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 推し。
 確かに、伊織のことは大好きな駿だ。
 だがしかし。
「推し、とは少し違うような気がします」
「ふぅん?」
「推しなら、ワクワクするだけなんですけど。伊織さまのことを考えると、胸が痛くなる時があるんです」
「ほぅ」
 例えば、と駿は誰にも言えない秘密を、小声で篠崎に打ち明けた。
 まだ、発情期がこないこと。
 だから、伊織さまを満足させてあげられないこと。
 それでも伊織さまは、我慢して待ってくれていること。
 オメガ同士だからこそ言える、赤裸々な悩みだった。
「そうか。御影くんは、天宮司にすっかり参っちゃったんだ」
「どういう意味ですか?」
「もう、どうしようもなく愛してる、って意味だよ」
「そ、そんな!」
 愛、だなんて。
 僕は、伊織さまの従者で!
 確かに伊織さまは大好きだけど、愛だなんてそんな大げさな!
「愛してなきゃ、そこまで深く想ったり悩んだりしないよ」
「そう、ですか……?」
 誰かを愛するなんて、当たり前のことなんだよ、と篠崎は微笑んだ。
「発情期は、いずれ必ず来るから。だからあまり気にしないでいい」
「はい」
 むしろ、と篠崎は眉をひそめた。
 その時がいつ来るか、備えがあるか、が問題だ、と。



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