金曜日の少年～「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく～

6

　自分が不幸だとは思わないのか、と伊織は少し大きな声を上げた。
　しかし、駿は柔らかな笑みを浮かべるだけだ。
「僕は今、幸せです。こうして伊織さまにプレゼントを貰えて、菊を見て。一緒に食事まで、できて」
　何てささやか過ぎる幸せだ、と天を仰ぐ伊織だ。
「生まれてきた以上、君は幸せをつかむ努力をすべきだ」
　まるで自分のことのように、一生懸命になってくれる伊織に、駿は心を動かされていた。
（伊織さま、そんなに僕を心配してくれてるなんて……）
「では、頑張ってみます」
「その意気だ、忘れるな」
　伊織はその後、黙って食事に専念したので、駿も倣ってただ食べた。

　食事の後はオーディオルームで音楽を楽しみ、その後バスタイムとなった。
　確か、朝の話では、従者は伊織の背中を流すことになっている。
　自分の家より広い浴室に入り、駿は伊織に声をかけた。
「お背中、洗います」
「ああ、頼む」
　大きなバスタブから上がり、伊織は駿に背中を見せた。
　その背に、駿は息を飲むこととなった。
　二人の運命が、さらに複雑に絡まっていくきっかけになった。