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 制服の、袖の上から腕を噛み、駿は涙をこらえていた。
 嗚咽が漏れだすのを、こらえていた。
 そこへ、再び誰かが室内へ入る気配がする。
「伊織さま、私です。よろしいですか?」
「火曜日の少年、か」
 知らない声が、弾む。
 伊織がそれに応え、優しく話す。
 駿の胸の内で、何かが熱く燃え上がった。
(もう、ダメ。我慢できない!)
 思わず駿は、その場へ飛び出していた。
 以前の彼なら、しくしく泣いてやり過ごす所だ。
 だが、伊織と愛情を交わし続けた駿は変わっていた。
 決断力と、行動力。
 それに見合った胆力も、備わっていた。
 しかし、嫉妬に任せて荒れ狂うことはなかった。
 静かに二人の前に現れ、そのまま何食わぬ顔をして伊織の傍に立った。
 その姿に、火曜日の少年は少々驚いたようだったが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
 そして、駿の存在などまるで無視して、伊織に向き直った。
「これを、お受け取りください。ピエールマルコリーニです」
「うん、いいね」
 伊織はチョコを受け取り、それ以外のプレゼントを開けた。
 有名店に2時間並んだ、だの。
 ビターかミルクか悩んだ、だの。
 二人がある程度の会話を交わしたその時、駿が初めて口を開いた。


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