいいんだろう。
伊織さまを繋ぎ止めておくことが、できるのかな。
(いや、伊織さまを束縛することなんか、誰にもできやしないんだ……)
ぽろぽろと涙をこぼす駿に、伊織は驚いた。
「駿、どうした?」
「ご、ごめんなさい」
あんなに勇ましかった駿が、急にしおれて泣きだしたのだ。
心配する伊織に、駿は懸命に笑顔を向けようとがんばった。
だが、涙が止まらない。
どうしても、悲しくゆがんでしまう、顔。
「いろいろ考えてたら、涙が出てきちゃって」
小さな声の駿に、伊織はただうなずいた。
「昼食にしよう、駿。お腹が満ちれば、思い悩むことなど無くなるよ」
さあ、と重箱を開く伊織だ。
食べさせてくれ、と唇を突き出した。
「はい」
箸を手にしようとする駿に、伊織は首を振る。
そして彼は、駿の口にアスパラガスを咥えさせた。
「以前もやったな、こんなこと」
「……」
口移しで、互いに料理を食べた。
のり巻卵に、鶏胸の酒蒸し。
生麩の肉巻きに、若竹煮。
交代で、命の糧を与え合った。
「……伊織さま」
「何だい?」
おいしい、とようやく笑顔になった駿に、伊織も笑った。
今のような、自分と同じ待遇の人間に、激しい嫉妬を覚えることはないだろう。
(でも……)
大学へ進んだら。
新しい空気、新しい環境、新しい出会い。
伊織さまは、その出会いの中で、素敵な人を見つけるかもしれない。
『金曜日の少年』でなくなった僕は、どうすればいいんだろう。
伊織さまを繋ぎ止めておくことが、できるのかな。
(いや、伊織さまを束縛することなんか、誰にもできやしないんだ……)
ぽろぽろと涙をこぼす駿に、伊織は驚いた。
「駿、どうした?」
「ご、ごめんなさい」
あんなに勇ましかった駿が、急にしおれて泣きだしたのだ。
心配する伊織に、駿は懸命に笑顔を向けようとがんばった。
だが、涙が止まらない。
どうしても、悲しくゆがんでしまう、顔。
「いろいろ考えてたら、涙が出てきちゃって」
小さな声の駿に、伊織はただうなずいた。
「昼食にしよう、駿。お腹が満ちれば、思い悩むことなど無くなるよ」
さあ、と重箱を開く伊織だ。
食べさせてくれ、と唇を突き出した。
「はい」
箸を手にしようとする駿に、伊織は首を振る。
そして彼は、駿の口にアスパラガスを咥えさせた。
「以前もやったな、こんなこと」
「……」
口移しで、互いに料理を食べた。
のり巻卵に、鶏胸の酒蒸し。
生麩の肉巻きに、若竹煮。
交代で、命の糧を与え合った。
「……伊織さま」
「何だい?」
おいしい、とようやく笑顔になった駿に、伊織も笑った。
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